〝IT時代の三河屋〟を志す農業ベンチャー社長が語るアグリテック最前線

〝IT時代の三河屋〟を志す農業ベンチャー社長が語るアグリテック最前線

  • @DIME
  • 更新日:2017/11/12
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最近よく耳にする新しいキーワード、“アグリテック”。農業(アグリカルチャー)とテクノロジーを組み合わせた造語で、AIやIoTなど最先端の技術を農業に活用することで、これまで重労働だった農業に革命を起こす新しい産業分野を指している。

まだ誕生したばかりのアグリテックの最前線は一体どうなっているのだろうか。そして、今後日本の農業をどのように変えていくのだろうか。

生鮮食品の宅配サービス「VEGERY(ベジリー)」を今年1月にローンチした宮崎県綾町発の農業ベンチャー、ベジオベジコ代表取締役の平林聡一朗氏に伺った。

■まだ明確な定義はないが、今後大きな成長が見込まれる

自民党の小泉進次郎前農林部会長が推進を呼び掛けていたことでも注目を集めている、アグリテック。ハイテク技術を導入した野菜工場での栽培やドローンによる田畑の管理など、一口にアグリテックと言っても活用される技術の種類は多岐にわたる。

株式会社ベジオベジコの運営する「VEGERY(ベジリー)」の場合は、農業とIT技術を組み合わせることで流通コストを削減した。スマホアプリに入力するだけで、宮崎県産を中心とした新鮮な有機野菜等が東京都内でもスピーディーかつ簡単に購入できる。

平林氏によると、アグリテック自体がまだ誕生して間もない産業なので、そこまで明確な定義が固まっていないのが現状だという。

「アグリテック市場は、2020年までに約700億円規模にまで成長する見通しだ。まだまだ確立されていない分野なので、今後色々な企業が参入してくればますます成長すると思う。

現状では、ざっくり大きく分けると対生産者向けと対消費者向けのアグリテックに分類される。

前者は、重労働で天候に左右されていた農業生産の効率化の問題をテクノロジーで解決し、農家の負担を減らすというもの。そして後者は、『VEGERY(ベジリー)』のように、スマホアプリを通して簡単に注文できる形で生産者と消費者の距離をグッと近づけて、新鮮な農産物を必要としている消費者が購入しやすいようにする。

今までは、新鮮な有機野菜が欲しいと思っていてもなかなか買いにいけないという人が多かった。最近は農業就業人口の減少や高齢化が社会問題になっているが、まずは購入する人を増やして売上をアップさせないと農業は衰退していくと思っている。自分たちのミッションは、販路を拡大して、新鮮な野菜を必要としている人々のところへ、仕入れから配達までの流通をワンストップで自社で補いながらできる限り低コストで届けることだ」

平林氏は、故郷・宮崎を活性化させたいという思いから2013年5月にスムージー用青果宅配専門店「VEGEO VEGECO」ブランドを立ち上げた。農家の有機野菜を適正価格で仕入れ、独自の配送網で東京まで輸送・販売する垂直統合型のビジネスモデルを構築することで、流通コストを大幅に削減した。

「最初は宮崎県でやっていたが、今年1月から東京に進出した。スマホアプリで新鮮な野菜を即配できるというサービスをリリースするだけでも、様々な業界の多くの企業から反響があった。面白かったのは、不動産業界からも連絡がきたことだ。高級マンションの住民へのサービスとして導入したいという理由からだった。本当にあらゆるところに思わぬニーズがあると実感した。

これまで、農業は遠く離れたところに独立してあるというイメージを一般的に持たれていたが、アプリによって購入者との距離が近くなったと思っている。

じつは、世の中に出回っている野菜やフルーツの価格の7割は流通コストとなっている。この問題を解決しない限り、“農家が儲かる”農業はうまれない。それを実現していくためにも、仕入れから配送までワンストップサービスでコストを下げる。実際、これで農家の売上を30%アップした実績もある。また、耕作放棄地について『VEGERY(ベジリー)』のためにもう一度作ってもらえないかと提案して、復活させたこともある。

ゆくゆくは、生産も自社で手掛けたい。農家と向き合いながら作っていく必要があるので時間をかけて取り組む必要があると思っている」

■農業ベンチャーを目指す若い世代は増えている

農家の減少と高齢化も、日本の農業にとって非常に大きな課題だ。農林水産省によると、農業就業人口は年々減少し、平成28年(2016年)は192.2万人。その半数以上を65歳以上が占め、平均年齢は66.8歳となっている。

