『新!店長がバカすぎて』早見和真さん ベストセラーの続編を生み出す難しさ

『新!店長がバカすぎて』早見和真さん ベストセラーの続編を生み出す難しさ

  • NEWSポストセブン
  • 更新日:2022/11/25
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『新!店長がバカすぎて』の著者、早見和真さんにインタビュー

【著者インタビュー】早見和真さん/『新! 店長がバカすぎて』/角川春樹事務所/1760円

【本の内容】
舞台は東京・吉祥寺にある「武蔵野書店」吉祥寺本店。2019年に出版された前作『店長がバカすぎて』の最後、社長の出身地・宮崎県の山奥にある店に「店長代理補佐」として異動した店長・山本猛が3年ぶりに吉祥寺本店に店長として戻ってきたところから始まる。相変わらず無駄に長い朝礼、新しく入ったアルバイト……そうした中で、書店員・谷原京子は今日もおおわらわ。社長の代替わり、お客様のクレーム、そして職場の人間関係のトラブル。すべての本好きに読んでほしい、もっと本が好きになる一冊。

この本の売れない時代に、つまらないことを気にしても

書店を舞台にした『新! 店長がバカすぎて』は、大ヒットした『店長がバカすぎて』に続く、早見さんとしては初めて手がけるシリーズ作品になる。

「前から、シリーズを書いてみたい気持ちはあったんです。ただ、1作目が売れた気配もないのに2作目を書くことはしたくないので、貪欲に1作目を売ろうと考えました」

出版社の営業任せにするのではなく、売るために自分から動いたそうだ。

「書店で目をひくことを考えてタイトルをつけましたし、タイトルのキツさを和らげるために、装丁はできるだけポップにかわいくしてほしいとお願いしました。本当は、書店を舞台にすることも、迎合してると思われるんじゃないかと抵抗があったんですけど、この本の売れない時代に、つまらないことを気にしてもしかたないと開き直りました」

書店員の投票で選ばれる本屋大賞は、本の売れ行きを大きく左右する。本屋大賞を介しての利害関係がどうしても生まれてしまうので、本来、同志であるはずの書店員と親しくなることへのためらいが強かったと言う。

その気持ちが、7年前に愛媛に移住して変わった。

「何店か書店回りをしたときに、本当に優秀な女性の書店員さんと知り合って。『店長』の企画が持ち上がる前ですけど、自分が信頼する出版社の営業担当者に紹介して、自分でも月に一度は飯を食うようになりました。彼女が組織への不満や怒りを語ってる瞬間、聞いてるぼくは大笑いしている、みたいなことがたびたびあって。チャップリンが言う、『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ』を地で行く感覚ですよね」

1作目に出てくる作家と主人公の書店員の関係を彷彿させるエピソードだ。

2作目も主人公は同じく吉祥寺にある武蔵野書店本店で働く谷原京子。尊敬する女性の先輩が店長になって喜んでいたのに彼女は退職、支店に飛ばされていた「バカすぎる」山本猛店長が復帰し、京子の受難の日々が再び始まる。

2作目の執筆は思いのほか難しかったそう。

「ほかの作家さんのシリーズものを、金の生る木のようにパッパッと書いているんだろうなんて見てたんですけど、甘かったです。前作がハードルにも壁にも足枷にもなるし、2作目から入る読者のことも考えないといけない。きちんと着地できてるとは思うけど、もっと1作目をぶち壊してもよかったかな。幸い2作目の売れ行きもいいらしいので、もし3作目を書くことがあれば、ビビらず日和らず言い訳せず、死ぬ気で笑わせにいきますよ」

出版業界を取り巻く状況は引き続き厳しいが、未来へと続く希望を感じさせる2作目のストーリーには、早見さんの作家としての心情も投影されているのだろうか。

「間違いなくそれはあります。作家デビューしてよかったな、と思うできごとはそれほど多くないんですけど、そのひとつが中学生の読者からもらったファンレターで、『もう1日だけがんばって生きてみようと思います』と書いてあったんです。そう言ってもらえたぼく自身、先達の作品に救われ支えられてきた。そうやって思いが継承される感覚はこの本にも持ち込んでいますね」

幸か不幸か受賞していないので「所属」が決まっていない

自分の経験をもとにしたデビュー作の野球小説『ひゃくはち』以来、1作ごとに作品の傾向をがらりと変えてきた。

「『八月の母』を書くぐらいまでは、自分は何が得意なのかわかってなくて、いろいろチャレンジしたかった、というのがまずあります。ぼくが新人賞を取ってデビューしていないのも大きいです。たとえば江戸川乱歩賞を取ったらミステリーとか、なんとなく傾向が決まったでしょうけど、幸か不幸か受賞していないので、『所属』が決まってないんです。

よく、何にも縛られたくないとか、自由でいたいっていいますよね。ありふれた言葉ですけど、ぼくは群を抜いて、そういう気持ちが強そうで、おまえはこういう作家だと決められたくない気持ちが嫌悪感に近いぐらい強いというのもあります」

『店長がバカすぎて』も、社会派の長篇ミステリー『イノセント・デイズ』を読んだ角川春樹氏に、おれに向けて『イノセント・デイズ』を書いてほしいと依頼され、早見さんの出した答えが書店を舞台にしたコメディーだった。

「言われたまま書くのはやだな、春樹さんの想像を絶するものを書きたいな、と思ったんですよ。第1話の原稿を渡したときは相当面食らったみたいですけど、面白がってもらえて勇気づけられました。注文にあったミステリーの要素もちゃんと入ってますしね(笑い)」

何ものにも縛られたくないあまり、6年ごとに住む場所を変えている。東京から伊豆半島の河津町、さらに愛媛県松山市に移り、今年の春、一人娘が東京の中学に合格したのを機に、東京に戻った。

「前に東京に住んでたころ、妻はいい会社に勤めてたんですけど、『君がサラリーマンだから移住もできない』って冗談を言ったら、ぼくに相談なく会社を辞めてきちゃって。生後半年の娘を連れて移住しました。ストイックに小説にだけ向き合って書いたのが『イノセント・デイズ』ですけど、10書けると思っていたものが3、4しか書けていない気がして、またやり方を変えたくなって。

次に住んだ松山では、ずっと避けてきた、小説家らしからぬことを全部やる、をテーマに講演やラジオ番組を引き受けたり、新聞で童話(『かなしきデブ猫ちゃん』)を連載したり。さんざん人生を振り回している娘が東京の学校を選んだので今年、東京に戻って来ましたけど、彼女が高校卒業する5年後には海外に移り住みたいと思っています」

候補に考えているのは南米のチリで、そのためにスペイン語の勉強も始めたそうだ。

【プロフィール】
早見和真(はやみ・かずまさ)/1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』でデビュー(映画化、コミック化)。2014年『ぼくたちの家族』が映画化。2015年『イノセント・デイズ』が日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞(テレビドラマ化)。2020年『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞を受賞。同年『店長がバカすぎて』が本屋大賞にノミネートされた。ほかに『小説王』『笑うマトリョーシカ』『八月の母』など。

取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2022年12月8日号

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