「女の子だってヒーローになれる」『HUGっと!プリキュア』が提示する新しい価値観

「女の子だってヒーローになれる」『HUGっと!プリキュア』が提示する新しい価値観

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  • 更新日:2019/02/12

■既成概念と戦う「プリキュア」

「プリキュア」なんて子供向けのアニメでしょ? そう思う人は多いでしょう。でも、2018年2月から2019年1月まで放送されたシリーズ第15作目『HUGっと!プリキュア』(以下HUGプリ)は、メッセージ性が強い作品として大人たちの間でも話題になりました。

プリキュアとは、日曜朝に放送されている女児向けアニメで、中学生くらいの女の子の登場人物がプリキュアと呼ばれる不思議な力を持った存在に変身して、敵と戦うバトルシーンや、女の子たちの日常シーンが描かれています。魔法少女もののアニメや『美少女戦士セーラームーン』のような作品のイメージにも近いでしょう。本作ではセーラームーンでシリーズディレクターを務めた佐藤順一監督もシリーズディレクターの一人として名を連ねています。

女の子がプリキュアへ変身すると、フリフリでキラキラした、お姫様やアイドルの衣装のような格好になります。でも、プリキュアは王子様に守られるお姫様でも「ヒロイン」でもありません。プリキュアとは戦って、みんなを守る「ヒーロー」なんです。

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HUGっと!プリキュア #19 ワクワク!憧れのランウェイデビュー!?

HUGプリ第19話では、こんなセリフも出てきます。

「女の子だって、ヒーローになれる!」
「男の子だって、お姫様になれる!」

このセリフに対しては「プリキュアがジェンダーに切り込んだ」と、ネット上、SNS上で話題になりました。

登場人物の一人・若宮アンリというフィギュアスケート選手の男の子は、性別を超越した美しいルックスを備えた美少年です。日頃から女物のファッションを取り入れることもあって、周囲から何を言われても「僕は自分が着たいものを着る」と自分を貫きます。

「女の子だってヒーローになれる」をテーマにしたファッションショーに、アンリは特別ベストとして、女物のドレスを着て出演します。ファッションショーを見たアンリの友人は「おかしい」「ヒーローは男のための言葉だ。女の子はヒーローになれない」と言い、ドレスを着たアンリを見て「君、男だろ?」と鼻で笑います。そんな正人に対して、本作の主人公・野乃はなは「誰の心にだって、ヒーローはいるんだよ! 人の心を縛るな!!」と反論し、アンリは「僕は、自分のしたい恰好をする。自分で自分の心に制約をかける、それこそ時間、人生の無駄。」と受け流します。男、女という区別からの自由を貫いたアンリは、第42話ではついに、一回限りのゲスト扱いながら、史上初の「男の子のプリキュア」に変身することになるんです!

HUGプリのキャッチコピーの一つに「なんでもできる! なんでもなれる!」というものがあります。でも、現実には何かをやろうとすると、特にそれが常識や既成概念からかけ離れたものであればそれだけ、冷笑され、バカにされ、制約を受け、妨害されてしまうものです。それは他人からのものだけでなく、自分自身に対するものであることも多々あるでしょう。

でもHUGプリは視聴する子供たちに対して伝えます。女の子だからこう、男の子だからこうでなきゃいけないなんてことはないんだよ。誰に何を言われても、自分が「なりたい自分」になれば良いんだよ……と。

■母親になっても「なりたい自分」を諦めなくて良い

本作の主要テーマとして掲げられているのは「育児」「仕事」「出産」です。
物語は、はなが未来から来た不思議な赤ちゃん・はぐたんと出会うところから始まり、はぐたんの成長をはなたちが見守りながら進行します。でも、HUGプリでは「母親はこうあるべし」という姿を押し付けることはありません。はなの母親は記者として働いています。多忙な中でも、はなが学校でいじめられたことに気づき「はなは間違っていない!」と寄り添うことで、母親として娘を支えました。

プリキュアの一人・薬師寺さあやの母親は大女優として芸能界で活躍中です。第44話では、子役として活躍するさあやと母親が共演するエピソードが描かれました。母親は女優として活躍しながら出産、育児をして、時には周囲から無理だと言われても、幼いさあやを保育所に預けずに女手一つで育児をしてきました。

