ネイマール獲得、カタールW杯招致の陰で...「今そこにある疑惑」

ネイマール獲得、カタールW杯招致の陰で...「今そこにある疑惑」

  • Sportiva
  • 更新日:2018/09/24

オーナーズファイル(5)
カタール・スポーツ・インベストメンツ/パリ・サンジェルマン

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その発表はまるで、ナイトクラブのグランドオープニングのようだった。

照明が抑えられた会見場は記者で溢れかえり、派手な青のフラッシュと大音量の4つ打ちのビートが主人公を迎えようとしている。壇上に設置された大きなスクリーンがメッセージを告げる。そして、スーツに身を包んだブラジル代表FWが、パリ・サンジェルマン(PSG)のナセル・アル・ケライフィ会長と共に部屋に入ってきた。

「ようこそパリヘ、ネイマールJr.」

“華の都”のクラブは2017年8月、当代随一のアタッカーをバルセロナから獲得し、世間に披露した。その移籍金は2億ユーロをゆうに超え(2億2200万ユーロ:当時のレートで約291億円)、それまでの史上最高額の倍を軽く上回った。

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PSG入団の記者会見で、ケライフィ会長と握手を交わすネイマール photo by Getty Images

PSGはカタール・スポーツ・インベストメンツ(QSI)の持ち物だ。つまり、カタールという国家がオーナーである。アル・ケライフィ会長は、どちらも流暢なフランス語と英語で「世界中のヘッドラインを独占した」と言った。

「(この移籍は)長く語り継がれるものだ」

彼の言うとおりである。その数字は途方もない。ネイマールの獲得にPSGが費やした金額は、サラリーやボーナスなどを含めると、総額で5億ポンド(約743億6000万円)に達する可能性さえあるという。そのディールはすべて、カタールで考案されたものだ。中東の”スーパーリッチな湾岸国”は、世界のフットボール地図に存在感を示し始めている。

2011年、カタールは国家の投資機関であるQSIを通じてPSGを買収し、ネイマールの獲得も国家主導で進めた。ペルシャ湾岸に位置する小国はフットボールの最高位に居場所を求めているが、それは簡単なことではない。しかし、ネイマールを迎えたことで、そこにまた一歩近づくことができた。実力も人気も世界最高の選手を全盛期で迎えたことは、彼らが起こした”フットボールのクーデター”とも表現できる。

2000年代に入った頃、カタールのことを知っているフットボールファンは皆無に近かった。しかし実は、前首長のハマド・ビン・カリファ・アール・サーニのもと、天然ガスによって手にした莫大な資金を用いて、スポーツに巨額の投資を始めていた。

カタールは外交政策の基幹事業として、当時からスポーツに力を入れていた。大きな大会を開催し、膨大な額の投資をすることの目的はふたつ。ひとつは自国のイメージを高め、国際的な知名度を得ること。もうひとつは世界の先進国と等しい立場のパートナーであることを印象づけるためだった。

2004年にはエリート・アスリートの養成施設「アスパイア・アカデミー」を設立し、ゴルフやモータースポーツなどの主要大会も招致した。サッカーにおいては、カタールのプロリーグ「カタール・スターズリーグ」のクラブが、選手キャリアの終盤を迎えていたペップ・グアルディオラやマルセル・デサイーといったビッグネームを獲得。そして政府が出資するカタール財団とカタール航空が、バルセロナと巨額のスポンサー契約を結んだ。

もちろん、最大の成功は2022年W杯開催権の取得だが・・・・・・疑惑はある。2010年W杯のホスト国が南アフリカに決まったときと同じように、カタールにも疑いの視線は向けられているのだ。

2010年11月、つまりW杯開催地を決める投票の前に、カタールのシェイク・タミーム・ビン・ハマド・アール・サーニ皇太子(当時)とアル・ケライフィ、ミシェル・プラティニUEFA会長(当時)、そしてフランスのニコラ・サルコジ大統領(当時)がエリゼ宮で会合を持った。これについては、今でも疑惑が晴れていない。プラティニは一貫して、「カタールに投票するように頼まれたことは一度もない」と主張しているが、いずれにせよ、彼の票はカタールへ投じられた。

