中国から仕掛けられている「戦争」に気づいてない日本人

中国から仕掛けられている「戦争」に気づいてない日本人

  • WANI BOOKS NewsCrunch
  • 更新日:2021/10/14
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2021年8月、中国人民解放軍は声明で、台湾付近の空域および海域で軍事演習を実施したと表明しました。演習は外部からの干渉と、台湾独立勢力による挑発への対応としています。親中派に限らず、日本人は中国が戦争を仕掛けてくるなんて夢にも思ってない人が大半。しかし、そういった人々の何%が、今の中国人民解放軍の実力や内情を知っているのでしょうか。ジャーナリストの福島香織氏が警鐘を鳴らします。

※本記事は、福島香織:著『ウイグル・香港を殺すもの - ジェノサイド国家中国』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

人民解放軍は“弱い”から大丈夫?

親中派に限らず「中国が戦争を仕掛けてくるなんてありえない」という意見の人たちが、意外とたくさんいます。しかし、彼らの話をよく聞いてみると、その大半は“人民解放軍の実力に対する評価”と“戦争に対する認識”が、ひと昔前のままで止まっていて、アップデートされていません。

そもそも、彼らは人民解放軍を過小評価しすぎています。たしかにひと昔前は、数字上の戦力はあっても、規律の緩んだ“弱い”軍隊だったかもしれません。しかし、習近平政権になってから「強軍化路線」の軍制改革が進められ、実践を想定した訓練も増えました。

習近平政権は、今世紀半ばまでに「戦争ができる、戦争に勝てる」一流の軍隊を建設することを大目標の一つに掲げています。それを受けて、2019年3月1日には『解放軍軍事訓練監察条例』が施行され、解放軍が習近平の要求する実力に到達しているかを実戦想定レベルではかるための基準や制度が整えられました。

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▲中国人民解放軍 出典:ウィキメディア・コモンズ

軍事費の増大に関しては、言わずもがなです。中国政府が2021年3月5日の全人代で公表したところによると、2021年の国防費予算(中央政府分)は、前年比6.8%増の1兆3500億元(約22兆6000億円)にものぼりました。ちなみに、中国の国防費のなかには兵器開発費や、外国からの武器購入費はほとんど含まれていません。一般に公表されている国防費の3倍ぐらいが、実質的な国防費であろうとみられています。

一方、日本の防衛費の2021年度予算は、7年連続で過去最大を更新しているとはいえ、中国の4分の1以下、5兆3422億円に過ぎません。

これらの事実を踏まえると、習近平が軍を掌握しているか、あるいは解放軍が習近平に忠誠を誓っているか、という問題は別にしても、解放軍の実力は“確実に伸びている”とみて間違いないでしょう。

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▲中国国防費の推移 出典:『ウイグル・香港を殺すもの - ジェノサイド国家中国』

米国防情報局(DIA)や、アメリカのシンクタンクのランド研究所などが出している中国軍の実力評価に関するレポートを読むと、ものすごく評価の高い部分と低い部分が混在している印象があります。

評価の低い部分はまず、軍事人材が極度に欠乏している点です。これには軍人の練度や、反腐敗キャンペーンなどの権力闘争に伴う優秀な軍人のパージ、軍内の腐敗なども影響を及ぼしているでしょう。

一方、評価されているのは、宇宙空間の利用やサイバー攻撃、情報心理戦や法律戦などを伴う「情報化戦争」に対する準備を、大きく進めている点です。宇宙軍やサイバー軍などの領域も、将来を見越して予算と人的資源を積極的に投入しています。

また、軍民融合戦略として、中央軍事委員会科学技術委員会などに民間人を入れたり、戦争行為以外の非軍事行動を行う「複合型軍人」を増やしたりするなど、中国は“戦争に勝つための非戦争行為”を、軍民協力して行う能力が高いとされています。

たとえば、解放軍海軍と海警局と漁民(海上民兵)の連合作戦能力などは、中国が領有権を争う岩礁の実効支配などで効果を発揮してきました。

その他、DIAのレポートでは、艦船設計や中長距離ミサイル、ハイパーソニック兵器など中国の一部の軍事技術は、すでに世界の最先端に達していると評価しています。はっきりいって、今日の人民解放軍の実力は決して侮っていいものではないのです。

知らないところで中国は日本に戦争を仕掛けている

「超限戦」という概念をご存じでしょうか。あるいは「ハイブリットウォー」といったほうが一般的には馴染みがあるかもしれません。

ひと言でいえば、ルールや制約のない「何でもアリ」の戦争のことです。目標を達成するためなら、兵器などを使用する通常の戦争手段だけでなく、外交戦や諜報戦、金融戦にサイバーテロなど、インターネット・メディア・SNSを通じた世論の誘導工作などをフルに活用して相手に攻撃を仕掛ける――政治・社会・文化・宗教・心理・思想など、およそ社会を構成するものをすべて戦争に利用して、自国が有利になるように戦略を組み立てていくわけです。

「ハイブリットウォー」の概念を最初に打ち出したのは、実は中国の軍人です。喬良と王湘穂という解放軍の大佐が、1999年に書いた戦略書『超限戦』がベースになりました。

この“新しい戦争のかたち”には、これまでの戦争の常識やルールはあてはまりません。というより、そもそも「ルールなしで戦うという」のが超限戦の考えかたなのです。

それを肯定するかしないか、好きか嫌いかにかかわらず、超限戦はもうすでに始まっています。実際、2014年のクリミア危機・ウクライナ紛争では、ロシアがハイブリットウォーによって、ほぼ無傷であっという間にクリミアを併合してしまい、世界に衝撃を与えました。

このまま超限戦がスタンダードになると、もはや単純に軍事力の差や過去の戦績だけでは、戦争の“強さ”を比べられなくなります。

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▲ クリミアに展開する「リトル・グリーンメン」と呼ばれる国籍を隠した部隊 出典:ウィキメディア・コモンズ

民間人を戦闘・工作に利用することや、フェイクニュースを流すことにためらいがなく、人民・金融・経済・宗教まで統制下に置くことができる中国のような全体主義独裁国家と、自由や法治といった価値観を尊び、それを侵すものはたとえ自国政府でも批判するメディアや、大衆が国内に存在する自由・民主主義国家とでは、こと超限戦に限って言えば、どちらが有利かは明らかです。

超限戦は、全体主義独裁国家の“強み”を最大限に発揮できる戦いかた、と言っても過言ではないでしょう。

特に、ミサイルや戦車でドンパチやる“昔ながらの戦争”しか法的に想定していない日本のような国が相手だと、その差は圧倒的です。それどころか、日本の場合は、外国の対日工作に対する危機意識もないので、現実に中国から超限戦を仕掛けられていることすら気づいていません。

だからこそ、識者と呼ばれるような人たちでも「中国が戦争を仕掛けてくるなんてありえない」などとノンキに言っていられるのです。

たしかに、中国が“昔ながらの戦争”を仕掛けてくる可能性は、前述の通り低いかもしれませんが、超限戦はすでに始まっています。

超限戦の最大ポイントは、戦争をバトルフィールド(戦場)に集中させるのではなく、社会に広く分散させ、“ひとつひとつの戦いを矮小化する”ことです。言い換えると、それは「相手国に戦争の渦中にあることすら気づかせないまま、大勢の人を戦いに巻き込んで目標を達成する」という戦略なのです。

実はそうした“見えない戦争”のほうが、目に見える“昔ながらの戦争”よりも、はるかに大きな犠牲を払う結果になるということを、私たち日本人は知っておくべきでしょう。

福島 香織

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