

博多発の特急「ゆふいんの森1号」で天ケ瀬駅に着いた

JR天ケ瀬駅前にある「駅前温泉」の看板。混浴露天風呂をうたう

JR天ケ瀬駅から特急「ゆふ3号」に乗り、久大線を東へ向かった

久大線の不通区間を結ぶ代行バス

代行バスの車窓から見えた由布岳

庄内駅から2両編成の普通列車に乗り、大分駅を目指した

趣のある外観の「あたみ温泉」。大分駅から徒歩3分の近さ

「あたみ温泉」は大分駅前の広場(右奥)が見えるほど近い

「あたみ温泉」の浴室。開業当初は銭湯だった

東町温泉の最寄り駅、東別府駅。レトロな木造駅舎が残る

東町温泉の看板。宣伝文句は「電車の待ち時間にちょっと一風呂!」

熱々のお湯が張られた東町温泉の浴槽

別府駅に到着。駅名表示板には温泉マークが入る

大正時代の建物で営業する「駅前高等温泉」。別府駅(右奥)から延びる通り沿いにある

JR別府駅近くの「駅前高等温泉」にある「あつ湯」の浴室
♨混浴露天風呂にザブン!
佐賀県・嬉野、長崎県・雲仙、鹿児島県・指宿…。九州の各地では、個性豊かな温泉が競い合うように湧き出ている。中には鉄道の駅前という一等地で楽しめる名湯も。今回は湯冷めに気を付け、列車に乗って大分県の「駅前温泉」をはしごする旅に出掛けた。
JR博多駅から特急「ゆふいんの森1号」豊後森行きに乗った。名前の通り、主に由布院温泉(大分県由布市)に向かう観光客を乗せる特急だが、経由する久大線は由布院駅を含む豊後森-庄内間が昨年7月の豪雨で被災し、現在も不通が続く。そのため運行区間は豊後森駅までになっている。

博多発の特急「ゆふいんの森1号」で天ケ瀬駅に着いた
列車は午前9時24分に博多駅を発車。平日とはいえ、同じ車両の乗客はわずか十数人だった。
久留米駅から久大線に入った。筑後平野を駆け抜け、山あいに分け入っていく。大分県日田市の天ケ瀬駅に午前10時54分に到着。途中下車して駅舎を出た瞬間、温泉のにおいが鼻を突いた。
通りの反対側に「駅前温泉」の看板があった。「混浴露天風呂で身も心もリラックス!」。えっ、混浴!? 戸惑いつつ、玖珠川のそばにある温泉に下りていった。
浴槽にかかる屋根とコンクリート打ちっぱなしの脱衣場があるだけの簡素な造り。黄色い料金箱に100円を入れるだけで入浴できる。
白く濁った湯には3人が漬かっていた。そのうち1人は隣の大分県玖珠町に住む高齢女性。「毎日入りに来ている。気持ちいいですよ」と上機嫌だった。

JR天ケ瀬駅前にある「駅前温泉」の看板。混浴露天風呂をうたう
温泉は地元住民がつくる組合が管理している。2年ほど前まで十数年間、組合の責任者を務めた安永洋さん(78)によると、温泉の開業時期は不明だが、1959年8月から現在地にあるという。もともと「簗ケ瀬(やながせ)の湯」という名前だったが、安永さんが責任者の時に通称名の「駅前温泉」を取り入れた。
昨年7月の豪雨では温泉が水没し、湯船には泥が堆積。600メートルほど上流の源泉から引くパイプが破損し、手すりも流された。
「風呂場は台風が来れば、よく漬かっていたが、こんなに大きな被害は初めてだった」と安永さん。ただ屋根や柱は残り、風呂場の原型も残った。湯船の泥をかき出し、パイプを引き直し、手すりを取り付けた。被災から2カ月後、営業再開にこぎ着けた。人づてに復旧の話が伝わり、常連客も少しずつ戻ってきた。安永さんは「日常が戻ってきた」と実感したという。

玖珠川に面した駅前温泉。右奥には久大線の鉄橋が見える
早速、湯船に入る。源泉掛け流し。70度の湯を引き、山の水や水道水で冷ましている。谷に沿って吹く風や川のせせらぎが心地よい。ガタンガタン…。近くの鉄橋を列車が渡り、到着を告げる天ケ瀬駅のベルの音もかすかに聞こえた。
次第に客が増えてきた。関西から来た男性(79)は、青春18きっぷで九州を巡る旅の途中。「泉質がすごく良くて気持ちよかった。最初は熱いけど、慣れたら大丈夫」。福岡県嘉麻市の男性(64)は週に1度、訪れているといい、「天ケ瀬のいろんな温泉に入ったけれど、泉質はここが一番」と話していた。
♨大分なのに「熱海?」
天ケ瀬駅に戻り、午後2時1分発の特急「ゆふ3号」に乗った。13分で終点の豊後森駅(玖珠町)に到着。庄内行きの代行バスに乗り換えた。

JR天ケ瀬駅から特急「ゆふ3号」に乗り、久大線を東へ向かった久大線の不通区間を結ぶ代行バス

バスは20人ほどの客を乗せて午後2時29分に豊後森駅を出発。昨年の豪雨で流失した久大線の鉄橋は復旧作業が始まっていた。ただ線路が宙づりになったままの場所も。道路も崩れた斜面の整備で片側交互通行になっているところが何カ所もあった。