さあやは当初、母の姿に憧れて女優を目指していましたが、職業体験で見学
した医者を目指すようになります。見学した産婦人科では、帝王切開での出産
を控えた妊婦がいました。妊婦にとって二番目の子供でしたが、最初の子供の
時は育児に不慣れで失敗ばかりと感じていたため、今度こそ完璧な子育を……と思っていたところ、帝王切開での出産となったことで「最初からつまづいてしまった」と引け目を感じていたのです。しかし、産婦人科医は妊婦にこう言いました。「帝王切開はつまづきじゃない。立派なお産よ」
最終回ではなんと、未来で大人になったはなが出産するシーンが描かれます。しかも、お産の痛みの叫び声も含めてかなり生々しく描写されています。

本作に登場する母親は皆、多忙な仕事に追われていたり、どこか抜けていておっちょこちょいだったりと、従来の母親像からすれば完璧ではないのかもしれません。でも、はながはぐたんと出会ったように、女性はある日突然に母親になってしまうものではないでしょうか。

働きながらでも、上手くいかないことがたくさんあっても、周囲の人たちと支え合いながら、力を合わせて育児をしていく。そんな母親に対して、子供から「生んでくれてありがとう」「ママだいすき」と伝えられるシーンでは、子供たちと一緒に視聴していたお母さんたちも号泣したはずです。母親になったって、完璧な母親にならなくても良い。「なりたい自分」を諦めなくても良い。
本作には、そんなメッセージが込められているのではないでしょうか。

■大人になっても響き続けるメッセージ

母親だけでなく、本作の大人たちは皆、心に弱さを抱えています。そして、心の弱さを突かれて「オシマイダー」という怪物に変身させられて、プリキュアたちに襲いかかるのです。しかし、プリキュアたちと交流する中で、立ち直り、前向きな気持を取り戻していきます。

HUGプリは、ジェンダーや多様性の問題に深く切り込んでいる意味では先進的な思想を表現した作品ですが、本当に大事なのはそこじゃありません。

はなが変身するプリキュアは「キュアエール」という名前で、みんなを応援するプリキュアです。でも、はなはよく言います。「フレフレみんな! フレフレわたし!」と。他人を応援するだけじゃなくて、自分で自分を元気づけるんです。大人だって、上手くいかないことがあれば、とかく他人のせいや社会のせいにして逃げてしまうことがあります。でも、壁にぶつかってへこたれそうになった時、近くに応援して支えてくれる人がいることや、それ以上に自分が自分の味方になって応援することが大事なんです。

はなの夢は「超イケてる大人なお姉さん」になること。でも、ドジでおっちょこちょい、周りの仲間と比べて特別な才能もないことに劣等感を感じることもありました。ところが、第48話の最終決戦で気づきます。「私の、なりた私。それは、誰でもない、自分で決める事だったんだなって」と。「こうあるべき」という生き方にしばられることはない。自分の生き方や「なりたい自分」の姿は自分で決めれば良いし、誰に何を言われても、自分で自分を応援していけば良い。ジェンダーや多様性をテーマにしたエピソードは、そんなメッセージを伝えるための一環だったのではないでしょうか。

佐藤順一監督は最終回放送後にTwitterでこんなコメントをつぶやいています。

「一年間、子どもたちに届けたいものをたくさん込めました。それがどくらい届いたかがちゃんと分かるのは15年とか先。それは「どれみ」などで実感した事で、セリフや物語は忘れてしまっても届けたいものは届く。『HUG』でも、何かがひとつでも届いていれば嬉しい事です。」

たしかに、HUGプリに込められたメッセージと思想は、子供たちがすぐに理解できるものではないかもしれません。でも、HUGプリを見た幼い女の子がやがて成長して「女なんだからこうあるべき」という価値観にぶつかった時、あの時プリキュアであんなことを言っていたなと思い出して「なりたい自分」になるために壁に立ち向かっていったとしたら……。子供を身籠って、出産、育児を経験していく中で、HUGプリをふと思い出し、母親としてのあり方の参考にしたら……。たとえ今すぐに理解できなくても、メッセージと思想はしっかりと伝わっていくはずです。

プリキュアは、幼い女の子だけが楽しめるものでも、美少女アニメが好きないわゆる「大きなお友達」が楽しむためだけのものでもなく、全ての大人たちの心に響く作品です。それだけじゃなく、子供たちが大人になってからも、響き続ける作品と言えるでしょう!

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