中洲に戻らぬ“社用族” 名店や老舗も閉店...常連は「行けなくてごめん」

中洲に戻らぬ“社用族” 名店や老舗も閉店...常連は「行けなくてごめん」

  • 西日本新聞
  • 更新日:2020/10/22
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開店したスナックで客と談笑する秋月みなみさん=15日午後8時ごろ、福岡市博多区(撮影・帖地洸平)

歓楽街・中洲(福岡市博多区)の目抜き通りの交差点。その片隅で、ダークスーツに身を包んだ白髪の男性が行き交う人々をじっと見つめる。60代。高級クラブの幹部従業員。30代前半から店の“黒服”として働く。

店の仕事がないときはこの場に立ち、一度でも来店した企業人を見つければ深々とお辞儀する。20年以上続ける仕事の流儀だ。

交差点の風景は新型コロナウイルスによって一変。緊急事態宣言が出されると人通りは消えた。6月から中洲の多くの飲食店が再開。一部で感染者が発生した危機は乗り越え、政府の観光支援事業「Go To トラベル」で持ち直した感はある。それでも人出はコロナ前の半分以下だと感じる。

その中で目につくのは若い世代。男性の店を利用するような、接待や会合で歓楽街を訪れる背広姿の“社用族”が少ない。「コロナ前は20人以上にあいさつした。でも、今は1人いるかどうか…」

地場経済界の重鎮とも交流し、接客業のイロハを学んできたと自負する男性は中洲の現状に危機感を抱く。「このままだと社交場文化が廃れてしまう…」

「ここに残る」新規開店も

男性はバー店員だった30年近く前、知り合った大企業の幹部に「良い仕事がある」と誘われ、高級クラブで働きだした。

そこは女性たちが潤滑油となり、多様な企業の幹部らが交流する場所だった。会合や接待で築いた人脈は新たなビジネスにつながる。「企業と店で中洲の社交場文化をつくってきた」と男性は言う。しかし今、店に企業人たちの姿は少ない。

中洲では、営業再開後の7月中旬にキャバクラ店で新型コロナのクラスター(感染者集団)が発生。その数は1カ月で計8件に及んだ。ただ9月以降、福岡市内で新たな感染が330人(10月15日現在)確認されたのに対し、中洲関連は2~3人。クラスターはない。市の感染症対策担当は「それぞれの飲食店が対策に努めた成果だ」と評価する。

それでも、男性の店に来ていた企業人の戻りは悪い。ある言葉の印象が影響しているようにも思える。

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「夜の街」。新型コロナの感染が拡大する中、政府や自治体は接待を伴う飲食店をこう呼んだ。感染者が出たときの状況や予防策は店によって異なるのに、「夜」とひとくくりにして、リスクが凝縮した場所であるかのように扱った。

コロナ前までよく通った広告代理店勤務の30代男性は「会合の自粛令が続いており、接待経費が使えない」。地場建設会社役員の60代男性は「取引先とも『やめとこう』という話になる」と打ち明ける。

「接待を伴う飲食店への出入りを控える」との社内通達が継続中の地場大手では、店内で十分な感染対策が取られているなどの条件で出入りを容認。だが役員の男性は「部下に求めているだけに、感染した場合の周囲からの視線を考えると行きにくい」と言う。

多くの財界人に親しまれるクラブ「まつ本」も客足が落ち込んだまま。1日数組のこともある。オーナーママの松本靖子さん(81)には常連の企業幹部から「行けなくて申し訳ない」と連絡があるといい、「言葉だけで心が温まる。(企業人としての)立場は分かるので今はその気持ちで十分」と話す。

「従業員の生活もあるから」と営業を続け、自身も背筋を伸ばして店に立つ。「一人でもお客さまがいらっしゃるなら私が店にいないと」

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空襲で焼け野原だった中洲は戦後に飲食店が集まり、今の姿に発展した。2300軒余りがひしめくこのエリアでは「数百軒がなくなった」とのうわさが流れる。これに対し、地場不動産会社は「元々入れ替わりが激しく、減少は数十軒にとどまる」と否定する。

「名店」「老舗」と呼ばれた風格のある高級クラブが店を閉めた例は数件あり、それが人々の心を動揺させているようだ。

閉店したクラブで8年間働いた秋月みなみさん(27)は中洲に残ると決め、今月15日にスナック「サウス」をオープン。周囲は「この時期に無謀すぎる」と反対したが、振り切った。「元気そうなのが、一人でも多かったら良いでしょ」

開店日。客がどれだけ来るか不安だったが、かつての常連が駆け付け、店には胡蝶蘭(こちょうらん)が並んだ。「この街で人との接し方や会話術、礼儀の大切さを学んだ。ここが私の居場所だと思う」。新たな社交の場をつくろうとしている。 (井崎圭)

西日本新聞

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