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「貧困の連鎖を断ち切るために」──全国に拡大する学習支援団体の挑戦
[PR]内閣府
2023/03/23

「こどもの貧困」とひと言で言ってもその状況は多様で、解決には多角的なアプローチが必要です。

公的支援のみならず、社会全体がこどもたちを取り巻くさまざまな問題に目を向け、支援を届けていくことが、喫緊の課題となります。

本記事では、こどもたちを支える市民の活動に焦点を当て、こどもたちやその支援の現状と、私たちに今できることについて考えてみたいと思います。

(撮影:中野よもぎ塾)

家庭の経済的な困窮が生活や学習に影響し、こどもが進学や就職面で不利な状況に立たされることがあります。そしてそのこどもが大人になりこどもを持つようになっても、経済的な困窮を抱えたままその状態が次の世代に引き継がれてしまうのです。

これが、貧困の連鎖、格差の固定と言われる現象です。

内閣府が2021年12月に発表した「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」では、全国5000組の中学2年生及びその保護者にアンケート調査が行われ、回答のあった約2700組の世帯の中でも、特に貧困の課題を抱えていると考えられる世帯(等価世帯収入<世帯の年間収入を同居家族の人数の平方根で割ったもの>の水準が「中央値の2分の1未満」に該当する世帯)の状況が浮き彫りとなりました(調査は2021年2〜3月)。

中央値とは、各世帯の等価世帯収入の金額を低い順に並べたときに、ちょうど真ん中にあたる値のこと。さらに、その2分の1未満の等価世帯収入で生活する世帯を、同調査では「貧困の課題を抱えている世帯」と捉えています。割合にして12.9%、額としてはおよそ160万円以下となる世帯でした。

また、中央値の2分の1以上中央値未満に該当する世帯を、同調査では「貧困の課題を抱えるリスクが高い世帯」と捉えていますが、こちらは割合にして36.9%。額としてはおよそ160〜320万円の世帯でした。

同調査では、こども(中学2年生)に、クラスの中での成績について質問しています。

この結果、「やや下のほう」「下のほう」と答えた生徒の割合は、等価世帯収入が低い世帯ほど高くなっていることがわかりました。

(内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」をもとに作成)

進学についても、「大学またはそれ以上」を希望する生徒は中央値以上で64.3%なのに対し、中央値の2分の1未満では28.0%と激減。「高校まで」と答える生徒は中央値以上では7.7%だが、中央値の2分の1未満では32.7%にも上っています。

こうした実態を踏まえ、家庭の経済的状況にかかわらず、すべてのこどもが十分に学びの機会や環境を得て、多様な進路を選択できるようにと活動しているのが、学習支援団体です。

現在、こどもたちが無料あるいは低額で学習指導を受けられる学習支援団体が、全国各地に増えつつあります。ほとんどが民間のボランティアによる活動です。

その活動について、詳しく紹介していきましょう。

コロナ禍や教育のICT化の中でも格差を広げないように

まずお話を伺ったのは、認定NPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さん。

キッズドアでは現在、東京都やその近郊、及び宮城県の約60教室で、計1800名以上の小学生から高校生世代を対象に学習支援を行っています。

渡辺さんが2007年に学習支援事業を始めたきっかけは、ご自身の子育て経験から。

「子育てをする中で、親の環境によってこどもの学力や体験に大きな差が出てしまうことに気がついたんです。また、イギリスで子育てを経験したことで気付いたことも多くありました。イギリスではこどもを学校に通わせるのにほとんどお金はかからず、年間で遠足代の500円くらいしか必要ありませんでした。社会全体で子育てをするというのも当たり前で、段差のあるところでベビーカーを押している人がいれば周りの人がすぐに助けます。日本もこうなれば、という思いで活動を始めました」

コロナ禍以降の混乱の中では、改めて教育格差を感じる機会も多かったといいます。

「最初の緊急事態宣言が出た2020年の春には、対面で学習会を開催することができなくなりました。そんな中、学校から宿題を出されても、家に教えてくれる人がいなくて進まない、親としか話せないのが苦しい、といったこどもたちから、学習会を開いてほしいという声が多く上がってきたんです」

