実在した「阿片王」も登場する!?──『満州アヘンスクワッド』禁断の麻薬と昭和の裏面史

実在した「阿片王」も登場する!?──『満州アヘンスクワッド』禁断の麻薬と昭和の裏面史

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2021/02/21
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──今もっとも注目されているマンガ、『満州アヘンスクワッド』をご存知だろうか。本作は満州という日本の傀儡国家を舞台にした、アヘンの製造と流通がテーマのクライムサスペンスだ。一体、なぜこのような歴史のタブーに挑戦するのか? 作者たちに語り合ってもらった。(「月刊サイゾー」12月号より転載)

時は昭和12(1937)年、場所は満州国。戦地で負傷し、右目の視力を失ったことから、軍の食糧を作る農業義勇軍に回された日方勇は、ある日、農場の片隅でケシが栽培されていることに気づき、やがて病気の母を救うためアヘンの密造に手を染める……。

そんな刺激的な導入で始まるマンガ『満州アヘンスクワッド』(講談社)が今、注目を集めている。マンガアプリ「コミックDAYS」で連載中の本作は、8月11日に第1巻が発売されるや否や即重版が決定。11月現在では3刷に到達している。

海外ドラマを思わせる壮大な世界観。史実と虚構の間を自由に行き来する、歴史モノならではの味わい。主人公・勇を中心に、中国に実在した秘密結社「青幇」の首領・杜月笙の娘という設定のオリジナルキャラクター・麗華など、個性豊かな登場人物が織りなす人間模様。そんな彼らが満州鉄道や満洲映画協会に侵入していくエンターテインメント性など、本作にはさまざまな魅力がこれでもかと詰め込まれている。

一方で、このマンガはかなりタブーな歴史を物語にしている。というのも、1932年~45年の間、満州国は日本の傀儡国家として現在の中国東北部に存在し、そこではアヘンを利用した植民地政策が行われていたからだ。これは当時の政府によって組織的に遂行されたビジネスであり、現地の人々をアヘン中毒にすることによって得た資金は戦費などにあてられていた。さらにこの政策には、三井物産など今も残る日本企業が関係していたという史実もある。

このように、さまざまな側面からも挑戦的な本作は、いかにして生み出されたのか? 作者である門馬司氏(原作)、鹿子氏(作画)、そして担当編集の白木英美氏にインタビューを敢行した。

麻薬密売に歴史要素……売る側の視点の物語

──第二次世界大戦前後を取り上げた作品はいくつもありますが、満州という国は日本が加害者の立場で作られた国家のため、これまであまり物語の舞台にされてきませんでした。そんな中、「歴史の禁忌に踏み込む超問題作」と謳っている本作ですが、なぜ「満州とアヘン」という、危険なテーマに挑戦したのでしょうか?

門馬司(以下、門馬) 「ヤングマガジン」で原作を手がけていたマンガ『首を斬らねば分かるまい』(講談社)でアヘンを扱ったことがあって、それがきっかけで白木さんから「アヘンをテーマにした作品をやりませんか?」と提案していただいたんです。

白木英美(以下、白木) もともと、ドラッグをテーマにした作品に人気があるのはわかっていたんですけど、やはりフィクションの作品よりもドキュメンタリーを見たほうがリアルだし、面白い。だから、どう企画にしようかと思いながら、『応天の門』(新潮社)というマンガを読んだときに「これって海外ドラマの『SHERLOCK』を平安時代でやっている感じだ」と思って、「麻薬密売も舞台を現代以外に変えて、歴史モノにしちゃえばできるんじゃないか?」と考えたんです。なので、僕が考えたときは「歴史×麻薬密売」という枠組みだけだったんですけど、その後に門馬さんが満州にするというアイデアを出してくださって、うまく発展していきました。

門馬 そんな軽い感じで始まったんですけど、いざ舞台を満州に決めて調べ始めると、掘れば掘るほどいろいろ出てくる(笑)。結果的に、作品の魅力につながったと思います。資料集めは国立国会図書館オンラインを活用しています。今は出回っていないような当時の本がたくさんあるので、インターネット・アーカイブでたくさん当たりました。中にはアヘンの製造法とか書いてあるものもあります。また、満州に関する書籍もたくさんありますが、どうしてもこうした本は書き手のバイアスがかかりやすいので、個人的にはフラットな視点で見られる昔の資料のほうが好きです。その土地の人たちが写っている写真とかだけでも、そこからいろいろ想像して膨らませています。当時の写真は一番息吹を感じるんですよね。

