〝大分断〟のアメリカ社会に苦悩するホワイトハウス

〝大分断〟のアメリカ社会に苦悩するホワイトハウス

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  • 更新日:2021/11/25
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トランプ前政権以来、深刻化した米国社会の分断が、バイデン政権下の政策運営に大きな障害として立ちはだかっている。このまま期待通りの成果が挙げられず、支持率低迷が続けば、2024年大統領選でも命取りとなりかねない。

(zimmytws/gettyimages)

「超党派」とは名ばかりだった式典

「本日、私がこの場で署名し正式発効する法律は、民主、共和両党議員たちによる努力と妥協の産物だ」

バイデン大統領は去る11月15日、ホワイトハウス南庭で行われた1兆2000億㌦規模の大型「超党派インフラ・パッケージ法(bipartisan infrastructure package=BIF)」成立祝賀セレモニーでその歴史的意義を強調して見せた。

だが、「超党派」とは名ばかりで、式典会場は、大統領ほか関係閣僚、議会からナンシー・ペロシ下院議長、チャック・シューマー上院院内総務ら民主党重鎮らで埋め尽くしたものの、野党共和党側出席者は、シェリー・カピト、ロブ・ポートマン両上院議員、ドン・ヤング下院議員ほか数人にとどまった。法案に支持投票した上下両院合わせ22人の共和党議員のほとんどが最後まで会場に姿を見せずじまいだった。それぞれ「多忙」「先約あり」が表向きの理由とされた。

ところが、これには裏があった。ワシントン・ポスト紙の報道によると、実はホワイトハウス式典を前に、同法案に支持投票した共和党議員たちに対し、「民主党に手を貸すとは何事か」「まさにRINOの典型だ」と言った激しい非難、中傷が浴びせられ、出身選挙区からも式典出席を拒否するよう圧力がかかっていたという。

「RINO」とは何か

「RINO」とは「Republican in name only」の略語で「名ばかりの共和党員」を意味する蔑称。20世紀初頭から、民主党の主張に同調する共和党議員や判事たちを揶揄するのにしばしば使われてきたが、特に最近では、トランプ政権下、トランプ大統領自身もツイッターなどを通じ、自分の打ち出す政策に異議をさしはさむ同党議員たちの口封じに乱発してきたことで知られる。

今回の「BIF」法案採決の際も、支持に回った共和党議員たちは「RINO」呼ばわりされた上、事務所や自宅にまで殺害、放火などを示唆する脅迫メール、電話までかかってきたと言われ、その大半が熱狂的トランプ支持者からだった。トランプ氏自身も一部メディア通じ、「民主党に手を貸したRINOたちはその恥を知るべきだ」などと酷評していた。

最近の世論調査で、共和党支持者の7割近くが依然として次期大統領選への「トランプ再出馬」を支持していると伝えられるだけに、結局、批判の矢面に立たされた議員たちの多くが、式典ボイコットを余儀なくされたというのが真相だ。

このこと自体、与野党対立の深刻さを象徴するものであり、とくにバイデン政権にとって、連邦議会における党派間の断絶はまさに、ゆゆしき事態だ。

党派間の対立は異常事態

筆者は1960年代後半から永年にわたり、米本会議、委員会審議における両党議員たちの熱気あふれる論戦や攻防をつぶさに取材してきた。だが、今日のような党派間の対立ぶりは異常というほかない。

かつては「ビッグ・ガバメント」を標榜する民主党と、政府介入を極力最小限にとどめる「スモール・ガバメント」の共和党という伝統路線の違いこそあれ、議員たちが法案審議の際、党をまたぎ1票を投じる「クロス・ボーティング(cross voting)」は決して珍しくはなかった。

例えば、上院では、チャールズ・パーシー(イリノイ州)、ジェイコブ・ジャビッツ(ニューヨーク州)、マーク・ハットフィールド(オレゴン州)ら共和党有力議員らが、ベトナム戦争、人種差別問題などをめぐり民主党主導の法案に支持投票する一方、サム・ナン(ジョージア州)、ロバート・バード(ウェストバージニア州)ら民主党議員が、教育、社会保障政策などではしばしば共和党に同調する動きを見せたことなどが思い出される。

底流をなす「トランプ主義」

しかし、今回のように、民主党政権下の法案に支持票を投じた共和党議員たちが、「殺害」「放火」の標的にまでされたのは、まさに前代未聞と言うべきだろう。

このような両党間の対立は、トランプ前政権以来、とくに激化してきたことは明らかだが、その底流をなすのが、「トランプ主義Trumpism」だ。「トランプ主義」とは、都会および都市近郊在住の白人中産階級や黒人、ヒスパニック系マイノリティ有権者層に背を向け、成長の見込みのない「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」やグローバル競争から取り残された高卒以下の低学歴白人労働者などに支えられた人種差別的、孤立主義的偏狭思想にほかならない。

その象徴が、去る1月6日、熱狂的トランプ支持者、過激グループによる連邦議事堂襲撃・占拠事件だった。バイデン政権が国家的至上課題の一つとして打ち出した「BIF」法案に同調したことを理由に一部の共和党議員たちを「殺害」「放火」の脅威にさらしたのと同じグループだ。

