日本初の「ガチ勝負」 アイスホッケー・トップリーグ王者VS大学王者が実現した背景

日本初の「ガチ勝負」 アイスホッケー・トップリーグ王者VS大学王者が実現した背景

  • THE ANSWER
  • 更新日:2022/08/06
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アジアリーグ2021年度王者となったレッドイーグルス北海道が大学覇者を迎え撃つ【写真提供:レッドイーグルス北海道】

8月14日に氷都・苫小牧で有観客でのプレシーズンゲームを実施

8月14日、氷都・苫小牧を舞台に日本アイスホッケー界初の試みが行われる。この日開催されるのは「レッドイーグルス北海道プレシーズンゲーム2022『ブリングアップチャレンジマッチ』レッドイーグルス北海道vs東洋大学」。昨季のアジアリーグ覇者・レッドイーグルス北海道(以下イーグルス)、昨季大学3冠(秩父宮杯・リーグ戦・インカレ優勝)を果たした東洋大という“2トップ”が本気でぶつかり、火花を散らす。

これまでアイスホッケー界では、無観客の練習試合としてトップリーグチームと大学生チームが対戦することはあったが、有観客のプレシーズンゲームとしての開催は今回が初めて。実現した背景には、イーグルスを率いて4年目の菅原宣宏監督と、東洋大で10年目を迎える鈴木貴人監督に共通する、アイスホッケー界に対する熱い想いがあった。

菅原監督と鈴木監督は、駒大苫小牧高の同級生。アイスホッケー部で濃厚な時間を共有した気の置けない仲間だ。イーグルスの前身・王子製紙が拠点とした苫小牧で育ち、小学生の頃からリンク上で鎬を削ってきた。小中学生だった1980年代は王子製紙が10シーズンで8度優勝する全盛期で、1998年長野五輪の頃までアイスホッケーが高い人気を誇っていた記憶が鮮明に残る。

2人は「今でも8割はホッケーの話」(鈴木)だと言い、日頃から日本のアイスホッケーを強化するにはどうしたらいいか、盛り上げるための策はないかなどを話す中で、今回のプレシーズンゲームが実現した。

鈴木「こういうアイディアは、これまでなかったわけではないと思います。ただ、こんなことはあり得ないだろうという、今までのスタンダードが強かった。現在はトップチーム全てがクラブチーム化したので、自立してホッケー界をなんとかしていかなければいけないと考えるチームや関係者が増えてきたことによって、この企画が実現したんだと思います」

菅原「2021年に私たちが実業団からクラブチームとなり、全5チームがクラブチーム化したことで興行を打ちやすくなったことは大きな要因です。ただ、やはり今までアイディアはあっても、実現に向けて一歩踏み出さなかったこともある。日本のアイスホッケー界は昔に比べると低迷しているので、国内ではトップチームに次ぐレベルの大学リーグを強化することが、アイスホッケー界全体の発展のために重要だと思っています」

菅原「常にトップにいるべきという自負がある。その違いを大学生に見せてあげたい」

2021年のイーグルス誕生を受け、トップチーム全てがクラブチームとなったアイスホッケー界は今、変革の真っ只中にある。そんな時だからこそ、トップチームと大学チームが協力し、新たな可能性を模索しながら、未来に繋がるチャレンジに踏み切ることは、関わる全ての人にとってメリットしかないという。

鈴木「トップリーグの中でもトップの実力を持ったイーグルスに胸を貸していただけるのは本当にありがたいこと。有観客で公式戦に近い形の試合になるので、トップリーグの雰囲気や緊張感、楽しさといったものを、学生が経験できるのはすごく大きなモチベーションになると思います。トップリーグと学生の差であったり、雰囲気の違いであったり、学生たちは自然に感じることがある。卒業後は違う道に進む学生もいますが、将来的に財産になる経験だと思います」

菅原「練習試合と有観客試合では選手のモチベーションが違いますし、本気度も違う。私たちにとっても試合数が増えるのは有益なこと。特にこの2年はコロナ禍の影響でアジアリーグも日本国内5チームのみで実施していたので、例年通りの試合数がこなせていません。9月のアジアリーグ開幕に向けて1試合でも多くできることに感謝しよう、そして大学生にとって何か得る物を残せる試合にしよう、と選手に伝えました」

