“デトックス汁”と呼んでいます。秋だから「きのこ満載スープ」の作り方――平松洋子の「この味」

“デトックス汁”と呼んでいます。秋だから「きのこ満載スープ」の作り方――平松洋子の「この味」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/10/12
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©下田昌克

今年は長雨だったので、きのこが豊作らしい。にやり。野山のあちこちで無数のきのこがぐんぐん育っている光景を想像すると、ひっそりとした笑いが出るのはなぜでしょう。

一週間ほど前の朝、居間のほうから「ぐほっ」と不審な声がした。ふり返ると、連れ合いが目を渦巻きにして、観葉植物の鉢を指差している。近寄って見ると、なんだこりゃあ。土の表面からきのこが二本、ひょろりと生えている!

キツネにつままれた気がした。昨日見たときは、たしか何もなかった。なのに今朝は、茶色の傘をかぶった長さ三センチ近くのヤツが連れ立って出現。そういえば昔、学生時代の友人が下宿の畳のへりから極小のきのこがびっしり繁殖していることに気づいて、恐怖で腰が抜けたと言っていたのを思い出した。夢野久作の小説の一場面か。菌類は神出鬼没。栄養をもとめて伸びる菌糸の欲望におののいてしまう。私は、公園に捨てられた靴がきのこ山になっているのを目撃して、ひぃと震えたことがある。あとで調べたらイヌセンボンタケらしかった。

それにしても、鉢植えの表面に突然すぎるきのこ二本。宇宙と交信しているようにも見えるし、おちょくられているようでもある。

「おまえらそんなとこに突っ立ってるとマヨネーズかけちゃうぞ」

隣から聞こえた意味不明のせりふが、すでにきのこのペースにはまっている。いやいや勘弁してくださいよ。「殺しの天使」(ドクツルタケの別名らしい)だったらどうする。

じつは最近、きのこに取り憑かれていた。秋だなあ、と何気なしに作って食べたら止められなくなった。

中国の薬膳料理として食べたことがある鍋ものをアレンジした、きのこ満載のスープ。

作り方を紹介します。

(1)大量のきのこ五〜六種類をざくざく切る。組み合わせは適当。しめじ、椎茸、マッシュルーム、エリンギ、ヒラタケ、なめこ、なんでも。

(2)赤唐辛子一本、いっしょに鍋に入れ、水を注いで火にかける。

(3)黒酢(どぼどぼ)、醤油と酒(いずれもたらり)、ごま油(ちょろり)、胡椒(たっぷり)、粉山椒(ぱらり)、塩で味つけ。

以上です。

もうやみつき。一年ぶりに食べたらなぜか止められず、きのこの森で迷子になりそうで怖い。マタンゴに変身したらどうする(古くてすみません)。それでも啜り続ける、酸っぱくてビリッと辛くて、とろんとなめらか、なのにカリコリ歯ごたえのいい怪しいスープ。

拍子抜けするほど簡単なのに、複雑玄妙、透明なぬるみをまとってミステリアス。ぎょっとするほど嵩が減るので、ともかく大量に煮ると、いろんなきのこから多彩なだしがじわじわ染み出てくる。それを一滴残らず誘いだす魂胆に気づかれぬよう、隠蔽工作のつもりで鍋にぎゅう詰め。「ぬ、ぬかった」と連中があわてふためいても、遅い。二十分もあればうまーいスープが勝手にできています。

「デトックス汁」とも呼んでいる。たっぷり食べてもカロリーは極少。腸のすみずみまできれいさっぱり掃除する驚異の実績は、さすが菌類の仕業だと幻惑されてしまう。

怪しいスープにどっぷり溺れていたら、鉢植えに出現した二本のきのこのことをうっかり忘れた。そうだった、伸びてるだろうなと思い出し、おそるおそる覗きこむと、いつのまにか姿もかたちも消え失せていた。

(平松 洋子)

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