グノシー

自分の時間や将来の選択肢を持ちづらいヤングケアラー、地域でどう支える?
[PR]内閣府
2023/03/23

「こどもの貧困」とひとことで言ってもその状況は多様で、解決には多角的なアプローチが必要です。

公的支援のみならず、社会全体がこどもたちを取り巻くさまざまな問題に目を向け、支援を届けていくことが、喫緊の課題となります。

本記事では、こどもたちを支える市民の活動に焦点を当て、こどもたちやその支援の現状と、私たちに今できることについて考えてみたいと思います。

親や祖父母、兄弟など家族の世話や家事を、大人に代わって担っているこども、ヤングケアラー。

ケアの対象となる大人が病気や障がいなどで十分な収入を得られないケースや、ケアに必要な資金が足りないことによりこどもがケアを担っているケースがあり、こどもの貧困とも無関係ではありません。

ここ数年でヤングケアラーという言葉は広まりつつありますが、ヤングケアラーがどのような問題を抱えているか、その実態はまだあまり知られていないのではないでしょうか。

厚生労働省と文部科学省が連携して実施した「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」(令和4年3月)において、日本全国の 20代~70 代以上の男女を対象に年代ごとに 400 件、計 2400 件の回答を集計したところ、ヤングケアラーに対する認知度 は「聞いたことがあり、内容も知っている」が29.8%、「聞いたことはあるが、よく知らない」が22.3%、「聞いたことはない」が 48.0%。まだ国民の約半数が、その存在も知らない状況となっています。

また同調査によれば、全国の小学6年生のうち、 6.5%が家族の世話をしていると回答。

これは35人学級ならひと学級あたり2人のヤングケアラーがいることになります。大学3年生では6.2%という結果が出ています。

では、ヤングケアラーの実状について、まず、一般社団法人日本ケアラー連盟理事である、立教大学コミュニティ福祉学部助教(2023年2月時点)の田中悠美子先生に伺いました。

複合的に課題を抱える家庭も……勉強やさまざまな経験の機会が少ないケアラーたち

ヤングケアラーの定義を、田中先生は次のように話しています。

「日本ケアラー連盟では、ヤングケアラーを〝家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満のこども〟と定義しています。ただ、18歳を過ぎてもその状況が続いている人もいて、その場合は〝若者ケアラー〟と呼んでいます」

具体的なケースはさまざまですが、厚生労働省のホームページでは次のようなケースを挙げています。

●障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
●家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
●障がいや病気のあるきょうだいの世話や見守りをしている
●目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
●日本語が第一言語ではない家族や障がいのために通訳をしている
●家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
●アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
●がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
●障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
●障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

こどもの貧困の背景には、このようなヤングケアラーの問題が重なっている場合があるといいます。

「世帯所得との関連を示したデータがあるわけではないのですが、親が働けない状態にあったり、介護や看護などのサービスにお金をかけられなかったりする家庭の中にヤングケアラーが存在しているケースも見られます。また、こどもが自身の学習や体験に十分な時間を割くことができず、結果として将来の選択肢が限定されてしまうこともあります。大学に進学したいけれど、家族のケアがあるために学習時間や塾費用、進学費用や授業料を割くことができず、諦めるというケースも」

選択肢が少なくなることにより、貧困の連鎖が起こる場合があるというわけです。それだけでなく、ヤングケアラーは多くのこどもが経験するさまざまな機会を逃していることが多いといいます。

「たとえば友達と遊びに行く時間や、習い事をする時間、部活に参加する時間などを削って、家族のケアをしているこどももいます。宿泊を伴う学校行事に行けないこどもも。その中で友達と話が合わなくなってしまったり、友達づきあいに時間を割けないことによって、孤立してしまったりすることもあります。また、日常生活の介助が必要な家族をケアしている場合には、こどもながらに身体を酷使して傷めてしまう場合もあります」

こどもたちはそのような状況にあっても、家族が家族をケアすることは当たり前として受け止めていることが多く、周囲に助けを求められないことも多いのです。

また、受けられる支援があったとしても、支援情報をこども自身が入手してアクセスすることも難しいのが実状。ゆえに、周囲の大人が気付き、適切なサポートをすることが重要となります。

「ヤングケアラーへの支援は、ケースによってさまざまです。ケアラーの年齢や、ケアされている家族の状況によっても異なりますし、ケアラーだけでなく家族まるごと見るサポートが必要となります。ヤングケアラーの場合、その状況に気付きやすいのは学校の教師やスクールソーシャルワーカー、養護教諭などが挙げられますが、気付いた後に必要なサポートに結びつけるためには、教育、介護、医療など各機関の連携も必要です。それがヤングケアラーとなっているこどもたちの生活や権利を守るためのポイントと言えます」

ヤングケアラーがどんなサポートを求めているのか、また自分の時間があればどんなことをやってみたいと思っているのか、一人一人の声をしっかり受け止め、キラキラしたこども時代の経験や将来の多様な選択肢を社会で守っていくことが大切です。

