スピード全盛の時代に“ひと際輝く” 「遅いストレート」で勝負する投手たち

スピード全盛の時代に“ひと際輝く” 「遅いストレート」で勝負する投手たち

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  • 更新日:2021/05/03
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阪神・秋山拓巳 (c)朝日新聞社

野球界において、トレーニングの進化などによって確実に向上しているものの代表と言えるのが投手の投げるボールのスピードである。20年前はプロでもなかなかいなかった150キロ以上のスピードを現在では高校生がマークすることも珍しくなく、160キロが夢の数字と言われていたのもはるか昔の話となっている。しかしその一方でスピードはそれほどではないものの、プロで成績を残し続けている投手がいることも確かである。今回は高速化時代だからこそ逆に輝く、遅いストレートでも勝負できる投手をピックアップして紹介したいと思う。

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現在、先発で遅いストレートでも勝てる投手の代表格と言えば秋山拓巳(阪神)になるだろう。プロ入り8年目の2017年に12勝をマークして先発の一角に定着すると、昨年もチームトップの11勝を記録。今年も開幕からローテーションを守り、首位を走るチームを支える存在となっている。そんな秋山のストレートは大半が130キロ台中盤から後半で、140キロを超えることがあっても1試合に数球程度。昨年オフのバラエティー番組では、同じ愛媛で高校時代同学年だったティモンディの高岸宏行(済美高出身)が始球式で記録した138キロよりも遅くて話題になっていたことを明かしたほどである。

しかし4月8日の巨人戦では1球も140キロを超えることはなかったが、6回を投げて2失点、10奪三振と見事なピッチングを見せている。188cm、102kgという堂々とした体格とのギャップにまず戸惑うが、それ以上に素晴らしいのはやはりコントロールである。先発に定着してから昨年までの4年間の数字を見てみると、427回を投げて与えた四球の数は58。1試合、9イニングあたりに直すとわずか1.22の四球しか与えない計算となる。そしてカットボールとフォークのスピードが130キロ台とストレートとあまり球速差がなく、ボールの軌道も途中まで変わらないというのが大きな武器となっている。また時折混ぜる100キロ台のカーブで緩急を使うこともできる。一つ一つのボール自体は決して凄みはなくても、しっかりコントロールして丁寧に投げれば結果を残せるという良い見本と言えるだろう。

もう1人先発で結果を残しているのが野村祐輔(広島)だ。今シーズンは4試合に先発してまだ勝ち星をあげることはできていないが、初登板となった3月28日の中日戦では6回を無失点、4月25日の巨人戦でも5回を2失点としっかり試合を作っている。そしてこの4試合でいまだに140キロを超えるスピードをマークしておらず、スピードガンの数字では秋山よりも更に低いのが現状である。そんな野村の投球の特徴は、まずストレートの割合が極めて少ないという点である。

組み立ての中心となるのはカットボール、スライダー、ツーシーム、チェンジアップの4つの球種。カットボールとツーシームは130キロ台、スライダーとチェンジアップは120キロ台と、ほぼ同じスピードで左右対になるボールを2セット揃えているのだ。そしてこの4つのボールをコーナーに投げ分け、打者の狙いを巧みに外して打ちとっていくのだ。ボール自体の力がないためホームランを浴びることはどうしても多くなるが、それでも恐れずに内角を突けるというのも大きな武器である。ここ数年は成績が下降傾向にあるが、まだまだ先発として貴重な存在であることは間違いない。

本格派の多いリリーフ投手で、現役でナンバーワンの技巧派と言えるのが嘉弥真新也(ソフトバンク)だ。2017年からは4年連続で50試合に登板して防御率は2点台と、常勝チームの中継ぎとして欠かせない存在となっている。172cm、71kgというプロ野球選手としてはかなり小柄な部類に入り、ストレートは速くても140キロ程度。それでも抑えられるのはスライダーという必殺の武器があるからに他ならない。ストレートと変わらない軌道で打者の手元で横に滑り、曲がる大きさにも微妙にバリエーションがある。このボールをコーナーいっぱい、ストライクからギリギリでボールになるところに徹底して集められるというのがパ・リーグの強打者たちを抑え込める秘訣である。

基本的には左打者との対戦が多いが、右打者に対してもこのスライダーを両サイドに投げ分け、時折対になるシュートやチェンジアップも駆使して抑え込むことができている。体が小さくてもそれほど多彩な球種がなくても、1つの大きな武器があればプロでも一流になれることを証明している投手と言えるだろう。

今シーズンはまだ1試合の登板に終わっているものの、石川雅規(ヤクルト)も小さいからだと速くないストレートながら、通算173勝をマークしている。また、遅いストレートと言えばかつてオリックスのエースとして活躍した星野伸之を思い浮かべるファンも多いだろう。速いストレートは確かに魅力だが、スピードがなくても結果を残している投手からは本格派にはない凄みが漂っていることまた事実である。令和の時代のプロ野球でも、そんなプロフェッショナルを感じさせる投手が新たに登場することを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員

西尾典文

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