社会問題化した宗教団体「摂理」がコロナ禍で有名大学で勧誘を活発化 SNSを駆使した巧妙な手口

社会問題化した宗教団体「摂理」がコロナ禍で有名大学で勧誘を活発化 SNSを駆使した巧妙な手口

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  • 更新日:2021/09/15
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「摂理」の教祖・鄭明析氏(画像はキリスト教福音宣教会の公式HPより)

2006年、教祖による女性信者への性的暴行疑惑などで日本で社会問題化した「摂理」(キリスト教福音宣教会)が近年、日本国内で大学生を狙った勧誘活動を活発化させているとして、全国の大学が警戒を強めている。そのターゲットは医師や法曹界を志す成績優秀な学生、環境問題やSDGs(持続可能な開発目標)、国際貢献などに関心を持つ「意識の高い」大学生たちだ。サークルやセミナーを装う昔からよくある手口だけではなく、コロナ禍の今、SNSを駆使し、あるときは新入学生の相談に乗る大学OB、あるときは就職活動の指南など、その正体を巧妙に隠して学生たちに近づいているという。

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九州のある大学。一昨年の秋、女子学生Aさんは、同級生の女子に誘われて、学食で開かれたイベントに参加した。その場にいたのは同じ大学の女子学生や、社会人の女性だった。おかしな雰囲気は一切なく、このイベントをきっかけに仲良くなり、ハロウィーン会に参加したり、社会人の自宅でみんなで食事をしたりと交流を持つようになった。時には「グローバルな人材になろう」というテーマで議論し合ったこともあった。若い世代が自分を向上させるため、そうした議論をするのは不自然ではない。

だが12月。クリスマス会の席で、突然、仲間たちから聖書をすすめられた。その後、新型コロナウイルスの影響で対面の機会が減り、聖書を返却できなかったこともあって、オンラインでの聖書の勉強会や朝の礼拝に誘われるようになり、ずるずると参加してしまった。

不信感を抱いたAさんが関係を切ろうと、みんなが集まる礼拝の場に聖書を返しに行ったところ、意に反し「新メンバーのAさんです」などと周りに紹介された。その後、摂理の教祖である鄭明析(チョン・ミョンソク)氏の動画が流れ、やっと正体を悟った。

同じ大学の女子学生Bさんも、「現役の医療系大学生の話が聞けるイベントに参加してみない?」と2人組の女性に話しかけられた。一人は同じ大学の学生で、一人は社会人だった。

Bさんが海外での医療ボランティアに興味を持っていることを話すと、1人が、その経験がある知人がいると教えてくれたため、後日、Zoomミーティングで話を聞くことになった。

1度目のZoomミーティングで、Bさんはその経験者からボランティアの話をたくさん聞いた。ただ、経験者の話はなぜか途中から「自分の軸を持とう」と、テーマがそれていった。

2度目のZoomミーティングでは、その「自分の軸」について話し合った。が、相手の話はまた大きくそれた。

「私の軸は、愛が根底にあるの。よかったら聖書を読んでみない?」

そのとき、Bさんは入学式のオリエンテーションで、演劇部員がカルト宗教の勧誘について、寸劇で実演しながら注意を呼びかけていたことを思い出した。不安を感じたBさんは大学に相談。大学側は摂理メンバーによる勧誘の可能性が高いことを確認した。

「全国の多数の大学で、現役大学生や卒業生の摂理メンバーによる勧誘が活発化しています。中でも狙われているのは医学部生や法曹界を目指す大学生。また、SDGsや環境問題、国際貢献やボランティア活動に関心の高い、意識の高い学生たちです。摂理は信者を増やすため、将来、社会的に影響力を発揮しそうな優秀な学生を狙っているのです」

そう危機感をあらわにするのはカルト宗教に詳しく、大学生らにその危険性の啓発を続けている枝光キリスト教会の岩崎一宏牧師だ。

宗教団体による大学キャンパス内での勧誘は昔からあった。ただ、コロナ禍でそうした活動は停滞しているかと思いきや、逆に摂理は、日本での活動を活発化させているというのだ。

摂理は1978年ごろ、教祖の鄭明析氏が韓国で立ち上げたとされ、日本では1980年代中ごろから布教活動が始まった。鄭氏は信者の女性たちに性的暴行をした疑いが発覚し、2006年に日本でも大きく報じられた。全国の大学に信者がいることがわかり、各大学が対策に乗り出すなど、一時は社会問題にも発展した。

鄭氏はその後、韓国当局に強姦致傷などの容疑で逮捕・起訴された。2018年に懲役10年の刑期を終え出所した。現在は、摂理が「聖地」とする施設にいるとされている。

摂理からの脱会相談などを長年受けている、全国霊感商法対策弁護士連絡会の渡辺博弁護士はこう指摘する。

「鄭氏に近しい信者が、鄭氏が好む容姿の女性信者を探し、日本を訪れた鄭氏に“差し出す”というあまりにひどい手口でした。その後、自殺したり精神を病んだりした女性も複数いましたが、周囲への発覚を恐れて被害届を出す人がおらず、鄭氏を日本で処罰することはできませんでした。現在、鄭氏は韓国から出国できないとはいえ、世界中から韓国に送られ、今も似たような被害を受けている女性がいてもおかしくないと考えています」

日本では刑事事件化されなかったことから、ある脱会者によると、日本の現役信者たちは事件は冤罪(えんざい)だと信じ込んでいるのだという。教団が、勧誘した人をマインドコントロールし、信者として“教育”していく中で、鄭氏は不当に逮捕されたと刷り込んでいくのだという。