W杯開催権をカタールが手にすると、今度はPSG──サルコジ元大統領がひいきにするクラブだ──がQSIに買われた。さらに2014年にはbeINスポーツ(カタールの衛星テレビ局)がフランス国内のフットボールの放映権を10億ドルで契約。beINスポーツはその後、中東におけるプレミアリーグとチャンピオンズリーグ、2018年と2022年のW杯の放映権を次々に手中に収めた。

そのbeINスポーツを設立し、会長に収まっているのも、PSGのアル・ケライフィ会長だ。そして、QSIの創設者でフットボール好きなシェイク・タミームは、2013年に父からカタール首長の座を継承した。

現在、フランスでは腐敗撲滅を掲げる団体が、サルコジ元大統領とカタールの関係を調査している。そのなかには、当時結ばれた多くの契約も含まれている(サルコジはさらに、リビアの故ガダフィ大佐との関係についても、フランス警察から疑いを持たれている)。

また、スイスやアメリカでは、FIFAとその周辺の汚職事件に関する多くの調査が引き続き行なわれている。2018年、2022年のW杯開催権と、それに付随するテレビ放映権やマーケティング契約にも、サーチライトが当てられているのだ。もちろんカタールは一貫して、「間違ったことはしていない」と主張しているけれども。

ただし、カタールにとって、もっとも厄介な悩みは他にある。2017年6月、カタールは近隣諸国との国交が断絶されたのだ。伝統的なライバル国であるサウジアラビアとUAEの主導によって。名目上の理由は、「カタールがテロリズムを支援しているから」とされているが、おそらく本当の理由は、W杯招致などカタールの成功に対する妬みや、近隣諸国に不都合な報道をするアル・ジャジーラの存在にありそうだ。

サウジアラビア、UAE、エジプト、バーレーンの連合は、カタールに対して13の要求を提示している。当初、そのなかに2022年W杯に関するものはなかったが、最近になってUAEのアンワル・ガルガシュ外相が「2022年W杯を開催するカタールは、過激な思想やテロリズムの支援を放棄すべきだ」と言及し、その後こうつけ加えている。

「2022年W杯がテロリストや過激派の支援による悪評に汚されてはならない。カタールの方針は精査されるべきだ」

そんな四面楚歌の状況にも、カタールは屈していない。近年の天然ガスの高騰により約3400億ドル(約38兆5000億円)の余剰金を得た彼らは、2017年の夏にバルセロナからネイマールを、モナコからキリアン・ムバッペを獲得した(ムバッペの最初の1シーズンはローンで、今夏に正式契約)。

カタールは巨額を投じてネイマールやムバッペを獲得し、世界の視線をそらそうとしたようだが、その効果のほどは定かではない。スイスの法務省は、W杯のテレビ放映権をbeINスポーツが手にするために、アル・ケライフィが当時のFIFA事務局長であるジェローム・バルクに”袖の下”を渡した容疑で調査していることを発表。むろん、アル・ケライフィとbeINスポーツ側は断固否定している。

この調査のニュースは当然、カタールのW杯開催に反対する者や団体、そして国交を断った周辺諸国によって、世界に拡散された。カタールはかくもさまざまな問題を抱えている。世界でもっとも高額な選手がどれほどゴールを決めたとしても、それらの解決までには至らないだろう。

■著者プロフィール■
ジェームス・モンターギュ

1979年生まれ。フットボール、政治、文化について精力的に取材と執筆を続けるイギリス人ジャーナリスト。米『ニューヨーク・タイムズ』紙、英『ワールドサッカー』誌、米『ブリーチャー・リポート』などに寄稿する。2015年に上梓した2冊目の著作『Thirty One Nil: On the Road With Football’s Outsiders』は、同年のクロス・ブリティッシュ・スポーツブックイヤーで最優秀フットボールブック賞に選ばれた。そして2017年8月に『The Billionaires Club: The Unstoppable Rise of Football’s Super-Rich Owners』を出版。日本語版(『億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム』田邊雅之訳 カンゼン)は今年4月にリリースされた。

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