農業とテクノロジーを組み合わせたアグリテックの登場で、農業を目指す若者は今後増えていくのだろうか。

「農業は、衣食住の中でも重要な食に位置付けられる分野で、これからも決してなくなることはない。優秀な若者は、単に働くだけでなく、やりがいを求める。“農業×テクノロジー”だけでなく、“地方×若者”というキーワードでも、これまでにない新しいものが誕生すると考えている。

私の周りでも、農業ベンチャーに挑戦する若者が増えていると感じる。弊社が拠点を置く宮崎でも、実際農業ベンチャーが増え始めている。たとえば、知人が経営しているベンチャーでは、AIを活用してトマトを栽培するシステムを販売している。実は、トマトは栽培が難しい野菜だ。これまでは長年の経験と勘を頼りにやっていたところを、ビッグデータで効率化する。農家の高齢化が進む中で、熟練農家の知識・経験が継承されることなく途絶え始めている。そこにテクノロジーが入ることで、50年農家をやっている人の目線をカメラで追って、野菜のどこを見ているのかなどのデータを収集する。40~50代でも若手と呼ばれるのが農家の現状だ。これまでスキルの習得に10年かかったのが、テクノロジーにより最短で1年になる可能性がある。この9年のラグが革命だと思っている。1年という短いスパンで活躍している若手を見て、目指す若者も増えるのではないだろうか」

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平林氏によると、農業ベンチャー業界の特徴は横の繋がりが強いことだという。

「農業ベンチャーは、基本的に泥臭い重労働。天候に左右されたり短期間ですぐに結果が出ない分野なので、お互いに励まし合うことも多く、結束力も強い。同じ事業だけでなく、対生産者向けと対消費者向け農業ベンチャーの結びつきも強く、お互いに情報交換をしたりしている。

また、ひとつ上の世代が農業ベンチャーで頑張っているのを見て、志す20代も増えている。これは良い循環だと思う。これまで“3K(きつい・汚い・危険)”のイメージを持たれていたが、そこに価値を見出す若い世代が増えてきたと実感している。弊社にも、近々九州を始め全国から大学生が東京のオフィスを見学しに来ている」

ベジオベジコの従業員も、平均年齢が26歳と若い。現在の従業員数は約30名(アルバイト含む)。宮崎県綾町の本社に5~6名、東京支社に約20名が常駐している。農業大学の卒業生や宮崎県出身者で、会社の理念に共鳴して働き始めたスタッフもいるという。若い世代ならではの感性をサービスや宣伝に活かせるのも強みだ。

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「最近は、消費行動にも変化が見られている。ただ単にモノを購入して消費するのではなく、そこにストーリーを求めたり、シェアして友人からの反響を求める顧客が増えている。弊社でもインスタグラムに野菜の写真を投稿しているが、それらは全て社員やアルバイトが撮影している。農家の情報を記載した小冊子『ベジリー・タイムズ』を作成して顧客に配るなど、消費者と農家の距離を近づけるよう工夫している。

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また、美容・健康に意識の高い人向けにスムージー・セットを世田谷区・目黒区・渋谷区限定で届けるサービスはヒットした。一度利用して満足する人が多く、リピート率は55%。小売・EC全体の平均が20~25%程度なので、これは数字としては驚異的だ。やってみて初めて、世の中からこれ程まで求められていたのだと実感した」

アグリテックというとハイテク技術ばかりが強調されがちだが、流通を担う『VEGERY(ベジリー)』では、リアルな人と人との繋がりも重視している。

「デリバリーエリアではラストワンマイルの配達まで自社でやっているので、顧客の声を直に聞くことができる。他社の宅配サービスに任せるのではなく、自分たちで生の声を聞いてフィードバックを農家に届ける。顧客のニーズを正確に掴むことは、売上拡大には欠かせない。

一言でいうと、“IT時代の三河屋”を目指している。漫画『サザエさん』に登場する三河屋さんは、調味料がなくなったらすぐに駆けつけてくれるし、顧客とのコミュニケーションを大切にしている。今後も、農家と顧客の両方を幸せにするサービスを続けていきたい」

【取材協力】

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平林 聡一朗(ひらばやし そういちろう)・・・株式会社ベジオベジコ代表取締役。1991年生まれ、宮崎県出身。2011年に起きた東日本大震災をきっかけに故郷・宮崎を活性化させたいという思いを持ち、2013年5月にスムージー用青果宅配専門店「VEGEO VEGECO」ブランドを立ち上げる。農家の有機野菜を適正価格で仕入れ、独自の配送網で東京まで輸送・販売する垂直統合型のビジネスモデルを構築し1年足らずのうちに売上を10倍以上に成長させ、黒字化を達成させた。

2017年1月には生鮮食品の宅配サービス「VEGERY」を正式ローンチ、また東京・根津にフラッグショップ「ベジオベジコ根津」をオープンさせた。

取材・文/吉野潤子

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