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「描くという行為にこだわりたい」浅野いにおのキャラクター作りとは
[PR]トンボ鉛筆
2018/02/22

普段はあまり漫画を読まない筆者。そんな筆者に友達が薦めてくれたのが「おやすみプンプン(以下プンプン)」だった。漫画らしくないストーリーとキャラクターにすっかり魅了された私はそれ以降、作者である浅野いにお先生の作品を読むようになった。
浅野先生の作品は独特な世界観もそうだがアナログとデジタルを融合させた作風でも話題だ。

そこで、現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(通称:デデデデ)を連載中の先生に、ストーリーやキャラクター作りについて、さらに漫画を描く際のデジタルとアナログの感覚について、先生がきっと気に入るお土産持参で話を聞きに行った。

浅野いにお先生プロフィール

1980年生まれ、茨城県出身。1998年、ギャグ漫画でデビュー。今年デビュー20周年を迎える。主な作品に『素晴らしい世界』『ひかりのまち』『ソラニン』『おやすみプンプン』『零落』など。『ソラニン』は宮崎あおい主演で映画化もされている。「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載中。

——漫画を描き始めるときはどこから手をつけるのですか?

漫画にはファンタジーとかSFとか「漫画らしさ」というものがありますよね。それが良さではあるんですけど、それに慣れていない人にとっては漫画の世界観って独特なものだと思うんです。だから普段漫画を読まない人でも読めるような「漫画らしくない漫画」というのをコンセプトに描いています。

あらすじがどうとか、ジャンルがどうとかではなく、読む人にとってこの漫画がどういう意味合いを持つのか、どういうシチュエーションで読めばハマるのかといったコンセプトや大枠の部分を決めるところから始めていますね。

ーーゴールを決めてから描き始めているんですね。その方法で作るようになったきっかけは何ですか?

漫画家を目指そうと思ったときに読んでいた漫画は短編が多くて、実は長尺の連作漫画をあまり読んだことがないんです。短編が自分にとってちょうどいい長さだったんですね。なので、新人のときに描いていたのは基本的に短編でした。

短編を作る時ってオチまで決めてから描き始めるので、連載が決まってからも大まかな起承転結はきちっと決めてから描き始めるのが自分のスタイルになっていきました。

細かい肉付けはリアルタイムで描きながらやりますが、大枠の部分は最初に決めた内容から大きく外れることは絶対にないですね。

——キャラクターはどのようなプロセスで作っていますか?

キャラクターを考えるときはまずはビジュアルですね。1人ずつというより何人ものキャラクターデザインを描いていきます。その中から選ぶという感じです。

長くキャラクターを描いていると髪型とか目とか自分が描く顔のパーツというものができてくるんです。頭の中にイメージがあって描くというより、そのパーツを組み合わせながらとにかく「手が勝手に描いたものから選ぶ」という感覚です。

——キャラクターの性格はどのように決めているのですか?

性格はキャラのビジュアルから逆算していくと自然と見えてくるんですよね。僕は漫画らしい漫画というものを目指しているわけではないので、キャラクターに対して過度なキャラ付け、例えばこのキャラは熱血キャラだとか、そういうことは意識していないですね。

コンセプトを先に決めるので、キャラクターを作るのは後半の作業なんです。キャラクターが第一だとは思っていなくて、そこまで優先順位が高くないんですよね。キャラの名前にもこだわりがないので最後に決めています。

——連載中の「デデデデ」も同様のプロセスで作っているのですか?

現在連載中の「デデデデ」の作り方はこれまでの流れとはちょっと違っていて、コンセプトや物語は全然決まっていなくて、「おんたん」という太眉でツインテールのビジュアルと性格だけがすでに決まっていました。

おんたんというキャラクターを魅せるためにコンセプトと物語があるという考え方で作っています。おんたんさえいれば成立するみたいな感じです。

——プロセスを変えた理由は?

コンセプト重視からキャラクター重視に変更した理由としては、長く漫画家としてやってきたので今までのやり方とは違うやり方でやってみようとか、漫画家らしくなろうとか、もっと漫画っぽく見せようとか、いろいろ考えた結果なんです。

——「デデデデ」の主人公のひとりである「おんたん」のモチーフは?