「自分自身のことも気軽に話せる場として、LINE相談窓口もあります」と、東京都ヤングケアラー相談支援等補助事業「けあバナ」を紹介してくれた田中先生。各自治体も支援に乗り出している

誰もが気軽に足を運び、気持ちを話せる間口の広さが重要

次に、ヤングケアラーを対象に支援活動を行っている団体に目を向けてみましょう。

京都府京都市で子育て支援を行う団体「ママキラ☆プロジェクト」の代表、上川(かみかわ)里枝さんに話を伺いました。

上川さんは、2015年に地域のこどもや保護者が気軽に訪れることができる「カレーパーティー」を開催。

「当初はこども会のような形で運営していました」といいますが、以降それがひとり親家庭や貧困家庭などの支援にもつながっていき、こども食堂として定着してきたとのこと。

ママキラ☆プロジェクトとして団体を立ち上げたのは2018年。同団体では、「こども食堂はこどもの居場所と言われているけれど、本来、こどもの居場所は家庭にあるべき」との考えから、こども食堂と保護者への子育て講座を両輪で行ってきています。

活動の中で、特にヤングケアラーにかかわっているのが「ヤングケアラー居場所プロジェクトしゃべり場カフェ」。

活動の一環で行っていた学習支援の場に、ボランティアとして関わっていた大学生とのおしゃべりの中で、ヤングケアラーへの支援の必要性を感じたといいます。

「学習支援のボランティア後には、みんなでお茶を飲みながらその日の活動を振り返ったり、フリートークしたりする時間を設けています。そのフリートークのときに、恋愛や就職活動、病気や家族の悩みなどが出てくることがあります。その中で、元ヤングケアラーの学生が何名かいたんです。たとえば、ひとり親家庭で育ち、夜遅くまでお母さんが仕事をしていたので、妹と自分の食事をいつも作って食べていたという学生。『そのとき、どんなことが必要だった?』と聞くと、『ママキラのような、放課後から夜までの一番さみしい時間に、安心して過ごせる場所が欲しかった』とのことでした。そうした話を聞いて、若者が自由に話せる場所をつくりたいと思いました」

居場所については、ヤングケアラーに特化するわけではなく、どんな若者も来られるようにしているとのこと。

「ヤングケアラーの人はいらっしゃい」と声がけをしても、自分のことをヤングケアラーだと認識していなかったり、そのようにカテゴライズされることに抵抗を感じたりするこどもや若者も多いといいます。

こども食堂や学習支援など、他のこども支援についても同様で、「貧困家庭のこどもはおいで」「虐待を受けている子は相談においで」と言っても、該当するこどもが抵抗感を持つ可能性があるのです。

「しゃべり場カフェには、当事者もそうでない子も来てもらって、お互いにいろんな話を聞いて意見や感想を言い合える場になればと思っています。ヤングケアラーのこどもが来ても、そのことを話さなくてもいいし、誰かに聞いてほしかったら話してもいい。そんな場所にしたいんです。以前、ヤングケアラーだった若者がこんなことを言ってくれました。『こどもの貧困、ヤングケアラーと言うけれど、それに対して、こどもに何かをしたところで状況は何も変わらない。親が変わらないと、本当の解決には向かわない。ママキラは、親に目を向けて、親の支援に取り組んでいるから素晴らしい』と。こどもや若者が集まる場所をきっかけにして、家族のさまざまな問題がわかったときに、相談してもらえる場所になればいいなと思います」

ヤングケアラーはこども単独の問題ではなく、家族に適切な支援が届くことが重要となっています。そのニーズをとらえるためには、地域の力は欠かせないのだと上川さんは言います。

「ヤングケアラーについて、学校で学ぶ機会が必要だと思います。もしかしたら自分のことかもしれない、あの子かもしれない、と気づける生徒・児童がいれば、具体的な支援につながるかもしれません。そのためには、行政だけでなく、地域の中にも多様な受け皿があることが大切です。一人ひとりの大人が地域のつながりを大切にして、それぞれの家庭が孤立しないように情報共有をしたり、助け合ったりすることが大切だと思います。」

誰もが自然に足を運ぶことができ、自分の悩みを打ち明けたり、こうしたいと望みを言えたりする環境があればこそ、ヤングケアラーも含めたさまざまな問題が見え、解決に向かっていくのです。まずはそうした環境をつくっていくことが社会の課題なのでしょう。

「しゃべり場カフェ」にて、「居場所の条件は何か?」というお題に対して一人ひとり答えを書く若者たち

誰もが自分の夢や目標を自由に持てるように

さらに、神奈川県横浜市を拠点にヤングケアラー支援を行う一般社団法人Omoshiro(オモシロ)の代表理事、勝呂(すぐろ)ちひろさんにもお話を伺いました。

勝呂さんは精神保健福祉士の資格を持ち、Omoshiroでは精神疾患などを抱えた保護者や、そのこどもに対し、「親子まるっと伴走する支援活動」を行っています。

「ケアマネージャーとして精神疾患などをお持ちの方をサポートする中で、その方々の家族が抱える困難にも直面してきました。朝起きることができないお母さんを寝かせたまま、自分で朝食を用意して学校に出かけていくこども。弟や妹のお世話をしているこども。ヤングケアラーと言われるこどもたちがそこにいることに気がつき、そうしたこどもたちにも支援が必要だと思ったんです」

