証拠隠滅の“おそれが否定できない”だけで「接見禁止」に...日本で杓子定規の“人質司法”が横行する異常な理由

証拠隠滅の“おそれが否定できない”だけで「接見禁止」に...日本で杓子定規の“人質司法”が横行する異常な理由

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/06/11

無実を主張すると保釈の確率が激減? 芸能プロダクション社長(42)が体験した“日本の司法”の“深い闇”とはから続く

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巨額の役員報酬を実際よりも少なく見せかけていたとして金融商品取引法違反容疑で逮捕されたカルロス・ゴーン氏。彼の担当弁護士を務めた高野隆氏は、日本の司法における被告人の身柄の取り扱いには大きな問題があると指摘する。

ここでは同氏の著書『人質司法』(角川新書)の一部を抜粋。世界中で日本だけが認めている被告人の「あらゆる社会的なコミュニケーションを一律に禁止する」制度をはじめ、日本の司法の特殊過ぎる実態について取り上げる。(全2回の2回目/前編を読む)

◆◆◆

世界に例を見ない制度

刑事訴訟法81条は「裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第39条第1項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる」と定めています。この条文に基づいて、毎年約3万5000人──勾留された人の4割──が、警察の留置場に拘禁されたうえ、配偶者、親戚、友人、知人と会うことも手紙のやり取りをすることもできない状態に置かれています。

この決定(「接見等禁止決定」)の要件である「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とは、「被告人が拘禁されていても、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当強度の具体的事由が存する場合でなければならない」と言われています。(*1)拘禁施設での弁護人以外の人との面会には施設の職員が立ち会い、職員は面会の内容を記録し、録音したり録画したりすることになっています(刑事収容施設法116条1項)。そして、被告人やその面会の相手方が「暗号の使用その他」によって職員が理解できない発言をしたり、「罪証の隠滅の結果を生ずるおそれのある」発言をしたりしたときは、職員はその発言を制止しまたは面会を停止することができます(同法117条、113条)。また、被告人が発信したり受け取ったりする信書については、刑事施設の職員が検査をすることになっていて(同法135条)、その信書が「罪証の隠滅の結果を生ずるおそれ」があると判断するときは、職員はその発受を禁止したり、該当箇所を抹消したり削除したりすることができることになっています(同法136条、129条)。

*1 京都地決1968・6・14判タ225-244、浦和地決1991・6・5判タ763-287

実態とあまりに乖離した判断

こうした厳しい監視をかいくぐって、面会や手紙を通じて検察側証人に偽証を働きかけたり、逃亡計画の相談をしたりすることは、果たしてできるものでしょうか。私の知る限り、未決拘禁されている被告人が面会や手紙で証拠隠滅や逃亡の相談をしたケースなど1件もありません。証拠隠滅が問題となったケースは、職員の立会いのない「秘密接見」が保障されている弁護人(*2)や大使館職員などによる場合です。被告人が、職員が立ち会い記録を取っている面会室で、直接面会相手に証拠隠滅を指示したケースなど、見たことも聞いたこともありません。少なくとも、未決拘禁されている人の4割がそうした大胆な行動をとるなどと考えるのは、実態とかけ離れています。

*2 弁護士のなかには、「弁護人になろうとする者」として勾留されている被告人と立会のない接見をして、メッセンジャーとして外部の人間(ときには勾留されている別の被告人)とのコミュニケーションを媒介することを生業とするような人がいます。こういう弁護士は「鳩」とか「鳩弁」と呼ばれて蔑まれています。懲戒請求されたり刑事訴追されたりして資格を失う例もありますが、なかなかなくなりません。接見禁止決定はむしろこうした鳩弁に活躍の場を与えることにすらなっているのです。

弁護士だけが見ることができない審査資料

それではなぜ、これほど頻繁に接見禁止決定がなされるのでしょうか。それは第一に、接見禁止の審査が極めて検察官寄りの一方的なやり方で行われているからです。接見禁止の請求は勾留の請求と同時に行われるのが普通です。勾留についても、接見禁止についても、請求されたことは被疑者には知らされませんし、請求書が被疑者のもとに送られることもありません。弁護人に意見を求めるということもありません。そして、審査は検察官が裁判官のもとに送りつける「一件記録」によって行われます。一件記録とは、警察官や検察官が作成した捜査書類のことです。その中には被害者とされる人や共犯者とされる人の供述調書、警察官が現場の様子を記録した実況見分調書、科捜研の鑑定書などが入っています。ときには、被疑者が関係者と口裏合わせをしていたという捜査官の報告書や、その関係者なる人物の供述調書が入っていることもあります。

検察官の接見禁止請求書やその請求を裏付ける一件記録という書類は、検察官と裁判官だけが共有するのです。被疑者もその弁護人もその内容を見ることができません。裁判所に閲覧請求をしても「弁護人に閲覧を認める法的根拠がない」などと言って門前払いされます。裁判官はこの一件記録を執務室で読んで接見禁止の要件──警察の留置場や拘置所に身柄拘束をしただけでは防ぎきれないほどの強度の証拠隠滅や逃亡のおそれがあるか──を判断するのです。

