コロナよりも怖い日本人の「正義中毒」 和田秀樹×中野信子が解説

コロナよりも怖い日本人の「正義中毒」 和田秀樹×中野信子が解説

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  • 更新日:2021/04/08
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中野信子さん (撮影/写真部・高野楓菜)

新型コロナウイルスとの闘いが始まって、1年あまり。「新しい生活様式」のなかで自粛警察が横行するなど、この間に、日本が抱える問題点が浮き彫りになってきた。精神科医の和田秀樹氏と脳科学者の中野信子氏が分析する。

【和田秀樹さんの写真はこちら】

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和田:新型コロナウイルスは、日本やアジアではインフルエンザと大して変わらないんですよ。日本でのインフルエンザでの死者数は、年に約1万人(注1)ですから。

中野:コロナで怖く感じたのは、むしろ営業を継続する店への嫌がらせとか、ちょっと出かけただけでバッシングするとか。そういう人間の行動です。本人は強い正義感でやっているつもりでしょうが、他人を攻撃することでドーパミンが放出され、快楽にはまってしまうんです。私はそれを「正義中毒」と呼んでいます。

和田:飲食店がどういう対策を取っているかが重要なのに、形式的に開けているか開けていないかで、悪いか良いかを決めて、叩く。

中野:日本人は「スパイト行動(注2)」を取りがちだという実験結果が出ています。自分以外の人間が得をしているのを見ると、許せないという気持ちが強い。そのため、皆が我慢をしているときに得をしている人がいると、その人を激しい攻撃対象にしてしまうんです。攻撃のターゲットにならないように、皆、より強く我慢を強いられます。マスクにしても、「自分はルールを遵守する人間ですよ」という象徴。ルールに従う人、従わない人を峻別する装置です。

和田:日本人は、ルールは絶対に守らないといけないという強迫観念が強い。そしていったん決まったルールを変えるのは、とても苦手なんです。

中野:敗戦という集団的な大きなトラウマ体験があると、自分たちがもともと持っていた価値観に自信を喪失してしまうということはあるのでしょうか? それで、自分で新しくルールを設定しにくいとか。

和田:日本のように長い歴史で1回しか負けたことがないと、「負けたら最後、相手の言うことを全面的に聞かないといけない」と刷り込まれる可能性があるでしょう。トラウマに関していえば、あまりにもひどいことをされたら、割と加害者の言うことを聞くんですよ。たとえば子どもが親からひどい虐待を受けると、親の機嫌を取るようになる。「サレンダー心理」といって、無抵抗の状態に陥ってしまうんです。

中野:学習性無力感に類する心理ですね。

和田:ええ。日本は原爆を落とされ、アメリカにサレンダー状態にされてしまった。そのため従順になってしまったんだと思います。戦争の前、大正時代なんかは本当に自由だったのに。

中野:ヨーロッパの研究者が面白い実験をしました。被験者に対してルールを説明して、ゲームをさせるんです。でもそのルールには仕掛けがあり、ゲームを続けていくうちに「ルールがおかしい」ことに気づくようになっているんです。被験者の反応は、2種類に分かれます。「先生の言ったルールは間違っている。自分で考えたルールにのっとってやったほうがいい」という人と「先生が言ったんだから、最後までそのルールでやる」という人と。ふたつのグループの遺伝子を比べたら、ドーパミンの代謝酵素に変異があることがわかりました。国別にその変異の割合というのも調査されましたが、日本人はルールを変えない、つまり先生の言ったことに従いやすい人が多いんです。

和田:それに加えて僕は、日本の大学教育に致命的な欠陥があると思うんですよ。高等教育では、物事を疑うことが大切。教授とディスカッションするとか喧嘩をするくらいのほうがいい。

中野:同感です。人が決めた答えを選ぶのが、これまでの日本の大学入試であり大学教育でした。体制に合わせなければ生かしてもらえない。そういう教育で、不確実性の時代を生き延びていけるのか……。

和田:日本では入試の面接は教授がやるでしょう。でもアメリカでは、教授ではなくアドミッションオフィス(入学事務局)の担当者が面接するんです。それで、教授に逆らいそうな生徒を採る。

中野:そうなんですか。日本では、優秀な人を採るというよりも、教授の手足となって働けそうな人を採っていますね。

和田:医者の世界ではその悪弊が強くて、上が言ったことには逆らってはいけないんです。1980年代に近藤誠先生が乳がん治療において乳房温存療法を提唱したら、権威から大バッシングを受けました。でも今では、乳房温存療法は標準治療になっています。近藤先生を叩いた人たちが定年退職したから。

中野:自分と違う考えを知ったことで自分はより豊かになった、と考えられないのは残念です。

和田:日本は失敗しないという前提で物事を進めます。アメリカとの戦争も、負けると思っていなかったわけです。原発も、事故が起きない前提でやっているでしょう。

中野:そうですよね。私が留学していたフランスでは、原発事故は「あってはならない」ことだけど、「事故ゼロ」もありえない。いざ事故が起きたときにどうすれば被害を最小限に抑えられるか、という考えがしっかりあったのは興味深いことでした。

和田:日本だと、いじめをなくそうとか、コロナをなくそうという方向で考える。いじめられた子がいたらどうしようかとか、コロナの患者をどうしようかということは、あまり。だから1年経っても、医療体制が逼迫なんて状態なんです。

中野:極言すれば、なかったことにするか、起きたときにどうするか対処法を準備しておくかの2択ですが、後者のほうが、建設的な方法だと思います。

和田:医療については、過度な専門化が進んだことも問題です。そのうえ、ある専門家が言ったことについては、他の分野の専門家は反対意見を言わないという不文律ができてしまいました。たとえば循環器内科の医者にとって、コレステロールは天敵です。動脈硬化を引き起こしやすいから。でもコレステロール値が高いほうが、免疫力は高い。免疫系の医者はそう主張すべきなのに、先に診た循環器系が減らすように言ったら黙っちゃう。

中野:たしかに。

和田:コロナ対策で、感染症学者は外出を控えるように訴えました。感染のことだけを考えたらそうだけど、精神科医の立場から考えると絶対にまずい。免疫学的にもまずいし、老年医学の見地でもサルコペニアの原因を作っているようなものでまずい。でも感染症学者だけが暴走し、他の科の先生方は何も言わない。

中野:領域横断的な議論がしにくいということは、ずっと前から言われてるんですよね。そのひずみが表面化したんですね。

(構成/本誌・菊地武顕)

(注1)インフルエンザによる直接死と、原疾患が悪化して死んだ間接死を合わせたインフルエンザ超過死亡の推計。

(注2)たとえ自分が損をしてでも、他人が得をしないように足を引っ張る行為。

中野信子(なかの・のぶこ)/1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授。最新の脳科学・脳認知学の成果をわかりやすく解説することに定評があり、テレビ「ワイド!スクランブル」金曜コメンテーター。多数の著書があり、今月、『生贄探し暴走する脳』(共著)刊行予定。

和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大学附属病院精神神経科、老人科、神経内科で研修。現在は国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長などを務める。心理学や受験指導に関する書籍を多数執筆。今月、『孤独と上手につきあう9つの習慣』が文庫化予定。

>>【後編/テレワークが命を救った? 和田秀樹の「自殺者急増」予想が外れた理由】へ続く

※週刊朝日  2021年4月16日号より抜粋

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