当時、飲食店など人が集まる場所は多くが臨時休業となりましたが、進学塾に関しては対面での授業を続行しつつ、オンライン授業を取り入れるというところも多かったのです。

全国一斉休校となった約3カ月の間、塾で学習を補填できる生徒や、インターネットを通じて学習できる生徒と、そうでない生徒の間には、当然差が出てしまいます。

「大学進学に向けた模擬試験もWebを使って自宅受験になったものが多く、パソコンやWi-Fiなど、インターネット環境のない高校生には特に不利な状況に。学習支援を受ける生徒の中には模試を受けられず、学校の先生に〝どうして受けなかったの〟と叱られたという生徒もいました」

文部科学省により2019年に始まったGIGAスクール構想では、全国の児童・生徒に1人1台のパソコン・タブレットや高速ネットワーク環境を整備する計画が進められてきました。

ただ、整備が遅れた自治体もあり、文部科学省「端末利活用状況等の実態調査(令和3年7月末時点)」では3.8%の自治体が整備未完了。仮に学校での整備が完了したとしても、自宅ではインターネットが使えないという家庭も少なくなかったのです。

また、小中学生の場合、端末整備にかかる費用は国が全額負担しますが、高校生については国による負担は一部の補助金のみとなり、自治体によっては「保護者負担」を原則としている場合もあります。端末は何とか確保できても、通信料を払いきれずに使用を控えざるを得ない家庭があるのが実情です。

「キッズドアでもWi-Fiやタブレット、PCなどの貸し出しを進め、対面での学習支援とともにオンラインによる学習支援も始めました。ただ、インターネットが使えた子でも、家の中に一人で落ち着いてオンライン学習支援を受けられる空間がなく、家族が映り込んだり、部屋の中を見られたりしないように、映像をオフにし音声のみで使用する子も多かったです。それでも、家庭以外に人とつながる機会ができて良かったという生徒もいましたし、インターネットを通じて全国どこにいる生徒でも支援できるようになったことは大きかったと思います」

渡辺さんの言うように、オンラインでの学習支援については、難しかった家庭もあれば、支援の手段が広がったことで、新たに支援につながることができたこどもたちもいます。

キッズドアでは2021年度から大学医学部など医療関係の進路を目指す低所得世帯の高校生を対象に「キッズドア学園SBCメディカルコース」をスタートし、通塾型とオンライン型の2コースを用意。また、英語に特化した学習会「English Drive」もオンラインで受けられるようになりました。

「メディカルコースは約80人の受講者のうち、約50人がオンラインです。English Driveも約150人がオンラインで受講しており、〝英検にチャレンジして合格できた〟といった声が聞かれています」

学習支援とひと言で言っても、このように「何を学びたいか」「どう学びたいか」を選べるようになっていくと、通うこどもたちの目的意識が高まり、進学や就職などの効果も上げやすくなっていくのかもしれません。

認定NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長

受験対策、居場所支援etc…多様化する学習支援

低所得世帯のこどもを対象にした学習支援については、自治体が実施するケースも増えており、令和3年度の時点では全国587自治体(65%)が実施しています。

ただ、自治体による学習支援では、対象が「生活保護受給世帯」や「就学援助制度利用世帯」、「ひとり親家庭」などに限られていることが多く、条件には当てはまらないけれど生活が苦しく教育費の捻出が難しい、という家庭には支援が届きにくいのです。

そうした制度の隙間を埋めているのが、キッズドアのような民間の学習支援団体。

その活動内容はさまざまで、高校や大学などの受験対策に力を入れる団体もあれば、居場所としての機能を重視した団体、高卒認定試験や若者の学び直しをサポートする団体も。現在はオンラインで指導する団体も増えてきています。

また、地域によっても学習支援へのニーズは異なります。

たとえば、私立学校への進学志向が強い地域もあれば、多くの生徒が公立に進学する地域もあり、それによって受験に向けた対応も変わってくるのです。また、公立高校は1校しか受けられない自治体もあれば、2校を選択できる自治体も。

前者なら、私立高校に行く余裕のない家庭で成績に余裕がなければ志望校を諦める生徒が出てきますが、後者だと1校はチャレンジできます。受験へのモチベーションも当然変わってくることになるのです。