鈴木「イーグルスの練習相手として、東洋大が期待に応えられる実力なのかは分からない部分はあります。ただ、イーグルスもアイスホッケー界全体の底上げを視野に入れてくれているのが嬉しいところ。新しい風を吹かせたいということで、トップリーグと大学のナンバーワン対決で盛り上げていければ、という想いがあります」

菅原「東洋大には日本代表候補が4、5名いるので、そこまで実力が離れているとは思わないですが、私たちも常にトップリーグのトップにいるべきという自負がある。その違いを大学生に見せてあげたいと思うし、トップ選手の経験値を感じ取ってもらいたいですね」

鈴木「今回を第1回として、2回、3回と続ける中でチーム数を増やして大会にしたり、アイスホッケークリニックを開催するなど地域の子どもたちをサポートする活動であったり、大きな視野でアイスホッケーが盛り上がり、氷都・苫小牧がさらに活気づく形も考えていきたいですね」

ライバル企業が揃ってスポンサーに…鈴木「企画を価値あるものと感じていただき嬉しい」

今回の試合には「ブリングアップチャレンジマッチ」という冠がついている。「ブリングアップ」とは、鈴木監督も活動に加わる「ブリングアップ・アスレチックソサエティ(BUAS)」のこと。スポーツを通じた人間形成を目的とする団体で、小中学生を対象としたラグビー、アイスホッケー、陸上のアカデミーを運営すると同時に、指導者の育成にも尽力。競技の枠を越えた交流も盛んで、日本スポーツ界がさらに発展するように画期的で興味深い取り組みをしている。

BUASの代表を務めるのは、元ラグビー日本代表主将の菊谷崇氏。今年から日本大学ラグビー部でヘッドコーチを務める菊谷氏は、鈴木監督と菅原監督のアイスホッケー界を思う気持ちに賛同し、冠スポンサーとして名乗りを上げた。企業チームがクラブチーム化する流れは、ラグビーをはじめ日本スポーツ界に見られる傾向の1つ。菊谷氏はラグビーでもトップチームと大学チームが練習試合を行うことにも触れながら、「今回のアイスホッケーの新たな試みは、他競技でも採り入れることができるのではないか」と期待を寄せる。

その他にも今回は10社を超える企業がスポンサーとして協力。地元・苫小牧の企業はもちろんのこと、用具メーカーではBauer、CCM、Warriorの3社がスポンサーに名を連ねた。普段はライバル関係にある同業他社が同じイベントのスポンサーになることは異例の出来事。鈴木監督は「アイスホッケーをなんとかみんなで盛り上げようという気持ち、この企画を価値あるものだと感じてくださる方がこれだけ多くいることを、本当に嬉しく思います」と目を細める。

アイスホッケー界初の試みに向けて、試合をする人、支援する人の準備は整った。あとは8月14日の試合当日、会場となる白鳥王子アイスアリーナに大勢の観客が集まってくれれば言うことはない。

鈴木「アジアリーグと大学リーグでは若干お客さんの層が違う部分もあるので、これをきっかけにアジアリーグを見ていた人が大学にも注目し、大学を見ていた人がアジアリーグにも注目してくれるといいですね。本当にいろいろな人に見てもらい、アイスホッケー界が盛り上がる、いいきっかけになればと思います」

菅原「高校生や中学生には是非見に来てほしいですね。この試合からいろいろ刺激を受けてもらいたいです。今、トップリーグは5チームしかなく選手の数も少ないので、子どもたちの目標として現実的ではなくなっている。子どもたちに目標を聞くと『東洋大学に行きたい』って言うんです、イーグルスではなく……。だからこそ、イーグルスの凄さも見せてあげたいですし(笑)」

鈴木「そこは譲れないので、ガチの勝負ですね(笑)」

盟友2人の深いアイスホッケー愛が原動力となり、踏み出した新たな一歩。アイスホッケー界を変えるかもしれない真剣勝負を見逃す手はない。

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

THE ANSWER編集部・佐藤 直子

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