空気読めない、ケアレスミス多発の「大人の発達障害」に新薬登場?

空気読めない、ケアレスミス多発の「大人の発達障害」に新薬登場?

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  • 更新日:2017/10/12
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「大人の発達障害」に対し、デイケアの効果、新薬登場が期待されている(※写真はイメージ)

知的能力には問題ないのに、相手の気持ちをくみ取ることができず、周囲とトラブルを起こしてしまう。成人期にこうした問題を抱える「大人の発達障害」に対し、デイケアの効果、新薬登場が期待されている。

学校の成績は悪くなかったのに、就職すると同僚とコミュニケーションがとれなかったり、取引先との約束を忘れたりするなど、人間関係や仕事がうまくいかない。成人期にこうした問題を抱える人々には、自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)など「発達障害」が疑われる場合がある。発達障害とは、これらの疾患の総称であり、単一の病気を指すものではない。

代表的なASDにはアスペルガー症候群があり、「空気が読めない」「接客ができない」「予定どおりにいかないとパニックになる」などの症状を示す一方、数字に強いといった長所がある。ADHDは、「忘れものが多い」「ケアレスミスを起こしやすい」といった不注意による失敗が目立つ。

学校や職場でいじめにあったり結婚や就労が難しかったりすることで生きづらさを感じ、二次的にうつ状態に陥ることも多い。2008年に昭和大学烏山病院で発達障害専門外来を開設した加藤進昌医師は、次のように指摘する。

「成人期の発達障害といっても、大人になってから発症するわけではありません。発達障害は、脳の機能の一部に生まれつきの異常があるために起こると考えられています。つまり、子どものころから症状はみられていたものの、知能や言葉の遅れがないことから成人期まで障害に気づかれなかった方々がほとんどです」

文部科学省が12年に全国の小中学生を対象におこなった調査によると、発達障害が疑われる生徒の割合は6.5%(ASD1.1%、ADHD3.1%)にのぼった。成人期の発達障害の割合は2~3%、ASDとADHDの症状が併存するケースが3~5割を占めるという報告もある。加藤医師らの専門外来でASDと診断された人々は男性が数倍多く、女性は比較的症状が軽い傾向があるという。

ASDの診断は、当事者に原則家族と同伴で受診してもらい、通知表なども参考に子どものころのエピソードを詳しく問診しておこなう。最近では、安静時に脳のどの領域の活動が高いかをファンクショナルMRI(機能的磁気共鳴断層撮影装置)で調べ、診断に役立てる研究が進んでいる。

「発達障害がマスコミに取り上げられるようになり、専門外来の受診を希望される方が増えています。しかし、実際にASDと診断される方は3割程度であり、ご自分で発達障害と思い込んでいる方が多いのが実情です」(加藤医師)

ASDの治療は、当事者同士が交流し、コミュニケーションスキルの訓練をおこなうデイケアプログラムの効果が期待されている。加藤医師らは全20回の「発達障害専門プログラム」を作成し、引きこもりなどによる非就労者を対象に週1回、就労者を対象に月2回実施している。

「ASDの特徴は、なぜ自分の言動が周囲の人々を困惑させるのかわからないことです。このプログラムでは障害についての理解を深め、相手を気遣いながら意思を伝える会話の進めかた、感情のコントロールのしかたなどを、講義やディスカッションを通じて学びます。参加者同士に仲間意識が生まれ、互いに支え合い、自己存在を肯定できる利点も大きいといえます」(同)

参加者の大半はASDの症状やコミュニケーション技能などを評価するテストの成績が向上し、アンケートでは「自己理解が高まった」「対人関係に自信がもてるようになった」「物事への関心が広がった」と答えている。参加後、非就労者の87%は障害者雇用ながらも就労もしくは就労支援施設に移るなど社会との接点をもち、就労者の86%は就労を継続、うち71%は一般雇用を続けている。

こうしたデイケアプログラムは、全国23医療機関で実施されている。参加希望者は、都道府県や政令指定都市に設置されている発達障害者支援センターに問い合わせるとよいだろう。

「ASDの当事者は、いわば生まれつき『こころの目』が見えにくい方々であり、対人交渉が重要な仕事などは苦手です。しかし、視覚障害をもつ方々の中には聴覚に優れる方がいるのと同様に、パソコンや数字を扱う仕事などでは優れた能力を発揮します。自己理解を深め、能力が生かせる仕事に就かれることを願っています」(同)

ADHDは、脳の前頭葉で神経伝達物質のドーパミン、ノルアドレナリンのはたらきが弱いために注意力が低下すると考えられ、これらの作用を高める薬が使われている。一方、ASD特有の症状を改善する薬はない。浜松医科大学病院の山末英典医師は、「将来的にホルモンの一種であるオキシトシンが初のASD治療薬として認可される可能性があります」という。

「ASDの方々が対人関係を苦手とする理由の一つには、相手の表情や声色から言外の気持ちをくみ取ることが難しいことが挙げられます。ファンクショナルMRIなどを用いて解析した結果、ASDの方々はこうしたはたらきを担う脳の内側前頭前野の活動が低下しており、オキシトシンを投与することにより、その活動が高まることがわかりました」(山末医師)

女性にASDが少ない理由にも、女性に豊富ではたらきやすいオキシトシンが関わっている可能性があるという。オキシトシンは注射薬として分娩誘発などの目的で使われてきたが、ASDの治療に用いる場合、薬液をスプレー状にして鼻から吸入する。

山末医師らはオキシトシンが1回投与、6週間投与のどちらでも内側前頭前野の活動を高め、相手の表情から気持ちを察することができるようになるなど、対人関係の改善に役立つことを確かめた。

この結果に基づき、山末医師が責任者となって東京大学、金沢大学、福井大学、名古屋大学で連続投与の有効性・安全性を検証する臨床試験をおこなった。さらに、浜松医科大学が中心となって全国規模で治験をおこなう。今後、有効性・安全性が確認されれば、近い将来、「オキシトシン点鼻剤」が初のASD治療薬として認可される。

一方、山末医師は次のように注意を呼びかける。

「海外ではオキシトシン点鼻剤が授乳促進などの目的で市販されており、日本でもネットで個人輸入するなどして不適切に使用される可能性があります。この薬は有効性・安全性が検証されている段階であり、特に長期に使用した場合の副作用は未知数です。自己判断での使用は厳禁です」(ライター・小池雄介)

※週刊朝日 2017年10月20日号

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