
定期や終身、養老など、複数の種類がある「死亡保険」。保険加入は、長く続く大きな支出となります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、慎重な判断のもと意思決定をすることが重要です。本記事では、金融業界25年のキャリアを持つFP田中和紀氏による著書『FPが教える!マネーリテラシーを高める教科書』(ごきげんビジネス出版)から、適切な死亡保険の考え方について解説します。
本当に必要な死亡時の保険金額を算出する方法
生命保険といえば、死亡保険がメジャーです。死亡保険への加入は扶養している家族がいるかどうかで、いる場合は用意すべき保険金額を算出しましょう。
【例】3人家族(扶養している妻1人と子ども1人の場合)の保険金額
・現在の預貯金 500万円
・今後の生活費 子ども3,000万円+妻5,000万円
・公的保障 2,000万円
〇今後の生活費 8,000万円-2,500万円=5,500万円
→5,500万円が必要
このようにして保険金額を算出してください。細かな作業ではありますが、保険加入は長く続く大きな支出になるので、慎重に検討する必要があります。熟慮したあとに加入した保険は、満足感もあります。加入後に、合理性のない理由で解約する可能性も少なくなるでしょう。
死亡保険の種類
「定期」と「終身」、どちらにすべき?
さらに、死亡保険には定期保険と終身保険があります。一般的に、「足りない保証を補う」といった意味では、定期保険で十分でしょう。
ただし、期限を設けず、死亡したら必ず保険金が支払われ、十分なお金を遺族に残したいと考えれば、終身保険が適しています。掛け捨ての定期保険と違い、確実に保険料が資産として積み上がり、解約したときには返戻金もあります。
終身保険は保険でありながら、貯蓄としても活用できますよ。銀行で貯蓄として預貯金を積み立てるより、保険加入で積み立てるほうが「解約したい」という欲を抑えられ、継続できてよい、という人もいました。
たしかに保険のほうが、解約するときの手続きや心理的ハードルは高いでしょう。自分の感情をコントロールするために、終身保険などを利用するのもよいと思います。ただし、終身保険は保険料も高いため、払える金額で加入しましょう。
「養老保険」の注意点
他には、養老保険や年金保険※などもあります。これらも死亡保障だけでなく、貯蓄性を備えたもので、財産を積み上げていく保険です。ともに途中解約しても解約返戻金が戻ってきます。
※養老保険、年金保険養老保険は満期がきたら満期保険金が支払われ、年金保険は一定年齢を超えれば年金として受給できるもの。
養老保険のエピソードで、親が保険会社の担当者に勧められた保険に加入していたのですが、その保険は子どもの死亡保障で、何もなければ10年後に満期保険金が受け取れる内容でした。
結局、満期保険金が戻ってきたのですが、保険料の7割程度でした。よかれと思って入り、保険料も親が支払うため、FPである私も口出しするのは気が引けました。私の内心は、納得のいく保険ではなく、「手数料目的で、保険担当者が知識のない高齢者に加入させた」というイメージです。
後々納得がいかないようなことが起きないように、高齢の親とは関係を密にして、お金のことを話し合える環境を整えておくとよいでしょう。高齢者はお金を持っており、セールスだけではなく、詐欺にも狙われていますので……。
さらに変額保険や変額年金といって、保険会社が運用し、その結果次第で、支払われる保険金が変化するものもあります(死亡保険金は最低保証があります)。
このように、保険には純粋な保険としての機能だけでなく、貯蓄や運用を行う機能もあるのです。貯蓄や運用は、銀行や証券会社の金融商品でも可能ですが、終身保険などは両方を一緒にでき、便利なのです。
生命保険の節税効果
また、税金の優遇もあります。保険加入には保険料控除といって節税効果もあります。たとえば、年間8万円の保険料を納めれば、その年は4万円の所得控除※があるのです。
※所得控除とは、税金計算される前の所得から差し引くことができる金額のこと。
所得300万円であれば、そこから4万円を引いて、296万円とすることが可能なのです。税率が10%の場合、所得300万円であれば30万円が税金で、296万円であれば29.6万円が税金になります。よって4,000円の節税となり、加入している限り毎年控除があるのです。
このように保険加入には、税金の軽減効果もあるのですね。公的社会保険の補完的役割がある民間の生命保険は、死亡・養老・介護・個人年金などがあり、公的社会保険である遺族年金・介護保険・老齢年金を補完しています。
民間保険のデメリットとして、保険の基本は掛け捨てで、保険事故がなければ損になること。貯蓄機能は利率が悪く、利率がよいものは元本割れが伴うこともあります。社会保険は全額所得控除ですが、民間保険の所得控除は上限があるのです。
田中 和紀
ファイナンシャルプランナー
※本記事は『FPが教える!マネーリテラシーを高める教科書』(ごきげんビジネス出版)一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
田中 和紀