カルトと呼ばれる宗教団体は複数あるが、その中でも各地の大学が現在、最も警戒しているのが摂理である。徹底して正体を隠し、大学側の目が届かないSNSでの勧誘を活発化させているためだ。

「摂理のメンバーは、男性も女性も、見た目の好感度が高いメンバーが多いとされていて、勧誘されている側も疑いを持たない。これまでのカルト宗教と大きく違う点です。そして、勧誘した若者を『教育』していく手法も、非常に緻密で戦略的です」(岩崎牧師)

勧誘の入り口も、非常に“魅力的”に仕上げているという。

例えばSDGsや医療関係者の講演会を開き、興味のある学生なら誰もが憧れそうな優秀な社会人の信者を呼ぶ。時には信者ではない大学教授や有名人に講演会への出演を依頼し、“広告塔”として利用する。

国際交流や留学、ボランティア活動に興味がある学生を対象とした交流会を開き、そうした活動経験がある先輩の信者を呼ぶ。

「優秀な現役大学生だけではなく、かつて有名大学の学生だった信者が、今は一流企業や医療、法曹界、官公庁などあらゆる業界に散らばっています。スポーツ選手などの有名人もいます。講演会に参加したらこうした人たちに会えるのですから、その道に志のある学生は感激してしまいます。そうした手口で、とにかく正体隠しを徹底しているのが摂理なのです。さらに、どんな学生をどうやって勧誘するか、ターゲットの絞り方も緻密です。信者の整形外科医が、大学医学部の体育会系部活動の練習場所に出向き、『体が故障してないか見てあげる』などと言って近づいた例もありました」(渡辺弁護士)

コロナ禍の今は、キャンパスに学生がいないためSNSを駆使した勧誘を活発化させている。狙いは、入学前の高校生や就職活動を控えた学生たちだ。

ツイッターで「#春から〇〇大」など新入生だとわかるハッシュタグを見つけると、当該大学の卒業生らの信者がツイートにフレンドリーにコメントし、徐々にダイレクトメッセージにつなげていく。

一定の関係をつくった後は、次のステップである「聖書」に進む。

「聖書のすすめ方も非常に巧妙です。宗教色を隠し、例えば(アップル創業者の)スティーブ・ジョブズなどの偉大な人物たちも聖書を勉強してきている、などと、あくまで自分自身の向上に必要なものとして聖書を持ち出すのです。勉強会を繰り返していくうちに、いつの間にか『救い』や『死後の世界』など摂理の教義に近づき洗脳していく。そして、もう十分にマインドコントロールされた段階になって、教祖である鄭氏の話を切り出すのです」(岩崎牧師)

近年、キャンパス内で摂理による勧誘被害があり、ホームページで名指しして注意を呼びかけている青山学院大学は、「キャンパスで問題が起きれば対策が打てますが、コロナ禍でキャンパスに学生が来ないため、学生たちの動向が把握できない状況です。SNSで勧誘されたら、こちらからは手出しができません」と懸念を強めている。

正体を隠して勧誘する宗教団体は摂理に限らないが、「勧誘の手法が、大学の対策のさらに先を行っている」(岩崎牧師)ことが、各大学が危機感を強める理由だ。青山学院大の塩谷直也・宗教部長はこう批判する。

「最近は、自己肯定感が低い学生がとりわけ多いように感じます。カルト宗教は、自分が受け入れられている実感が欲しい学生や、人生についてまじめに考えている学生を狙ってアプローチを繰り返します。信仰とは、その人が主体的に何を信じるかであって、マインドコントロールによってその人の考えを奪い、信じさせることではありません。正体を隠して勧誘すること自体、相手の自己決定権を侵害しており明かな人権侵害です。マインドコントロールによってその人の貴重な時間を奪い、人生そのものを奪う。極めて犯罪的な行いだと思います」

渡辺弁護士は「正体隠しの勧誘は、その人の信教の自由を侵害するもので、民法709条の不法行為に該当し、違法です」と指摘する。ただ、あらゆる手段での勧誘が横行しているのが現実で、「勧誘の入り口で摂理だと見抜く方法はありません」とも言い切る。

「学生さんたちは、魅力的な集まりに参加した時、単純に『すごい』と思ってしまうのではなく、『すごい』と思わせて引きずり込んでいく手口があることを頭に入れてほしい。親も、いい大学に入れたと安心せず、お子さんがそうした会に参加していないか気にかけてほしい。娘が参加し始めた会をのぞいたら、あまりに爽やかな男女ばかりなので逆になにかおかしいと感じ、正体に気づいたケースもあります」(渡辺弁護士)

では、摂理側はどう答えるのか。摂理に事実確認を求めたところ、文書で回答があった。

まず「正体隠しの勧誘」については、「偽装勧誘はしていない」「聖書の話をするときは宗教であることを相手に伝えている」と回答。「教祖の性的暴行の過去」については、「さまざまな疑問点がある」としたうえで「(最初に逮捕された)中国では現場検証もされて嫌疑は認めらなかったのに、韓国当局は現場検証もせずに有罪判決を下した」と主張した。その他、さまざまな主張を展開した。

<【後編】「摂理」が大学での勧誘活動を活発化 直撃取材に教団は「偽装勧誘はしていない」と回答>では、摂理の「反論」の中身を詳報する。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

國府田英之

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