20年据え置きのネギの値段を変えた! ネギ1本1万円で売る男の戦略

20年据え置きのネギの値段を変えた! ネギ1本1万円で売る男の戦略

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/19
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「1本1万円のネギが売れている」そう聞くと驚く人も多いのでは?
『ねぎびとカンパニー』社長・清水寅氏は脱サラ後に農業を始めた中途参入組。しかし今では『ねぎびとカンパニー』のネギは1本1万円の価値が付くほどに…。
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第9回では、農協との取引をゼロにした寅氏が次にネギの単価を上げるためにしたことをお届けします。>>今までの連載はこちら!

2本セットにすりゃいいじゃん

ネギの値段はこの20年、平均するとほとんど変わっていません。肥料代も農薬代も燃料費も人件費も、みんな1.5倍にはなっているのに、小売価格だけが変わらない。本来なら、ネギの小売価格も20年前の1.5倍でおかしくないのです。これでは農家はやっていけません。

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出荷前のネギ

うちも初めて山形県のスーパーに出したときは3本98円でした。翌年には3本158円になり、その翌年には3本198円になった。

さらに単価を上げる大きなきっかけになったのは、2本売りにしたことでした。3本198円を2本198円にできたときに、大きなステップを踏み出すことができた。

昔から続いてきた3本セットは、いまや意味合いが薄れています。地方の大家族ならともかく、東京の核家族では、使いきれずに1本捨てている人も少なくない。そこで、2本セットで売ることを提案したわけです。

それまでの常識を打ち破ることは簡単ではありません。スーパー側は当然、反対しました。そこで、こう説得したのです。

Lサイズのネギなら、段ボール箱1ケースに45本入っています。これを3本ずつセットにすると、15セットできる。1セット198円で売るから、総売上は2970円です。一方、これを2本セットにした場合、23セットできます(うちではLサイズを1ケース46本入りで出していました)。1セット198円で売ると、総売上は4554円になる。

まったく同じ1ケースのネギが、何本で束ねるかで、売上は53%もアップする。「おたくにとっても得になる話なんだから、試すだけ試してみてよ」と。結果はすぐ出ました。なんの問題もなく売れた。

小売価格をいきなり1.5倍にすることはできません。3本298円では、消費者から拒絶されたでしょう。でも、値段は198円のままで2本セットにしたら、実質1.5倍の値上げでも受け入れられた。これまでより品質のいいネギだと消費者が納得してくれれば、文句が出ることはないのです。

スーパーの売上が5割増するわけですから、うちの卸値も少し上げてもらう。これで利益が増えました。ネギの値段が1.5倍になって、ついに原価の高騰に追いついた。2本セットに変えるだけで、20年間の遅れを一気に取り戻せたわけです。

2L理論

数字で考えれば、いろんなところに利益を増やすヒントが見つかります。たとえば、ネギのサイズです。

農作物には規格があります。ネギでいうと、長さは60センチと決まっています。規格は県によっても違いますが、山形県の場合、太さは、Mサイズが1.3~1.6センチ未満、Lサイズが1.6~2.0センチ未満、2Lサイズが2.0~2.6センチ未満。

スーパーや飲食店に直接出す場合はそこまでうるさく言われませんが、農協に出す場合は、規格にきっちりそろえないとハネられてしまう。

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ネギ畑

規格については、初年度から疑問で仕方がありませんでした。1ケースに、Mなら55本、Lなら45本、2Lなら30本入ります。ところが当時、どの太さでも、1ケースの値段がほとんど変わらなかった。細かい数字は忘れましたが、Mが1ケース1300円、Lと2Lが1ケース1500円ぐらいだったと思います。

Lの1ケースには、2Lの1.5倍の本数が入っています。当然、育てる手間も、皮をむく手間も、箱詰めする手間も1.5倍です。資材費も燃料費も人件費も1.5倍かかっているのに、値段は同じ。これはおかしいじゃないかと。

計算してみました。仮に5町歩の畑で一日300ケースの出荷としたら、Lを出すのと2Lを出すのでは、30年間で12億円も利益の差が生まれると出た。2Lを作るほうが圧倒的に経費が抑えられる。そこで決意したのです。

「俺は2Lを作る!」

MサイズやLサイズだけを作る農家には絶対ならないと決めました。だから、新規就農2年目でネギ栽培面積日本一を達成したあとは、「いかに太いネギを作るか」「いかにおいしいネギを作るか」に関心が移っていきます。

太いネギを作る技術はどんどん上がっていきました。現在、うちが出荷するネギの7割は2Lサイズです。いまも地方のスーパー向けにLサイズを作り出荷していますが、全体の2割にしかなりません。

さきほどの2本セットのときは、Lサイズで計算して、相手を説得しました。でも、そのスーパーだけでなく、どこのスーパーでも2本198円が受け入れられたのは、うちが2Lのネギをメインにすえたことと無関係ではないと思います。これまでより明らかに立派なネギなのだから、消費者は割高に感じなかったのです。

プレゼントにできるネギ

ただし、そこから先は長かった。2本198円を実現したあと、2本298円で売ってくれるスーパーが登場するまで3~4年はかかりました。東京のすべてのスーパーで2本298円になるには、さらに時間が必要だった。ものすごく苦労した。

スーパーに何度かけあっても、例外なく却下されました。「ネギはそういう野菜じゃない。庶民的な値段でないと無理なんだ」と。

当時、さまざまな業界の人と会うたび、「ネギの値段を上げるにはどうしたらいいと思いますか?」と質問しまくっていた。誰も答えをもっていないとわかってはいるものの、わらにもすがる思いだったのです。

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寅ちゃんネギ

やはりブランド化するしかない。「寅ちゃんねぎだから、多少高くても買うか」と思ってもらうしかないのだ――。そういう結論に達しました。そのためには味と見た目が重要です。見ただけで「このネギはよそのと違う」と思ってもらえて、実際に食べても「おいしい!」と感じてもらえるネギを作る必要がある。

実は2年目から、有機肥料へのチャレンジを始めていました。初年度は化成肥料100%でしたが、2年目に有機肥料が25%になり、3年目に50%になって、4年目には完全に有機肥料だけで作るようになった。

書籍では詳しく説明していますが、有機肥料で育てると病気が減る。ネギが健康に育つのです。そうした理由で始めたのですが、味もよくなることに気づいた。化成肥料よりおいしくなるのです。

真の葱やモナリザは夏扇(なつおうぎ)パワーという品種ですが、実は農家の間では「おいしくない」と悪評が高いのです。だから、農家から「なんで、こんなにおいしく作れるんですか?」と、しょっちゅう問い合わせがくる。

じつは、化成肥料を使うと、土が硬くなります。当然、ネギも硬くなる。うちは有機肥料しか使わないし、土をフカフカのまま保つ工夫もしているので、柔らかく作れるわけです。しかも糖度が非常に高い。

早くも4年目にはバイヤーの方から「このネギおいしいから、お歳暮で送ってもらえない?」と頼まれるようになりました。そういう人が徐々に増えた。

プロが褒めてくれるのだから、味は確実に上がっているのだと喜びました。それと同時に驚きもした。野菜をお歳暮にするなんて、聞いたことがなかったからです。

「うちのネギって、贈り物になるんだあ……」

プレゼントにできるネギ――。「これだっ!」と思いました。

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