そこには友達と遊びたいけれど母親の通院に付き添うため我慢しているこどもや、学習時間がとれずに小学校高学年になると授業についていけなくなってしまうこどもたちがいたそう。

そして、そうしたこどもたちが他者にSOSを求めることは容易ではないとのこと。

「他人に打ち明けることで、ケアが必要な家族を困らせたり悲しませたりすることになるかもしれないと思っていたり、小さな頃からそれが当たり前なので、助けが必要だと感じていなかったりするこどもも多いんです。たとえば、4人きょうだいの長女で、『いちばん下のきょうだいが小6になるまでは私が家にいる』と決めていて、自分が望む進路ややりたいことを考えないようにしてきたという子がいました。その子が、伴走型支援でさまざまな大人とふれあう中で、自分の理想と向き合い、『家を出る』ことを夢だと語ってくれたんです。また、自分の思いを伝えることがなかなかできなかったこどもが、『悲しいときに悲しいって言える人になる』ということを目標として掲げられるようになったことも。このように、ヤングケアラーのこどもたちは、支えてくれる大人たちに出会えるまで、自分の夢や理想、目標もなかなか持てず、ただ現実と向き合うだけで精一杯という状態に置かれているんです」

Omoshiroでこどもたちがつくったおみくじ。サポートを通じて自己肯定感を高めていくこどもたちが多い

Omoshiroでは、こどもたちに対しては生活支援や学習支援、交流型イベントやこどもワークの企画・運営などを通じて居場所づくりを行っています。

同時に、精神疾患を抱える親とともにこどものことを考え、親子の対話をサポートし、必要な制度や支援につなげているのです。

「こどもがこどもらしくいられる時間をつくりながら、その家庭が大切にしていることを尊重しつつ親子をサポートしています。さまざまな大人と出会い、体験の機会を増やすことで、『こういう生き方もあるんだ』『こういうことを楽しんでいる人もいるんだ』と感じてもらい、将来の選択肢を増やしたり、自由に夢や目標を持ったりすることにつながればと思っています」

ヤングケアラーに対する認知度が少しずつ上がりつつあるとはいえ、まだ「家族のことは家族で世話をすることの何が悪いのだろう」「家族のサポートをするなんてえらいじゃないか」と、こどもや家族が抱える困難は見過ごされてしまうことが多いといいます。

しかし、誰もが自分の時間を大切にし、自由に夢を描き、自分自身のために努力する権利を持っているはず。

そうしたこどもたちの権利を守るためにも、一層きめ細やかな支援が、官民両輪で必要になっているのです。

勝呂代表理事のデスクの後ろの壁には、こどもたちの作品が飾られていた

<取材協力>
●田中悠美子先生
一般社団法人日本ケアラー連盟理事

ヤングケアラープロジェクトに参画し、ヤングケアラーの研究や啓発、政策提言などを行う。また、2023年2月現在、立教大学コミュニティ福祉学部福祉学科助教として「認知症本人と家族の地域生活支援」をテーマに研究に取り組んでいる。社会福祉学博士、社会福祉士、介護福祉士。一般社団法人ケアラーワークス代表理事も務める。

●子育て支援団体ママキラ☆プロジェクト
「こども食堂」「子育て講座」「ハンドメイド」「学習支援」「若者しゃべり場」を通して、こどもやママ、若者に居場所をつくり、みんなのキラキラ輝く笑顔を応援。

●一般社団法人Omoshiro
精神保健福祉士が出会った精神疾患を抱えるお母さん・お父さん、そこで一緒に暮らすヤングケアラーのこどもたちへ、生活・学習・居住等に関するサポート活動を行う。

●こどもの未来応援基金について
個人や企業それぞれに、困難を抱えるこどもたちを支援する方法があります。

ひとつは皆様が、貧困状態にあるこどもたちがいることに目を向け、どうすればそうした状況を改善していけるかを考えていただくこと。そしてもうひとつは、皆様が無理なくできる範囲で、そうしたこどもたちに手を差し伸べていただくことです。

「こどもの未来応援基金」(運営:こどもの未来応援国民運動事務局(内閣府、文部科学省、厚生労働省及び(独)福祉医療機構))では、個人や企業に広く寄付を募り、寄せられたご厚志を、地域に密着してこどもたちへの支援に取り組む支援団体の活動資金として活用することで、多くの方々の「こどもたちに何かしたい」という気持ちをつないでいます。

2016年(平成28)の初回公募から2022年(令和4年)公募までのべ728の支援団体に、総額約15億5300万円の支援を決定しており、応募数も近年増加傾向にあります。

本基金には、直接の御寄付に加え、寄付付商品の購入や、皆様に代わって賛同企業が寄付をする「クリック募金」など、御協力の方法を多数用意しております。

本基金への協力方法やその他詳細については、以下のサイトをご覧ください。

<取材・文>
大西桃子