景気浮揚策第2弾でも規模大幅削減か

バイデン政権は、悪戦苦闘の末に成立にこぎつけた「BIF」法に続く、「アフター・コロナ」景気浮揚策第2弾として、1兆7500億ドルの子育て・教育支援、気候変動対策などの大型歳出法案の早期実現を目指しており、下院は19日、賛成多数でこれを可決した。だが、野党共和党は全議員が反対に回った。

「BIF」法案審議の際に賛成票を投じた13人の議員も今回は党への「忠誠」表明にこだわった。来年の中間選挙を控え、再選を目指す議員たちがトランプ支持層の反発を危惧したことは間違いない。

同法案はこの後、上院審議に回されるが、ここでも「BIF」法成立に協力した共和党議員は同党過激派による再度の攻撃をかわすべく、反対に回る公算大だ。

民主、共和両党勢力が現在50対50で拮抗する上院では、仮に共和党議員全員が反対に回ったとしても、上院議長を兼ねるハリス副大統領が1票を投じれば可決される。しかし、民主党側も、保守派のジョー・マンチン(ウェストバージニア州)、カーステン・シネマ(アリゾナ州)両議員ら〝異端派〟を抱え、楽観は許されない。両議員はかねてから「財政規律」重視の立場を貫いてきているため、同法案は「BIF」法採決の時と同様に最終成立の前に、当初の1兆7500億㌦規模から大幅削減を迫られることにもなりかねない。

党派対立は家族、社会にも波及

しかし本来なら、インフラ整備や子育て・教育支援などは、党派を超えた国民的重要関心事のはずだ。現に世論調査を見ても、有権者の70%近くがこれらの政策課題を支持している。前政権当時、トランプ大統領自らも就任直後に、「インフラ大規模投資」の重要性を国民向けにアピールしたほか、国際競争から取り残された〝煙突産業〟といわれる重工業労働者救済のための財政出動にもたびたび言及してきた。

ところが、バイデン政権発足後、野党に回った共和党は、政府が打ち出す政策には有無を言わさず異議を唱え始めている。議会共和党で指導的立場にあるマコーネル院内総務も去る5月、テレビ会見で「われわれは、バイデン・アジェンダ(政策課題)には100%反対だ」と言明、物議をかもした。

さらに、バイデン政権にとって厄介なのは、対立が政党間だけにとどまらず、家族、社会全体を巻き込んだ分断にまで深く広がってきている点だ。

世論動向の分析で定評のある「ピューリサーチ・センター」は、政権交代がスタートした今年1月末、「トランプ政権時代に米国がいかに変質したか」との見出しを掲げた調査結果を発表した。

それによると、4年間の前政権時代を通じ、環境保護政策の撤廃、中東諸国からの移民受け入れ拒否、富裕層向けの大幅減税、国際機関からの相次ぐ脱退といった半ば強引な政権運営に対し、共和党員の85%が支持する一方、民主党員の95%が反対に回るというかつてない対立状況を引き起こした。

さらに主張の相違は政党から個人レベルにまで広がっている。象徴的なケースとして、独身の民主党支持者を対象とした意識調査では、71%が「2016年大統領選でトランプに投票した相手とは結婚しない」と回答していたことがわかったという。逆にヒラリー・クリントン民主党候補に投票した相手との交際に否定的な共和党支持者は47%にとどまっており、トランプ・ファクターが市民生活にまで大きな亀裂をもたらしたことを裏付けている。

世界最悪を引き起こしているコロナ対策

社会分断の深刻さは、コロナ危機でも露呈した。

全米のトランプ支持層の多くは、当初から、マスク着用、外出自粛、ワクチン接種などの感染対策には非協力的な姿勢をとり続けてきたことで知られる。トランプ氏本人も在任中、感染判明後、緊急入院を余儀なくされたものの、退院したその日、ホワイトハウスのバルコニーから、それまで着けていたマスクを報道陣の前で投げ捨てるなどして波紋を広げたことがあった。

その結果が、米国のこれまでのコロナ感染者総数約4700万人、死者約77万人という世界最悪事態にほかならない。人口比3分の1の日本が、感染者総数約172万人、死者約1万8000人(いずれも11月20日現在)にとどまっているのと比較してもけた違いの甚大被害だ。

バイデン・ホワイトハウスは、コロナ感染「第5波」襲来に備え、すでに政府機関のみならず、民間企業に対し、従業員のワクチン接種と抗体検査実施を義務付ける行政命令を発令済みだ。しかし、これにはトランプ支持層を中心とする共和党系市民団体が「違憲」訴訟を起こしており、共和党系判事が多数を占める南部ルイジアナ州ニューオルリンズの巡回控訴裁では、早くも「差し止め命令」が出された。

「個人の自由侵害」を理由としたトランプ支持層の抵抗は、さらに各地に広がる動きを見せており、今後、政府の感染拡大予防措置がどこまで徹底できるか、不透明な状況が続くことになりそうだ。

斎藤 彰

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