
数年後にリリース予定のスマートコンタクトレンズ「Mojo」は、砂粒程度のディスプレイで、1インチ当たり1万4000ピクセルの解像度をもつ。Mojoは、中心窩と呼ばれる、目の中心にある網膜錐体が最も密集した部分に画像を直接投影する。この技術は、0.5mmのディスプレイに7万ピクセルを詰め込むことが可能だという。Mojoは、コンタクトレンズに埋め込むことで、安全に目に装着することができる。
ただし、全ての部品をコンタクトレンズの中に埋め込むのではなく、コンピュータビジョンやAR(拡張現実)に関わる基盤やハイエンドなマイクロLEDディスプレイ、慣性計測センサー、全固体電池などはコンタクトレンズではなく、「リレー」と呼ばれる外部パックに搭載されている。
「現在、首にかける処理デバイスを開発中だ。このアクセサリーを、社内ではリレーと呼んでいる。リレーには、アプリケーションプロセッサやGPU、バッテリー、ストレージが搭載されている。アプリケーションはリレー上で動作し、コンテンツを目に投影する」とMojoのシニア・バイスプレジデントであるSteve Sinclairは話す。
Sinclairにとって、Mojoは決して現実離れした製品ではない。今後、主要なコンピューティングプラットフォームはモバイルからスマートグラスに移行し、中間段階でバイザー型やオキュラスのようなヘッドセットが普及すると考えられている。Sinclairによると、数億人が視力矯正を必要としており、世界では1億4000万人がコンタクトレンズを装用しているという。つまり、視力矯正機能を搭載したスマートコンタクトレンズは、巨大な市場が期待できる。
最初に出荷されるMojoは視力矯正が可能で、ユーザーがどこを見ているのかを把握し、視覚障害が深刻な人には、歩道の端などを目立たせてくれるという。また、テキストを表示することも可能とされており、会議でも役に立ちそうだ。動画を表示することもできるという。
専用OSである「eye OS」を開発中
Sinclairによると、Mojoは「最適な情報を最適なタイミングで取得する」ためのデバイスだという。例えば、縁石やドアに線や輪郭を追加するといったコントラスト強調や、人物や顔のハイライトなどが良い例だ。他にも、看護師への注意喚起情報の提供や、保守技術員に対する製品仕様や指示の提供、救出業務中の消防士に対する地図や指示の提供などが挙げられる。
スマートコンタクトレンズが目指すのは、他のデジタル製品のように通知を送信するだけでなく、現実世界で実際に役立つ機能を提供することだ。
「我々は約2年前に、ステルスモードから脱する頃に、”インビジブル・コンピューティング”(目に見えないコンピューティング)という言葉を生み出した。テクノロジーを不可視にするという意味で、我々がこのカテゴリーを作り、リードしていきたい。我々は、不要なときは目に見えないが、いざというときにはすぐ現れるようなソシューションを開発したい」とSinclairは述べた。
つまり、Sinclairが目指すのは、スマートフォンやVR/ARヘッドセット、スマートグラスとは異なり、ディスプレイを介在させる必要のないテクノロジーだ。
Mojoは、「eye OS」という、新型コンピューティングプラットフォーム専用のOSを開発中だ。eye OSは、眼球の観察や血液の分析、疲れや頭痛の検知などができ、ヘルステック業界においてiOSやAndroidにとって代わる存在になるかもしれない。
Mojoの商用リリースは、まだ確定した訳ではない。また、医療製品であることから、FDA(米食品医薬品局)の認可も必要になる。現在、Mojoは現行のプロトタイプをテスト中で、夏には次世代製品が完成する予定だ。筆者は、ベータテストのボランティアに応募した。