愛知県で複数の学習支援教室を運営する、東海つばめ学習会の柿本知樹理事長はこう話しています。

「愛知県の公立高校入試は複合選抜制度を採用しているため、公立高校へ進学しやすく、公立志向も高い傾向にあります。また、名古屋市内では地域ごとに所得の差が大きく、経済的に困窮しているとまではいかない家庭のこどもが多い教室も。その場合は、居場所支援としての需要が高くなり、不登校や発達障害のあるこどもを対象にした団体も多くなります」

実は、本記事の筆者も東京で学習支援団体(中野よもぎ塾)を2014年から運営しているのですが、2023年1月現在、筆者が活動する東京都中野区には学習支援団体が15団体以上存在します。

筆者の団体の場合は高校受験を見据えて、中学生の学校の予習復習、入試対策をメインとした個別指導を行っているのですが、他団体では不登校のこどもの居場所として活動する団体や、オンライン授業で低所得世帯のこどもだけでなく入院中などのこどもにも学習支援をする団体などがあります。

学習支援団体が多様化しながら増加したことで、より多様なニーズに応えられるようになってきたということです。

ただ、活動を継続するには困難も多く、一筋縄ではいかないのが実状です。

草の根の学習支援団体が抱える課題とは?

筆者が運営する中野よもぎ塾では、2022年11月に「無料塾シンポジウム」を主催。毎年全国の運営者が意見交換や交流をする会だが、事前に19団体を対象にアンケートを実施しました。

そこで「運営にあたって課題に感じているもの」として、半数の団体が回答したのが「運営資金」。次いで「ボランティア講師」「運営スタッフ」です。

(「無料塾シンポジウム事前アンケート」2022年10月、19団体・個人に調査)

国や自治体、企業からの助成金を活用する団体もあるが、筆者が運営する団体も含め、多くは一般市民からの寄付に頼り、運営スタッフを含め全員がボランティアという団体がほとんど。会場費や教材費などの継続的な捻出に不安を抱える団体も多いのです。

生活困窮する世帯へ食料や文具の配布など学習面以外の支援も行いたくても、その資金が出せない団体もあります。いくらかの助成金を受け取ったとしても、用途が限られることが多く、こどもたちの必要に応じて柔軟に使えるわけではないのです。

中野よもぎ塾では定員25人の生徒のうち、毎年半数から3分の2がひとり親家庭で、また半数が3人以上のこどもがいる家庭です。

その中には、自分の部屋や勉強机を持っていない子、家に本棚のない子、小さなきょうだいたちの世話に忙しく、家の中に落ち着いて勉強できる空間のない子も多くいます。

そんな中、コロナ禍以降は保護者から届く「パートのシフトが減ってしまった」「光熱費が上がったことで暖房がつけられない」「お米が足りない」といった生活に苦労する声も、以前より増えてきました。

そこで2020年の春からは、地域のこども食堂と連携して、フードパントリーも実施しています。

このように学習支援より先に、暮らしの支援をすべきではないかと頭を悩ませる団体も少なくないのが現状。と言っても、その費用の捻出が難しいのです。

さらに、支援を充実させようとすれば、運営にかかわる負担も増えてきます。しかし、運営にかかわるスタッフの確保も、多くの団体が課題と感じている部分です。

前出の東海つばめ学習会・柿本理事長もこう話しています。

「講師のボランティアは確保が容易ですが、教室を維持するために必要な事務作業等に携わるスタッフを確保するのが困難。組織構造上、そこに人件費をかけるのが難しく、かといってボランティアで事務作業をするのには抵抗がある方が多いように感じます。結果的に団体役員に細かい作業が集中してしまっています」

特に民間の寄付をベースに活動する団体では、こうした悩みを抱えながらの活動となります。

社会の目がもっと向けられてくれば状況も改善されるかもしれませんが、今のところこうした支援者たちは、目の前にいるこどもたちに対してできることを、ひとつひとつやっていくしかないのです。

著者が運営する学習支援団体「中野よもぎ塾」の活動の様子 (撮影:中野よもぎ塾)

