「ダメ。ゼッタイ。」元電通マン佐々木宏氏が仕掛けたキャッチコピーの「大きな罪」

「ダメ。ゼッタイ。」元電通マン佐々木宏氏が仕掛けたキャッチコピーの「大きな罪」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/09
No image

今年1月から、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課が主管となって「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が開かれている。

ご存じない方もいるかもしれないが、現在日本国内での大麻の扱いは、違法薬物ではあるが使用しただけでは罪に問われず、所持した場合のみ刑事罰が与えられている。

今回の検討会では、この使用についても刑事罰を与えようという麻薬対策課の動きと、てんかんなど治療薬として役立つことが判っている医療大麻を国内でも使えるようにしようという議論がなされているのである。

No image

〔PHOTO〕iStock

世界の潮流に逆行する麻薬対策課の動き

現在、先進国の薬物政策は「刑罰よりも治療へ」という流れになっている。

こう述べると「諸外国では薬物が蔓延しすぎていて仕方なくこのような政策をとったのだ」と思い込みでいい加減な発言をするワイドショーのコメンテーターや専門家と称する方々がいるが、決してそのように「致し方なく」とられた政策ではない。

そもそも「刑事罰には効果がない」という各国の実感があり、2001年にポルトガル政府が実験的に「いかなる薬物も少量の使用や所持は罪に問わない」としたところ、(1)薬物治療につながる人の割合が増えた(2)HIVなどの薬物使用による二次的な害が減った(3)薬物の過剰摂取による死亡者が減った(4)10代の薬物使用者が減った等のエビデンスが出たために、他の先進国もこの「ハームリダクション」と呼ばれる政策に追随したのである。

これは諸外国の話ではなく、日本の現状にもあてはまることである。

日本でも違法薬物使用者の再犯者率が高いことはよく知られている。初犯の人は6割、50代以上の人になると8割以上が再犯すると言われている。つまりこれらの再犯者率は刑務所には薬物使用を止めさせる効果がないという、諸外国と同様のエビデンスが出ているわけである。

物事を感情的ではなく理論的に捉えることができる人なら、この「刑罰より治療へ」という流れは、簡単に理解していただけることだ。

例えば、飲酒やギャンブルの開始年齢には法律で定められた年齢制限があるが、この年齢制限は厳守されているわけではない。アルコールやギャンブルに手を出す高校生、10代の大学生などいまだに多数いるのが現実だ。

では、この高校生や大学生を法律に違反しているからと逮捕していったらどうなるだろうか? 逮捕により学校は中退させられ、近所に噂が広まり、地域社会から排除され、就職活動もままならなくなる。

軽微な罪にもかかわらず、奪われるものがあまりに大きく、自暴自棄になり、孤独や居場所感のなさからますますアルコールやギャンブルが手放せないものとなっていくことであろう。

つまり、逮捕がより大きな社会的損失を作り出してしまうので、違法ではあるが厳罰化はしていないのである。

大麻の使用は軽微な犯罪である。大麻自体の害は、アルコールに比べてずっと少ないことが様々な調査や研究で明らかにされてきた。

2014年、米国のCenters for Disease Control and Prevention(疾病予防センター)は、3万722人がアルコールが原因で死亡し、さらにアルコールによる事故や事件を含めるとその数は9万人に上ると発表した。

一方、Drug Enforcement Administration(麻薬取締局)は大麻の過剰摂取で亡くなった人はおらず、American Journal of Public Healthに掲載された調査によれば、大麻使用者と大麻を使用しなかった健康な人と寿命の違いは見られなかったと発表している。日本ではアルコール依存症が進行した人の平均寿命は52歳と言われている。

大麻の調査研究が進み実態が明らかになるにつれ、大麻自体を合法化する国も増えてきた。アルコールと大麻どちらも「酔い」を求めるなら、害の少ない方が良いと考える国があってもおかしくない。少なくとも、大麻を今より厳罰に処せ!などという先進諸国は日本以外ないのである。