代行バスの車窓から見えた由布岳
秀峰、由布岳を仰ぎ見ながら、一路東へ。1時間40分ほど乗って庄内駅(由布市)に着いた。2両編成のディーゼルカーで37分。大分駅(大分市)に着いた時には、既に太陽が沈みかけていた。

庄内駅から2両編成の普通列車に乗り、大分駅を目指した
2015年に開業した駅ビル「JRおおいたシティ」を出て、線路沿いを別府方面に歩いて3分。「天然温泉」という赤い看板を掲げた「あたみ温泉」に着いた。

趣のある外観の「あたみ温泉」。大分駅から徒歩3分の近さ
建物の中に入ると、番台や脱衣場があり、奥の浴室には大きな壁絵もある銭湯ような造りだ。それもそのはず。「最初は沸かし湯の銭湯だったんですよ」。番台に座って60年近くになる榎本末子さん(81)が教えてくれた。1957年4月に開業し、現在も当時の建物で営業している。後に温泉を掘り、加温せず、消毒液も使わない「天然温泉100%」の湯になった。

「あたみ温泉」の浴室。開業当初は銭湯だった
「地元の客は高齢者施設に入ったり、立ち退きで引っ越したりして少なくなった」と榎本さん。それでも、駅前にある立地のおかげで旅人がよく利用する。榎本さんは「(普通列車で25分ほどの)幸崎から週2、3回、電車に乗って来る人もいますよ」と話す。
ところで、なぜ「あたみ温泉」なのだろう。「最初は静岡の熱海にあやかって、漢字の『熱海温泉』だったんです。でも、静岡の人に遠慮して20年くらい前にひらがなにしました」(榎本さん)。

「あたみ温泉」は大分駅前の広場(右奥)が見えるほど近い
謎が解けたところで、入浴料380円を払い、体を洗って湯船へ。湯は茶褐色。「あついお湯」「ややぬるめ」の2種類があるが、どちらも40度超えだ。底が深いので、首まで湯に漬かれる。窓からは、高架を走る列車の鈍い音が聞こえた。
湯船から出て体を冷ましたり、また入ったりを繰り返すうちに、次に乗る列車の時間が近づいてきた。名残惜しく「あたみ温泉」を後にした。
♨予想を超えるアツアツ!
大分駅から日豊線上りの普通列車で約10分。東別府駅(大分県別府市)で途中下車した。100年以上前のレトロな木造駅舎を出て約50秒。「東町温泉」に着いた。料金投入口に100円を入れて中へ。楕円(だえん)形の浴槽には、無色透明の湯がたっぷり入っていた。

東町温泉の看板。宣伝文句は「電車の待ち時間にちょっと一風呂!」熱々のお湯が張られた東町温泉の浴槽

他に客はおらず、貸し切り状態。東別府駅を発着する列車や踏切の警報器の音がばっちり聞こえた。早速、湯を浴びようとしたが、とにかく熱い。じわっと入れた膝が一瞬にして真っ赤になった。慎重に体を沈め、全体が漬かるまでに5分ほどかかった。

東町温泉の最寄り駅、東別府駅。レトロな木造駅舎が残る
別府の温泉はどこも熱いイメージがあるが、予想を超えた。だが、その分、体が温まるのも早い。ぽかぽかしながら、再び日豊線の上り列車に乗り込んだ。
♨最後は「あつ湯」で極楽~
次の別府駅(別府市)で降りて徒歩2分。駅前から延びる通りの右手に、大正時代に建てられた洋館が見えてきた。その名も「駅前高等温泉」。「高等」は、ハイカラな建物に由来するという。券売機で買った200円のチケットを番台の男性に渡す。「あつ湯」「ぬる湯」で部屋が分かれていた。男性からは「地元の人はこっちに入りよるよ」と、「あつ湯」を勧められた。

別府駅に到着。駅名表示板には温泉マークが入る大正時代の建物で営業する「駅前高等温泉」。別府駅(右奥)から延びる通り沿いにある

半円形の湯船には、少し黄色っぽい湯が張ってあった。色は日によって変わるという。「あつ湯」というぐらいだから、恐る恐る入ってみたが、先ほどの東町温泉で熱湯を体験したせいか、難なく入れた。湯船の縁に身を預け、しばし極楽気分を味わった。

JR別府駅近くの「駅前高等温泉」にある「あつ湯」の浴室
九州の「駅前温泉」は、今回巡った4カ所の他にもある。次は熊本か、鹿児島か。新たな温泉旅を想像する。
(中原岳)
♨駅前温泉 大分県日田市天瀬町桜竹538。午前8時―午後9時。年中無休。100円。日田市観光協会天瀬支部=0973(57)2166。
♨あたみ温泉 大分市末広町1丁目3の4。午後2―11時。火曜定休。大人380円など。097(532)4324。
♨東町温泉 大分県別府市浜脇1丁目16の1。午前6時―午後10時半。年中無休。小学生以上100円。0977(21)1267。
♨駅前高等温泉 大分県別府市駅前町13の14。午前6時―翌0時。不定休。大人200円など。0977(21)0541。
西日本新聞