男性優位の韓国社会への脅威に 映画「三姉妹」公開への苦難

男性優位の韓国社会への脅威に 映画「三姉妹」公開への苦難

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  • 更新日:2022/06/23
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ムン・ソリ/ 1974年7月、韓国・釜山生まれ。99年、イ・チャンドン監督の「ペパーミント・キャンディー」で映画デビュー。同監督の「オアシス」(2002年)では脳性まひのヒロインを熱演。国内外で多くの賞を受賞した。俳優業のみならず、監督、脚本、プロデューサーとしても活躍。主演兼プロデューサーのムン・ソリ(c)C-JeS NET

#MeToo運動以降、女性を主人公にした映画が増えている韓国で主要な女優賞を軒並み獲得した「三姉妹」が公開された。さまざまな困難を抱えながら“家父長制度”の呪縛を解いていく脚本にほれ込み、主演と同時にプロデューサーも引き受けた名優ムン・ソリにインタビューした。

【写真】ムン・ソリが主演兼プロデューサーを務めた映画「三姉妹」がこちら*  *  *

――これは良い映画になる──。できたばかりの脚本を読んですぐ「そんな予感がした」と話すのは、デビュー作で韓国の名匠イ・チャンドンの薫陶を受けた名優ムン・ソリ。「三姉妹」では主演のみならず、プロデューサーも務めた。

物語はそれぞれ問題を抱えながら生きる3姉妹のいまを描きつつ、長年彼女たちを縛りつけていた“家父長制度”からの呪縛を解く。「娘たちの世代が、暴力や嫌悪の時代を越えて、明るく堂々と笑いながら生きていける社会になるようにという願いを込めた作品」(ソリ)だ。

私のところへ台本が送られてくるときは、監督や共演者、出資者や制作費の予算などがだいたいわかっていることが多いんです。でも、この「三姉妹」はイ・スンウォン監督が台本を書き上げてすぐに部屋から送ってくれた状態でしたので、「(良い映画になると思っても)本当に映画にできるのだろうか」という心配もありました。

そこで、監督とお会いして「この映画はぜひ作られてほしい」と伝えたんです。シナリオについてもいろいろと話し合ったのですが、そのうちふと「あれ? これってプロデューサーの会議では?」と思ったんですね。すると、「だったらムン・ソリさんもプロデューサーの肩書をつけたらどうですか」と誘われ、「少しでもお役に立てるのなら」と引き受けることになりました。

――舞台はソウル。花屋を営む長女ヒスク(キム・ソニョン)は反抗期の娘と暮らし、別れた夫の借金を返している。大丈夫なフリをしている彼女だが、最近、がんであることも発覚した。次女のミヨン(ソリ)は教会で聖歌隊の指揮者も務める熱心なキリスト教徒。大学教授の夫と1男1女に恵まれ、高級マンションに最近引っ越したばかり。一見幸せを絵に描いたような完璧な生活だが、あるとき、夫の浮気に気づく。三女のミオク(チャン・ユンジュ)は劇作家だがまったく作品が書けず酒浸りの日々。人の良い夫は必死に妻をサポートするが、ミオクの暴走は止まらない……。

監督からは次女役で頼むと言われましたが、私は三女のミオクをやりたかったんです。大酒を飲んだり、たばこを吸ったり、大声で叫んだり。あんなに自由気ままに生きることは映画の中でなければできないですから。でも、ミオクの年齢もありますので監督に三女をやりたいとは言えず、次女役で承知しました(笑)。実は、ソニョンさんも私と同じ意見だったんです。良いダンナさまに恵まれて、三女が運勢的には一番いいのではないかと。撮影中も「うらやましい」といつも二人で言っていました。

――ミヨンを演じるにあたっては、「大きな苦労はなかった」と言うが、ソリは現実には仏教徒。役作りのために毎週日曜日の教会通いは欠かさなかった。家でも1日1回は賛美歌をピアノで弾くほど、熱心な“キリスト教徒”に。

ミヨンは教会で最初はピアノの伴奏を担当し、のちに聖歌隊の指揮者になったというイメージを抱いていたんです。ただ、撮影が終わるとすぐに教会に行かなくなりました。神様は「あんなに一生懸命教会へ来ていたのに最近は来ないな、裏切ったのかな」と思っているかもしれません(笑)。

――理想の生活を手に入れたようなミヨンだが、夫の浮気相手の女子大生への反撃は戦慄(せんりつ)もの。裏切った夫への物言いも容赦がない。逆に、ヒスクは別れてもなお夫に金をせびられ、誰に対してもビクつき、反射的に謝ってしまう。酒浸りのミオクは酔ってはミヨンに電話をかけ、献身的な夫に暴力的で毒を吐きまくる……。なぜ3姉妹は問題を抱えるようになってしまったのか。その原因がやがて、彼女たちの幼少期に経験した父親の暴力にあることが明かされる。ヒスクと一番下の弟が、父親の激しい暴力の犠牲となっていたのだ。

ミヨンとミオクは直接的な暴力を振るわれてはいませんが、別の暴力を受けていたと私は解釈しました。二人はヒスクと弟が父親から殴られるのを常に間近で傍観するしかなかった。そんな二人も暴力の被害者だと思います。ミヨンが宗教に執着する理由も、常に姉が殴られている姿を見てひどい不安にさいなまれて生きてきたからこそ。母親も含めて、誰もが父親の暴力の被害者だったという気持ちで演じていました。

■超大作はやはり男性が主人公

――映画の終盤は怒濤(どとう)の展開に。それぞれ問題を抱え、バラバラだった3姉妹が一致団結して父を打ち負かす。問題を抱えた30~40代の既婚女性が主人公だけに、出資を募るのは苦労した。男性優位の韓国社会では、3姉妹のような女性たちは、ある種、男性の脅威になると見られるとか。ソリや「愛の不時着」で北朝鮮の人民班長を演じた名バイプレーヤー、ソニョンが出演していても、厳しいのだ。

ただ、そういう難しい作品だと思われたにもかかわらず、出資をしてもらえたことは(プロデューサーとしての)やりがいを感じました。制作が不可能ではなかったことは幸いだったと思います。

韓国映画界では、#MeToo運動以降、女性を主人公にした物語がどんどん増えてきたと思います。ところが、そういう良い状況になってきたところでコロナに見舞われました。劇場にかけられる映画の報酬が減り、韓国映画界はまた大変な時期を迎えていますが、そんな中でも女性の物語は以前より増えてはいます。ただ、依然として超大作はやはり男性が主人公、中心になるケースが多く、女性が主人公の映画はいまだに低予算の映画が多い気がします。

――ところで、姉妹のいないムン・ソリは、この映画に出演して初めて「姉妹の関係を新しく知った」と言う。

3姉妹は同じように心に痛みを抱えていました。お互いを理解し合っていたので、強く連帯できたんだと思います。それがこの映画の良い点の一つ。彼女たちに限らず、今の時代を生きる人々にとって、この映画はとても心強いメッセージになったと思っています。

(ライター・坂口さゆり)

※週刊朝日  2022年7月1日号

坂口さゆり

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