「反社にお金が流れている」と言う人がいるが、反社にお金が流れているという意味では、大麻などより闇金融のほうが被害はよほど甚大である。

こちらも多くの人々が利用してしまっているが、一度でも返済が滞れば、家族はもとより親族、友人、知人まで苦しめられ、時には自死や一家心中にまで追い詰められている。

けれども闇金融が違法だと承知の上で利用した客が罪に問われたりはしない。憎むべきは闇金融の経営者側であると誰でも判ることである。大麻など違法薬物の場合も同じで、追い詰めるべきは、末端の利用者ではなく売人であり、密輸元や製造元である。

麻薬対策課の逆行はなぜ止まらないのか?

今回の大麻使用罪の新設は、厚生労働省の医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課が主導している。おそらく日本の官僚でこの法案を通したいと願い、薬物政策の世界的転換、時代の流れ、科学的な根拠、これら全てに屈強に抵抗しているのはこの課のみである。

なぜこの麻薬対策課はこのように末端の使用者を罰することに意固地になっているのか?

それはもちろんこの課の官僚特に麻薬取締官(通称マトリ)にとってメリットのあることだからだと考える他には理由が見当たらない。国民のメリットなどではなく、政治家や官僚のメリットでこの国が動くことは残念ながら多々あるのだ。

使用者を逮捕すれば、逮捕者という実績を簡単に水増しすることができる。そうなればこの麻薬対策課の予算は増え、人員確保も安泰である。

しかしこれは官僚としての矜恃の劣化ではないだろうか。つまり売人や中国、北朝鮮、ロシア等の麻薬輸出国に我が国が食い物にされることを防衛するという、困難かつ国家的にも意義のある巨大な敵に立ち向かうより、食い物にされてしまった日本の末端の使用者の取り締まりを強化しようとしているのだ。

使用罪を新設しそちらに労力をさけば、国内に麻薬が流入することを防ぐという時間も労力もかかる仕事がおざなりにされてしまうことは目に見えている。つまり麻薬産出国から1トンの流入を防いでも事件数は1件であり逮捕者も2~3名なら、簡単に逮捕できる使用者100人を捕まえた方が、楽で予算も増えると考えていると思われる。

これは決して的外れな当てずっぽうなどではない。その証拠に、薬物問題の解決は世界全体の課題であり、足並みをそろえようということで、国連では毎年6月26日を「国際麻薬乱用・不正取引防止デー」としキャンペーンを展開している。ところがこの日を麻薬対策課は、「国際麻薬乱用撲滅デー」と翻訳し毎年ポスターを作成しているのである。

そもそも麻薬乱用を撲滅することなど不可能である。国連でも敗北宣言が出され、だからこそ害の減る実行力のある政策が取られるようになったのである。

ところが麻薬対策課は「撲滅」という非現実的な強い言葉の目くらましで「不正取引防止」といった大きな役割に国民の目が向かぬよう長年印象操作をしてきたと思われる。どう考えても重要なのは不正取引防止の方ではないか。

この件に対し、一昨年依存症問題について活動している民間団体が協働して、麻薬対策課に正確なキャンペーン名に翻訳し変更するよう申し入れをしたが、麻薬対策課の答えは「長年定着してきた言葉なので変える気はない」という全く理屈に合わない返答であった。

佐々木宏氏が仕掛けた「ダメ。ゼッタイ。」

では、なぜこのような官僚の劣化とも言える体質が、こうまで見過ごされてきたのであろうか。

それはひとえにこの麻薬対策課がおこなう、末端の使用者に対する偏見を作り出すこと、末端の使用者を人間失格に仕立て上げることというプロパガンダが成功してきたからに他ならない。

このプロパガンダは官僚としての座を安泰にさせるだけでなく、天下り先ができ、そこに税金を投入させられる。そして天下り先がさらなる偏見を強化するという悪循環が長年放置されてきているのである。

