“東京沈没”はありえるのか? 荒川氾濫やスーパー台風の高潮による「首都機能停止」を検証

“東京沈没”はありえるのか? 荒川氾濫やスーパー台風の高潮による「首都機能停止」を検証

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  • 更新日:2021/11/25
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AERA11月29日号から

「東京は沈まないでしょ」。どこかでそう思ってしまう。ドラマ「日本沈没」が話題だが、実際に沈む、沈まないにかかわらず、人口と首都機能が集中する東京に「温暖化」の脅威が迫っているのは否定できない。AERA 2021年11月29日号の特集「日本沈没を検証する」から。

【23区のうち17区で浸水…最大級の台風による高潮の想定被害はこちら】*  *  *

「私ではなく、関東圏に住む国民の命乞いに参りました」

10月にスタートした俳優の小栗旬さん主演のドラマ「日本沈没─希望のひと─」(TBS系)が、彼のこんなセリフとともに盛り上がりを見せている。SF作家の小松左京氏が1973年に刊行した名作『日本沈没』を大きくアレンジしたもので、「地球温暖化」がカギとなっている。ドラマでは日本沈没に先立ち東京都など関東の一部が沈没した。

今、人類はかつて経験したことのない環境変化の只中にいる。

8月、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は、世界に衝撃を与えた。

■相次ぐ豪雨災害の原因

世界の平均気温は、二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスの影響で18世紀後半の産業革命以前と比べ1.09度上昇していると指摘。人間が地球を温暖化させてきたことは、「疑う余地がない」と断言した。そして、このまま温室効果ガスの排出が進めば、今後20年以内に1.5度上昇する可能性があると警鐘を鳴らしたのだ。

温暖化は、地球全体の気候システムに影響を与える。熱波が襲い、大地が干上がり、大雨による洪水が繰り返される。

日本はすでに豪雨災害が相次いでいる。気象庁によれば「滝のように降る」とされる1時間に50ミリ以上の強い雨は、最近10年間(2011~20年)は平均約334回で、1976~85年(平均約226回)の約1.5倍増えた。

気温が上昇すると、雨量が増えるのはなぜなのか。

京都大学防災研究所所長の中北英一教授(水文気象災害学)は、こう説明する。

「気温が上がれば海面温度も上がり、大気に含まれる水蒸気の量も増えるので雨量が増えます。一般的に、大気中の水蒸気量は気温が1度上がるごとに7%増えるとされますが、気温が上がると上昇気流も激しくなり積乱雲が発達しやすくなるため、ゲリラ豪雨のように、水蒸気量の上昇で考えられる以上の豪雨が降ることもあります」

中北教授は気温が2度上昇した場合と4度上昇した場合における、それぞれの総雨量や洪水発生頻度などを試算している。

「まず、気温が2度上がると総雨量は1.1倍になり、河川に流れる量は1.2倍、洪水の発生は2倍増えます。4度上昇すると総雨量は1.3倍、河川に流れる量は1.4倍、洪水の発生は4倍になります」

実際、人口や首都機能が集中する東京に大雨が降るとどうなるのか。最も心配されているのが、東京の東部を南北に貫く荒川の氾濫だ。

荒川上流の埼玉県秩父地方などで3日間に600ミリ超の雨が降った場合、やがて下流の東京都北区の堤防が切れ、大量の濁流が荒川区や台東区など下町に流れ込む。最悪の場合、54万人が孤立し、死者は約4千人、霞が関は機能不全に陥る。

■23区のうち17区で浸水

「東京沈没」をもたらしかねない災害は、まだある。台風がもたらす高潮だ。

先の中北教授によれば、台風も温暖化と無縁ではないという。

「気温が上がることで大気は安定し、台風が発生しにくくなり日本列島への到来回数は減ります。ただし、安定した大気に打ち勝って生まれるため、いったん発生すると、中心気圧が920ヘクトパスカル以下の強力なスーパー台風になる危険性が強まります」

しかも、海面温度が高い場所が東にずれるため、台風の発生場所も東にずれ東日本を襲う台風が増えると言う。

「スーパー台風なので猛烈な風が吹き、風水害の危険性も高まります。気圧が低いため、ストローで吸うと水が吸い上げられるように海面が吸い上げられ潮位が上昇し、高潮の心配も高くなります」(中北教授)

都が2018年に初めて公表した「高潮浸水想定区域図」では、東京に過去最大規模の台風が上陸し高潮が発生すると千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区など都内23区のうち17区で浸水が発生する。浸水想定区域内の人口は約395万人(昼間)。想定浸水深は最大約10メートルで、排水が完了するまで1週間以上かかる。

荒川氾濫も、高潮被害も、SFの世界の話ではない。日本沈没や関東沈没はともかく、東京沈没といえるほどの凄まじいダメージは実際にあり得るのだ。

■防げたはずの浸水被害

温暖化による海面上昇も深刻だ。IPCCは8月、化石燃料を大量に使い続けた場合、2100年までに海面は最大で1.01メートル上昇する恐れがあると指摘した。

海面上昇の理由を、国立環境研究所地球システム領域の小倉知夫主幹研究員は、こう述べる。

「主な原因は、陸上の氷河や氷床が気温の上昇により融解して海へ流れ込み、海水の質量を増加させること、および海水の体積が熱膨張するためです」

海面が1.01メートル上昇すると、東京はどうなるのか。

江東区や江戸川区、墨田区など東京東部には、海面より低い「海抜ゼロメートル地帯」が広がる。小倉主幹研究員は言う。

「海抜ゼロメートル地帯の存在する東京湾の海岸堤防は、2~3メートル以上の高潮を想定して整備が進められています。従って、現在の海岸堤防や水門などの施設がそのまま維持されるとすれば、1.01メートルの海面上昇だけでゼロメートル地帯が水没する可能性は低いと考えられます」

しかし、と小倉主幹研究員。

「強い台風が接近して高潮が発生するような状況を考えた場合、海面が温暖化で上昇していたことにより、従来ならば防げたはずの浸水被害を防げなくなる恐れがあります」

■海面上昇加速の可能性

予想される最悪のシナリオとして、海面上昇が2メートルに迫る可能性も、「低いがゼロではない」と述べる。

「温暖化がある程度進行すると南極の氷床を安定に維持できなくなり、氷床が急速に縮小して海面上昇が加速される可能性も指摘されています。そのような氷床の急速な縮小がいつ始まり、海面上昇をどの程度加速させるか、現時点では良く理解できていないからです。海面上昇が2メートルになった場合、首都圏が高潮の被害を受ける可能性は、さらに高まります」(小倉主幹研究員)

対策は、まったなしだ。

「温室効果ガスの排出を抑制し、海面水位の観測を続けるとともに、 最新で最善の予測技術で将来予測を繰り返し行い、その成果を海岸の施設整備に生かすことが大事です」(同)

先の中北教授は、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和」と、被害を防止する「適応」の両輪で取り組むことが大切と説く。

「世界各国で緩和は進んでいますが、それでも2050年頃には産業革命前より気温が2度上昇すると考えられます。治水対策を行い、洪水や台風による複合災害が起きた時に対応できる街にしておくなど、対策を進めることが重要です」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2021年11月29日号より抜粋

野村昌二

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