©浅野いにお/小学館

とあるアイドルがツインテールにしているのを見てびっくりしたんです。ツインテールってアニメキャラの髪型で実際にしている女の子なんていないと思っていたから。しかもそのアイドルは10代じゃなくて20代なんですよね。20代でもツインテールやれる時代になったんだなと思って。自分の中ではツインテールはないと思っていたんですけど、世間がそういう流れになったのなら、自分の感性にあまり頼らずに取り入れるべきだなと思ったんです。

——おんたんはツインテールだけでなく太眉も特徴的ですよね

そうですね。けど僕が昔描いていたキャラクターは眉毛がすごく小さいんです。それからどんどん太くなって、「プンプン」のヒロインの愛子ちゃんのときに海苔みたいな四角い太眉になったんです。ヒロインなのに眉毛が極太っていうのが、本来ヒロインとしてありえないパーツだったので、それをもう一回やりたかったんですよね。

——おんたんの性格はどのようにして作っていったのですか?

おんたんって本当はすごく知的で優しいキャラなんですけど、あえてバカっぽく振舞っているみたいな感じがあるんです。あえてやっているその言動がツインテールと太眉というパーツから見えてきたんです。実際に描いてみたらそのビジュアルが性格にすごくマッチしたんですよね。

——もうひとりの主人公「門出(かどで)」について教えてください

門出はおんたんとのバランスを考えてメガネをかけていることだけ決まっていました。顔のパーツは一番描きやすい無難なパーツで構成されています。

物語中の役割としては、おんたんとセットの女の子で、おんたんを見せるための引き立て役みたいな感じなんです。おんたんがいないと成立しないぐらい門出には主体性がないんですよね。性格も無難というか、なんでもないキャラクターなんです。けどこういうキャラクターを作るのが一番困るんですよね。

——キャラクターを作るときはじっくり考えてから描くのですか?

じっくりというより、ベストなのはサッといきなり描き出すのがいいと思いますね。偶発的にできたものに愛着がもてるというか、自分の意思が入っているものを好きになれないんです。僕は自分のイメージをしっかり形にしようとすると失敗するたちなので。

キャラクターを作る時も、なるべく意識しないで子供の時の落書きのようにサッと描いたほうが「自分が描いたものじゃない風」に見えるので、それが一番好きなんですよね。こだわりをもちすぎないように心がけています。

——セリフはどのようなプロセスで作っていますか?

「プンプン」まではセリフを作る際にメモを一切とらずに1話分のコマ割とセリフの流れを全部頭の中で作ってから描いていたんです。けどその方法だと大量のセリフや構成を記憶しないといけなくて。なので、「デデデデ」ではメモを取るようにしました。今はセリフだけを先に書いてそれをコマに割るという脚本を作るイメージに近いですね。

——セリフ作りで心がけていることはありますか?

この作品のセリフというのは環境音に近いものなんです。すべての会話が物語に必要ない会話というのが僕の目指しているところで。なんでそうしているかというと、「デデデデ」はおんたんというキャラクターがいれば成立する漫画なので、物語はもちろん大事なんですが、それよりもおんたんが生き生きしていたり、その周りの友達が楽しそうに会話をしていることのほうが重要なんです。

——デジタルで漫画を描くようになったきっかけはなんですか?

きっかけは僕がスクリーントーンが苦手で、なんとかパソコンでできないかなと思っていろいろ試すようになったことですね。

新人の時はとにかく絵が下手って言われていました。自分の弱点である絵を強化すれば批判をかわせる、だからとにかくそこを強化してやろうみたいな感じで、使える道具は何でも使うみたいな感覚なんですよね。

——デジタルツールを使うメリットは?

デジタルを使って良かったのは、まだ誰もやってないから何をやっても一番新しいというところですね。それと新人の時にはスタッフに払うお金がないので、いかに少人数で作るのかというのも僕のテーマだったんです。デジタルツールをアシスタント替わりにすることで少人数でショートカットして作れるメリットもありました。

——これからはデジタルが主流になるのでしょうか?