このWebサイトを見るとわかるのだが、この公益財団法人 麻薬・覚醒剤乱用防止センターにもしっかりと元近畿厚生局麻薬取締部長が役員になられている。そして、この麻薬・覚醒剤乱用防止センターが毎年、厚生労働省麻薬対策課からの依頼を受けこの「国際麻薬乱用撲滅デー」にあわせた「ダメゼッタイ」運動のポスターを作成すると言う構図ができあがっている。他の業者に委託先が変わることは私の記憶のある限りではない。

そして同センターが作成するポスターがこういった代物だ。

No image

まるで薬物依存症者には破滅への道しかなく回復の道がないかのようだ。このポスターを見た薬物依存症のご家族が深く傷つき、改善の申し入れを行ったのだ。

薬物のご家族の申し入れは

・「ダメゼッタイ」は世界的に見ても効果がない(実際日本でも、若者の大麻使用が増えていると言われ、再犯率も高止まりしているのだから効果など上がっていない)
・「ダメゼッタイ」と言ってしまうと、自己責任問題となり手を出してしまった人が救われない。手を出してしまった人が、支援に繋がれるような啓発に改善してほしい
・「国際麻薬乱用撲滅デー」を正しい翻訳に訂正してほしい

ということだった。これがそれほど難しい問題だろうか?

しかもこの啓発予算の事業目的には「薬物依存症の正しい知識と理解について広く国民に周知し、薬物依存症者やその家族が適切な治療や支援に結びつく社会を実現する」と書かれているのである。このポスターのどこに支援に結びつく啓発があるのだろうか。

しかし、このご家族の申し出を麻薬対策課はけんもほろろにうち捨てたのである。

そもそもこの「ダメ。ゼッタイ。」のキャッチコピーを作ったのは元電通マンで、このたびのオリンピック開会式における、渡辺直美さんへの侮辱的な演出を考えた佐々木宏氏である。

この電通と官僚というこの国のキャリアが得意とするコンビネーションで仕掛けたのが「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーンなのである。

佐々木氏は2019年5月に開催された「Advertising Week Asia 2019」でパネラーを務め、その舞台でこんな発言をしている。

28歳で転局しまして、コピーライターになりました。最初は低空飛行が続きましたが、その頃に書いてみんなから馬鹿にされたコピーが、「ダメ。ゼッタイ。」の麻薬撲滅運動、それから「第一志望は、ゆずれない。」の駿台予備校。この2つのコピーが、35年経った今でも使われているということが自慢です。とくに「ダメ。ゼッタイ。」では、酒井のりピーが途中でイメージタレントに。効き目ないです。(笑)

こういった言い草を厚労省の税金で作った本人が発言することが許されることなのかと疑問に思うが、作ったご本人も「効き目がない」と皮肉をこめて言っているのである。

そしてみんなから馬鹿にされ、効き目のないコピーを35年間啓発で使い続けているのは、このコピーが優秀だったからというよりは、ひとえに麻薬対策課の思惑と怠慢からと言えるのではないだろうか。

こんな言い方をされて麻薬対策課には誇りはないのかと疑いたくなるが、35年もあれば、精神保健の分野も医学も社会もめまぐるしく進歩している。

35年前は薬物依存症の回復施設「ダルク」がひっそりと産声をあげたばかりであるが、そのダルクも今や全国に100カ所近く作られ、依存症問題に関わる人々のみならず一般人にも浸透しているというのに、厚生労働省麻薬対策課は社会的支援がなにもなかった35年前のまま啓発活動を変えようとしていないのである。

声をあげ始めた薬物依存症の家族たち

「ダメ。ゼッタイ。」は人々の差別や偏見、排除を招く「分断コピー」である。私たちのような依存症支援に関わる人たちはこのコピーを止めてほしいとことあるごとに訴えてきた。しかしその訴えは空しく切り捨てられてきた。

そこで「このままではどうにもならない。差別や偏見に屈せず声を上げよう」と関西薬物依存症家族の会が積極的な活動を開始した。

これまで目立たぬように地域の薬物問題を抱えるご家族を支援してきた家族会だが、この大麻使用罪の新設議論で募らせた危機感から緊急アンケート(回答者は169名)を行った。

No image

169名中121名が相談に向かうだけで1年以上かかり、そのうち47名はなんと5年以上もかかっているのである。

では、その相談を遅らせた原因はどこにあるのか?

