中国人民解放軍が、台湾周辺で大規模な軍事演習を開始した。初日の4日は、弾道ミサイル11発を発射したとみられる。
5発は、日本の排他的経済水域(EEZ)内となる沖縄県・波照間島の南西に落下した。うち4発は、台湾本島の上空を通過したようだ。
こうした軍事圧力が高まると、台湾だけにとどまらず、東アジア全域の安全保障環境が、著しく損なわれる事態となる。日本政府は「重大な懸念」を表明し、抗議した。
容認できる行為ではない。中国は即刻、取りやめるべきだ。
演習は、ペロシ米下院議長の訪台に対抗するものである。
計画では、大規模な実弾射撃訓練を台湾周辺の六つの空・海域で7日まで行うとする。一部は台湾の領海と重なるが、中国はこれを自国の領土とみなしており、「演習は米国と台湾の結託に対する厳正なる威嚇だ」としている。
議員外交を、軍事によって封じようというのだろうか。
1995~96年の台湾海峡危機では、当時総統だった故李登輝氏の訪米に反発した中国が演習を実施し、米軍は空母を派遣して、これをけん制した。
今回、中国軍は、多くの戦闘機を、台湾の防空識別圏に侵入させた。一部は台湾海峡の中間線を越え、台湾本島を取り囲んだとされる。米軍空母はフィリピン海に展開し、警戒に当たった。事実上、中国が台湾を封鎖するかたちとなり、「台湾海峡危機より深刻だ」との指摘がある。
日本を含む先進7カ国(G7)は、「緊張の高まりを招く」として、強く非難している。これまで以上に国際社会の結束を促し、強硬な姿勢には、毅然(きぜん)と対処しなくてはならない。
中国の習近平国家主席は、異例の長期政権を目指す秋の共産党大会をにらみ、米中対立の激化を望んでいないとの見方がある。万が一にも、武力による台湾統一を決断することがないよう、外交努力を粘り強く続けてもらいたい。
演習が大規模になると、偶発的な軍事衝突の起きる可能性が高まるはずだ。これを避ける仕組みも確立しておきたい。
日中国交正常化50周年という節目の年を迎え、両国に関係改善を図る動きがあった。演習に伴い、予定された外相会談が中止となったのは残念である。
日本は、中国との対話の窓口を閉ざすことなく、東アジアの安定に寄与してほしい。