そして、この審査は全くの非公開で行われます。法廷で双方の意見を聞いたり証人を尋問したりすることも行われません。それどころか、裁判官は被疑者に会うことすらしません。勾留のために、裁判所の一室で被疑者に会って被疑事実についての「弁解」を聞きますが、それは勾留や接見禁止の審査のために行うものではありません。要するに、被疑者やその弁護人には検察官の接見禁止請求に対して、反論の機会は全く与えられず、適切な反論を行うために当然必要な証拠へのアクセスすら与えられないのです。つまり、検察官と裁判官の間だけで行われる秘密の資料のやり取りで、被疑者のコミュニケーションの自由を全面的に奪う決定がなされるのです。

あまりに漠然としている理由

第二に、法律が定める接見禁止の要件──「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」──が、非常に漠然としていて具体性を欠いていることがあげられます。しかも、どの程度の危険性があれば接見禁止を認めてよいのかも、明らかではありません。

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先ほど引用したように、1968年の京都地裁の決定は「被告人が拘禁されていても、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当強度の具体的事由が存する場合でなければならない」(強調は引用者)と言っています。そのケースでは被告人が暴力団と「つながり」がある人物であり、逮捕される前に被害者に「このことは取り下げろ」と脅して罪証隠滅工作をしたという事実があったとしても、「被告人らがかつて、そのような行為に出たことの一事をもって、現に勾留されている被告人らに右と同様な行為による罪証隠滅工作をする疑いがあると即断することはできない」として、接見禁止を否定しました。(*3)

*3 京都地決1968・6・14判タ225-244、245頁

しかし、このように厳格に考えている裁判官はもはや存在しません。現在の主流派裁判官は、接見への立会いや信書の検査をかいくぐってどのような仕方で証拠隠滅を図るのか、京都地裁がかつて言った「相当強度の具体的事由」を何一つ明らかにできなくても、証拠隠滅の「おそれが否定できない」という程度のことで接見禁止を肯定します。具体的な証拠が何もないのに、「被疑者の供述態度」(事実を否認しているとか黙秘しているということ)や「事案の性質」(共犯者がいるとか組織的な犯罪であるとか)ということだけで、接見禁止決定をする裁判官も少なからずいます。

基本的人権を理解できていない裁判官

さらには、公訴が提起され裁判が始まった後までも、「被告人の無罪主張の詳細が明らかになっていない」という理由で接見禁止を肯定する裁判官もいます。たとえば、私が事務員として雇い入れることで保釈が認められたアメリカ人青年のケースでは、起訴後に保釈請求をしましたが、何度やっても却下されてしまい、さらに、検察官の請求で第1回公判期日後も、接見禁止が付されてしまいました。この決定に対して抗告を申し立てましたが、東京高裁はたったのワン・センテンスで私どもの申立を棄却しました。以下に引用しましょう。

〈 本件事案の性質及び内容等に加え、争点と考えられる共謀や覚せい剤を所持する意思の有無について、当事者双方の具体的な主張が明らかでないなどの審理状況をも踏まえると、被告人に自由な接見等を許せば、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして、第2回公判期日終了まで上記の接見等を禁止した原決定の判断は、接見等禁止の対象から[勤務先の上司]を除外しなかった点を含め、刑訴法81条の解釈を誤った不当なものであるとまではいえない。(*4)

*4 東京高等裁判所第三刑事部2019年2月5日決定(未公刊)〉

接見禁止をした公判裁判所も、これを是認した東京高裁の裁判官も、この事件の被告人が、接見や手紙の授受を通じて──職員による監視や検閲をかいくぐって──誰とどのような証拠をどのように隠滅する「相当な理由」があるのか、何一つ明らかにしませんでした。ここであげられている勤務先の英会話学校の上司と面会することが、どうして証拠隠滅につながるのかも示されていません。ただ一つ明らかなのは、無罪を主張している被告人は、無罪の理由を具体的に明らかにして争点を絞り、検察官の立証活動を容易なものにしなければ、家族や会社の上司や友人、知人と会ったり手紙のやり取りをしたりできなくなるということです。

この被告人はテキサス出身の30代前半の若者でしたが、接見禁止状態がいつまでも続くなかで抑うつ状態になりました。われわれが接見に行くたびにやつれた表情で目に涙を溜めて、自殺をほのめかすまでになってしまいました。幸い、その後保釈が認められ、最終的には無罪判決を得て、いまでは元気に活躍しています。しかし、日頃どんなに快活に暮らし、自殺とは全く無縁な生活をしている人でも、接見禁止状態はその精神に計り知れないダメージを与えるものなのです。日本の裁判官は、接見禁止制度のそうした側面を、ほとんど全く理解していないのではないかと思うことがあります。

私の知る限り、家族との面会を含めあらゆる社会的なコミュニケーションを一律に禁止することを認めている国は、日本以外に存在しません。それは、受刑者を含め被拘禁者の外部交通を一律に禁止すること(incommunicado)は、表現の自由や人との交際の自由という基本的人権を侵害するものであり、たとえ「適正な刑事手続のために必要だ」というような正当な目的のためであっても、それを行うことは非人道的であるということが理解されているからだと思います。日本の裁判官には、この人間の尊厳にとってもっとも基本的な権利──人が人であるために必要な最低限の条件──についての理解が足りないのではないかと思います。

【前編を読む】無実を主張すると保釈の確率が激減? 芸能プロダクション社長(42)が体験した“日本の司法”の“深い闇”とは

(高野 隆)

高野 隆

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