〝普通のこと〟を社会全体でサポートしよう

家庭の経済的状況のために、こどもの進路が狭められることがなくなってほしい。そのためには、社会全体の意識を変えていく必要もあるでしょう。

認定NPO法人キッズドアの渡辺理事長は次のように語っています。

「日本では、〝個人の責任〟という考えが強くなりすぎて、お金がないことも本人の努力が足りないからだと片付けられがちです。お金のない人は怠けている人だ、とお金のあるなしで人のよしあしを決めつけてその背景にある社会問題を見ない風潮もあり、結果、困っていることを人に言えなくなっているこどもや親が増えてしまう傾向にあると感じます」

社会環境によって経済的に不利な状況に置かれる家庭がある中で、学習支援や居場所支援などに対して「やりすぎだ」と言われることもあるといいます。

「でも、やりすぎだと感じる人たちが思うような〝普通のこと〟を、やれる環境にないこどもが多いということを知ってほしいのです。勉強机を用意してもらう、辞書を買ってもらう。受験に向けて塾で勉強をしたり、塾で進学に関する情報をもらったりする。家族でたまに外食に行き、クリスマスにプレゼントをもらう。こうしたことは、多くのこどもにとって普通のことですよね」

筆者が見てきた中学生の中にも、「クリスマスを家族でお祝いするのは、テレビの中だけの話だと思っていた」というこどもがいました。ホールケーキを食べたこともないというのです。

こうした生徒たちに、ホールケーキを人数に合わせてカットする経験をしてもらうのも、大切な教育のひとつではないかと筆者は考えています。

自己責任なのだから手厚い支援は必要ない、と社会の側が「普通」の基準を下げてしまえば、いずれは社会全体がその下がった基準の「普通」に染まっていくことになるでしょう。

それよりも、全員でこどもたちの豊かな成長を支え、未来に期待するほうがいいはずです。

「教育に投資をすれば、その子たちが将来社会で活躍したり、次世代のこどもたちのためにボランティアするようになったり、返ってくるものも多いはずです。今増えている学習支援団体には地域の方々の理解も大切で、困っているこどもに情報を届けたり、人手など足りない部分を補ったり、親ができない部分は地域で補うという意識を高めて柔軟にサポートしてもらえるといいなと思います」

こう渡辺さんが話すとおり、こどもたちがどのような教育を受けたかによって、将来の社会の様子も変わっていきます。

こどもたちの「知りたい」「学びたい」という意欲を、大人たちがどう支えたか。自立のための知恵とモチベーションをいかに与えたか。

それがこの国の未来を大きく左右するのではないでしょうか。

<取材協力>
●認定特定非営利活動法人キッズドア
2007年設立。すべてのこどもが夢や希望を持てる社会を目指し、小学生から高校生世代のこども約1900人に学習支援や居場所を提供、また全国の困窮子育て家庭約3000世帯を支援し、政策提言なども行っている。

●特定非営利活動法人東海つばめ学習会
愛知県春日井市を拠点として2018年4月1日に開始、学習機会に恵まれないこどもたちに対して無償で学習支援を提供。現在東海地方で8教室を運営。

●こどもの未来応援基金について
個人や企業それぞれに、困難を抱えるこどもたちを支援する方法があります。

ひとつは皆様が、貧困状態にあるこどもたちがいることに目を向け、どうすればそうした状況を改善していけるかを考えていただくこと。そしてもうひとつは、皆様が無理なくできる範囲で、そうしたこどもたちに手を差し伸べていただくことです。

「こどもの未来応援基金」(運営:こどもの未来応援国民運動事務局(内閣府、文部科学省、厚生労働省及び(独)福祉医療機構))では、個人や企業に広く寄付を募り、寄せられたご厚志を、地域に密着してこどもたちへの支援に取り組む支援団体の活動資金として活用することで、多くの方々の「こどもたちに何かしたい」という気持ちをつないでいます。

2016年(平成28)の初回公募から2022年(令和4年)公募までのべ728の支援団体に、総額約15億5300万円の支援を決定しており、応募数も近年増加傾向にあります。

本基金には、直接の御寄付に加え、寄付付商品の購入や、皆様に代わって賛同企業が寄付をする「クリック募金」など、御協力の方法を多数用意しております。

本基金への協力方法やその他詳細については、以下のサイトをご覧ください。

<取材・文>
大西桃子