鹿子 でも、青幇の資料はないんですよね。

門馬 そうなんです。青幇の資料ってほとんど残っていなくて、杜月笙ですら写真が数枚あるかどうかのレベル。扱った作品も過去に『青侠ブルーフッド』(集英社)というマンガがあるくらいなんです。そのため、作中に登場する「帽子に黒ずくめの服装」というのは想像もありつつ、現実のマフィアのファッションも参考にして、いろいろと混ざっていますね。細かい部分は鹿子先生にお願いしています。

鹿子 僕は香港のノワール映画に出てくる、悪役っぽいキャラクターを参考にしました。

──作中では、年端も行かない少女・リンが「腕利きの売人」として登場してストーリーに動きを与えますが、となるとこれもフィクションなのでしょうか?

門馬 そうなります。ただ、これは僕の見解になってしまうんですけど、子どもが売人というのは実際にあったと思うんですよ。今でも貧困地域で、子どもを犯罪行為に使うというのはごく一般的に行われていることですしね。それに、変な言い方ですけど、ドラッグの世界というのは「売る側の力」で成り立っている業界なんですよ。一般的には「どうして買ってしまうのか?」という、買う側に注目しがちですが、現実として売る側がいるから続くわけであって、そこをメインに描ければ、真に迫れるんじゃないかと思っていました。

──主人公がアヘン製造に手を染め始めるきっかけは、病気の母親の治療代のためです。これは主人公たちを悪人とは思わせず、読者に感情移入させるための設定なんでしょうか?

門馬 いえ、むしろ僕はこいつらは完全に悪人だと思ってます。だからこそ、仕方がないみたいな罪悪感はあまり描いてないですし、あえて正当化をしたくもない。ドラッグを売ればお金も手に入るだろうし、何か成し遂げた気にもなるかもしれないけど、結局どういう悲惨な運命が待っているか。彼らがひどく追い込まれた状況にいて、わずかな光明にすがっているのは事実ですが、正しい道に行こうとしているわけじゃない……というのは、読者の皆さんにも伝わってほしいと思っています。そこまで描くのは、まだ先の話になりますけどね。

──先ほど、門馬さんも言われていましたが、本作はアヘン製造者・勇を中心に作って売る側が主役となります。一方で、買う側のアヘン中毒者たちのラリ顔も魅力的です。鹿子先生の画力が遺憾なく発揮されてますよね。

鹿子 必殺技みたいな気持ちで気合を入れて描いてますね。グルメマンガじゃないですけど、そんなイメージで(笑)。

門馬 あのアッパー描写に関しては、勇のアヘンが特別だと表現していると思っていただければと思っています。実際のアヘンはダウナー系の薬物なので、主人公が作るもの以外は、そういうぐったりとした描写にしています。もちろん実際に吸った人の本も読んでいますけど、あのラリ顔はマンガ的に派手にやってる部分だと思ってもらっていいですね。

──冒頭でも触れましたが、満州は日本人が描くうえで、どうしてもいろいろと気を遣う場所だと思います。

門馬 そうですね。実際、チェックもすごいあります。例えば、里見甫(三井物産のもとで関東軍と結託し、アヘン取引組織・里見機関を作った「阿片王」)をモチーフにした、里山柾というキャラクターに関しては「見た目はあまり似せないでくれ」と言われました。実在した人物は、その親族の方々がまだいらっしゃいますしね。なので、主人公も完全に架空のキャラクターです。

──里見は満州で新聞社の聯合と電通の通信網を統合した国策会社、「満州国通信社」の初代主幹兼主筆としても知られています。彼のように戦後日本の保守勢力となった、いわゆる「満州人脈」をモデルとしたキャラクターは、今後も登場していくのでしょうか?