No image

つまり「ダメ。ゼッタイ」の啓発は、万が一問題が起きた時には破滅しかないという間違った情報を伝えているためにどうしたらよいのか判らないのである。

では刑事罰は、再発防止に役に立つのだろうか?

No image
No image

刑事罰を与えられた経験を持つご家族140名のうち、85名が「効果はなかった」、さらに25名は「むしろ問題が悪化した」と答えている。

No image

そして逮捕されたことで、家族にどんな影響があったかといえば、うつ状態や家庭内の不和、そして中には、地域や仕事からも追われる人がいるのである。これは薬物使用をした当事者ではなく、あくまでも家族の側に起きた問題である。

薬物で「酔い」を求めただけで、これほどまでの悪影響を被る一番大きな理由は刑罰であり、差別と偏見と人権を無視した啓発の結果である。薬物問題は懲らしめや見せしめよりも、治療に繋ぐべきなのである。

この記事を書くにあたって、関西薬物依存症家族の会に取材をしたのだが、最も印象深かったのは「これまで『ダメ。ゼッタイ。』教育しか受けて来なかったために、いざという時にどうしたら良いのか分からなかった。まさか自分が薬物問題を抱える家族になるとは思ってもみなかった」という言葉である。

つまり「ダメ。ゼッタイ。」教育は、薬物を使った人をモンスターに仕上げてきたために、普通の人の普通の家庭で起こりうる問題なのだという必要な啓発とは真逆の方向に進んできたのである。

最後に「大麻のあり方検討委員会(第3回)」の議事録を見てほしい。

なぜかこの検討委員会の議事録は、委員の名が伏せ字になっている。その上、会議は非公開である。これはどういった忖度が働いているのかと思うが、こういう秘密主義に官僚が走っているときには必ず何か目論見や思惑、根回し、そして結論ありきのアリバイ作り会議であることが多いので、しっかりと注視し声を上げていかなくてはならない。

No image

議事録の一部。委員の名前が伏せられている

いくら伏せ字にしようが隠そうが、もうインターネット上で伏せ字にされた委員の名前も出回っており、そもそも議事録は私のように依存症問題に関わる者が読めば誰が発言しているのかすぐに分かってしまうが、かつて国の薬物依存症に関する研究機関の長であった先生が、ハームリダクションを真っ向から否定するという変節ぶりを見せたことは衝撃的かつ大いなる疑問であった。

現役時代とは真逆の方向に向かい、しかも「ハームリダクションは曲者の言葉」「ハームリダクションはHIV感染予防のための政策」など全くアップデートされていない古くさい情報を披露していた。

ご自身の思い込みを垂れ流してしまうことは、医療者としても研究者としても委員としても適材ではないのではないかと思うが、依存症の研究機関を定年退職されたので、まさか取り締まり側の天下り先にポジションを用意されたのではないかと勘ぐってしまったほどである。

今回の議事録には、問題の根源を象徴する箇所がある。

それは麻薬対策課をはじめとする厳罰化することにメリットのある側の委員の「『(ダメ。ゼッタイ。は)』あたかもお母さんが子供に『それはやってはダメよ!』とさとすように言う言葉です」という発言である。

親が(しかもなぜかお母さんのみが)子供を諭したくらいで、予防啓発ができると思っているとしたら、キャッチコピーを作った佐々木宏氏といい、麻薬対策課といい、彼らは35年前から時間が止まっているのであろう。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加