まだアナログで描いた線をデジタルに置き換えることはできないなと思いますね。特にキャラクターの造形に関してはアナログが一番です。

ペンタッチや線はとても奥が深くて、デジタルで描いたものにフィルターかけてアナログっぽく見せる処理はできるんですけど、結局手で描いたほうが速いんですよね。今後もしかしたら全部デジタルになるかもしれませんが、それは「今の自分のタッチを捨てる」という覚悟ないとやるべきではないと思っています。

——そう簡単にアナログは捨てられないということですね

僕がアナログにこだわるのは、線を綺麗に書こうと思っていないからなんです。綺麗な線を描きたいと思っているならデジタルの方がいいから。けど、線のかすれとかインクだまりとかが好きだから未だにアナログから離れられないんです。

——手放せないアナログツールは何ですか?

下書きはシャープペンを使っているので消しゴムの消費がかなり激しいんです。なので、手放せないといえば消しゴムかな。昔からトンボ鉛筆の消しゴム「MONO」を使っていますね。

ツールにこだわりはないんですけど、消しゴムはこれって決めています。机にはかならずこれがありますね。

ここでモノ消しゴムの愛用者であるとの噂を聞いていた編集部からお土産を渡すことに。

シャープペン、油性ボールペンのブラック/レッドがひとつになったトンボ鉛筆の多機能ペン「モノグラフマルチ」だ。ヘッドには先生愛用の「モノ消しゴム」がついている。

——こちらのペン、モノ消しゴム愛用者の先生にぴったりだと思ってお土産に持ってきました。

おお、MONOの消しゴムがそのままデザインになっているんですね。すごくいいですね。安心感があります。信頼の「MONO」って感じですね。

——シャープペンやボールペンはよく使うんですか?

漫画ってネームと言われる絵コンテみたいなものがあるんですけど、ネームを作るときはコピー用紙にシャープペンで書いていますよ。
ラフを書く時もシャープペンやボールペンとかでササッと描いてますね。こんな感じで……

キャラのデザインというのはざっくりとした形が分かればいいので、本当にこういうラフなものを書く時はシャープペンとかボールペンぐらいがちょうどいいですね。

とくにボールペンって強弱がないので、強弱のいらないラフとか、キャラクターの造形の練習とか、あとはクロッキー的な練習とかにはボールペンがちょうどいいと思いますよ。

——このペンの感触はどうですか?

このボールペンは書き出しがすごくスムーズなのでいいですね。こういうスムーズに描けるボールペンでガーッと描いてまずは絵を完成までにもっていくほうがいいと思います。

やっぱり絵は描いたら描いただけうまくなっていくと思うので、スピードをあげて描く練習を何百枚もしたほうがうまくなると思うんですよね。

それと、やっぱり「MONO」っていうブランドがいいですね。このデザインが「自分の道具」っていう感じがします。これからはこれを机に置いておきますよ。

——今後の作品作りのスタンスを聞かせてください

今はなるべく手作業を増やそうという方向性でやっています。時間をかけてもいいから、なるべく手で描くという方針ですね。

自分のタッチの良さを「デデデデ」になってからようやくわかってきたというか、「プンプン」のときはとにかくスピードアップと連載を継続させることが前提だったんですけど、今はもうちょっと絵にこだわって、時間をかけて、より漫画っぽい作品を作るという考えになっています。

スピードアップのためにデジタルを使い始めると際限なくスピードアップできるし、自分の絵じゃなくなっていくという感じがするんです。デジタルに頼るのもいいんでしょうけど、まだ描ける間は描くという行為にこだわりたいですね。

<おわりに>

今回お話を聞いて、先生は自分が描くキャラクターを信じているんだなと感じた。ビジュアルを作る過程では、ときに世間や外部の意見を取り入れながらも、キャラクターそのものへの信頼度は高く、性格や役割などはキャラクターに委ねている。

これからは手で描くことを増やしていく、描くという行為にこだわりたい、という方針もデジタルツールを使いこなしている印象が強い先生だけに心に残る一言だった。

そして、編集部が持参したお土産も気に入ってくれたようで一安心。おんたんと門出を目の前で描いてもらうという貴重な体験もできた。

先生がスムーズな描き心地と褒めてくださったトンボ鉛筆の多機能ペン「モノグラフマルチ」は全国で発売中なので気になる方はチェックしてみてほしい。

これからも目が離せない「デデデデ」は現在第6集まで発売中だ。今回の記事で興味を持った方はこちらもぜひチェックしていただきたい。