門馬 出したいのは出したいんですけど、何せやっぱり時代が近いので、出せるかどうか怪しい人もちらほらいますね。岸信介あたりは厳しいかなあと……。そこは考えつつですね。ただ、モデルと明言しなかったとしても、そのようなキャラクターを登場させた場合は「この人はこんなことはしないだろうな」と思ってしまうことは描かないというポリシーはあります。名前を出してないからいいというわけではなく、イメージから逸脱したり、損なうようなことはしたくない。

──アヘンという禁断の薬物や、満州という歴史のタブーに踏み込む内容ゆえに、クレームや規制が入ることも多いのでしょうか?

白木 外部からはまだないですね。社内で「これはマズいんじゃないの」という声が出たときは、編集部の判断でストップがかかることもあります。当時は使われていたけど、今は差別用語になった言葉とか、門馬さんの言うように実在の人物についてが多いですね。やはり子孫の方がいると気を遣うので、そこは門馬さんとよく相談しています。

門馬 李香蘭(満州国で女優・歌手として活躍した人物。実際は山口淑子という名の日本人だが、長きにわたって中国人スターだと信じられていた)も、それで名前を変えましたから。

白木 6年前まで御存命でしたからね。

──ドラッグ描写よりも、史実や実在の人物についての描写のほうが、ずっと気を遣ってるんですね。

門馬 結局、ドラッグって大半の日本人にとってまだまだ他人事なんですよ。だから、作中で製造したり、販売していたとしても、そこには実はあまりクレームは来ない。ただ、歴史的な意味合いで見ると、解釈は人によって変わってくると思います。あの当時、国が主導でアヘンを売っていたことを「ひどい」「許されない」と捉えるか、「そういう時代だったのだから仕方ない」と捉えるか。満州の歴史を追っていくと、そこの流れも自然と追うことになると思います。でも、難しい問題をいろいろと扱っていることには間違いないので、打ち切られないようにはしたいですね。

白木 それはこちらも気をつけます。

──本誌が発売される頃には2巻も発売されますが、1巻もすでに2回重版されています。周りからの反響はどうですか?

白木 すごくいいですね。社内でも「いいじゃん」って声をかけてもらいますし、他社の編集者やマンガ家さんからも「今週の『満州』良かったよ」ってメールをいただくことも多いです。今まで担当してきた作品では、そういうことはなかったのでありがたいですね。もちろん、「ヤバい」とか「危ない」と、言われることもありますけど(笑)。

門馬 自分もお褒めいただくことが多くてうれしいです。こうやって取材してもらうこともありますし。ドラッグだけではなく、いろんな視点で話せるマンガなのが良かったのかなって思っています。

鹿子 自分も同業者から好評ですね。

白木 細かい部分で言えば「アヘンでラリった顔が発明だ」と、言われることが多いです。中には「あの顔が見たくてページをめくってしまう」と言ってくださる方も……。「次は誰がラリるんだろう?」って思うんでしょうね。『金田一少年の事件簿』(講談社)でいう、誰が死ぬんだろうみたいな楽しみ方だと思います。ちなみに、この表現を考えたのは門馬さんです。

門馬 話が早いじゃないですか。「めくってドン!」みたいに、一気に展開も進みますよね。毎回、鹿子さんの描写力は信頼しきっています。

鹿子 ただ、ひとつ悲しいことがあって。自分の母親は、今まで自分が描いたマンガを全部読んでくれてきたんですけど、「これは読んでない」って……(笑)。

門馬・白木 (笑)

鹿子 万人に受ける作品ではないということなんでしょうね。だからこそ、逆に言えば刺さる人には深く刺さる内容なのかなと思います。

(文/岡本 拓)

門馬司(もんま・つかさ)
マンガ原作者。これまで原作を手がけてきた作品には、芥瀬良せら作画の『ストーカー行為がバレて人生終了男』、大前貴史作画の『死神サイ殺ゲーム』、奏ヨシキ作画の『首を斬らねば分かるまい』(すべて講談社)がある。

鹿子(しかこ)
マンガ家。学生時代からマンガを描き始め、読み切りデビュー後に『キングダム』の原泰久のアシスタントを務める。16年には「ヤングジャンプ」にて、箱石達名義でラグビーを題材にした『フルドラム』(集英社)を連載した。

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