専門家からも疑問の声...小泉環境大臣の「コンビニスプーン有料化」は的外れだ

専門家からも疑問の声...小泉環境大臣の「コンビニスプーン有料化」は的外れだ

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/04/08
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レジ袋の次はスプーンだ。「環境」という錦の御旗の下に、色々なプラスチック製品が有料化されていくが、はたして本当に効果があるのか? 専門家たちからも疑問の声が上がっているようで……。

困惑しかない

「これは、初めてプラスチックという素材に着目した法律です。例えば、無料で使い捨てプラスチックのスプーンやフォークが配られるということもなくなっていく。世の中が変わっていくことになると考えています」

来年4月の施行を目指すプラスチック資源循環促進法案を閣議決定した3月9日、小泉進次郎環境大臣は、自信たっぷりにこう表明した。

たしかに昨年7月にレジ袋有料化がスタートしてから、スーパーやコンビニのレジでエコバッグを広げる人は増えた。これに気をよくしたのか、「次はスプーンとフォーク、ストローだ」とぶち上げたわけだが、国民からは困惑の声が上がっている。

「ただでさえ、お客さんに『レジ袋は要りますか?』『ポイントカードはお持ちですか?』と聞くことが多いのに、今度は『有料ですが、スプーンやフォークは要りますか?』と尋ねなければなりません。

『なぜこれまで通り、無料でもらえないのか?』と怒鳴る客も必ず出てくる。どれだけ現場に負担を押し付けるつもりなのか」(都内のコンビニで働く60代男性)

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レジでの面倒が増えるだけではない。そもそも「環境政策」としてどれだけ有効なのか、という根本的な疑問もある。

廃棄物管理政策が専門の石川雅紀・神戸大学名誉教授は、今回の件に関して「いきなり報道で大々的にスプーンのような細かな製品の話が取り上げられたので、正直びっくりした」と驚きを隠さない。

スプーンやストローなどを有料化することで果たして、現実的にどれくらいの二酸化炭素が削減できるのか。

「昨年からレジ袋の有料化が始まっていますが、その効果をきちんと検証したデータはまだ出てきていません。

実行面でも、スプーンやストローはレジ袋以上に多様なシチュエーションで使われる。

どのように規制するのか、罰則を設けるならどのように監視するのか、あいまいな部分が多い。世界的に見ても、ストローなどのカトラリーを有料化するという例はあまり見たことがない」(石川氏)

過去のデータやしっかりした目標もないまま拙速に進められている「パフォーマンス」的側面が強いのだ。

「小泉大臣はスプーンを持ち歩く人が増えると言っていますが、本当にマイフォーク、マイスプーンが習慣として定着すると思いますか?

『脱炭素』という政策の方向性自体は否定しませんが、本来であれば石炭火力や原子力発電をどうするのか、再生可能エネルギーを普及させるためには、といった本質的な議論をするべきです」(国民民主党の玉木雄一郎代表)

0・5%だけです

では、実際に「スプーンの有料化」でどれほどの地球環境の改善が見込めるのだろうか。

プラスチック製品を減らす目的は大きく分けて2つある。1つ目は海洋プラスチックごみの減少、2つ目は二酸化炭素排出量の削減だ。

まずは海洋プラスチックの問題から見てみよう。

コンサルタント会社マッキンゼー&カンパニーが'15年に作成したレポートによると、捨てられて世界中の海に漂っているプラスチックのごみは合計で1億5000万tにも及び、'50年には海中のプラスチックの重量が、海に生息する魚の重量を超えるとすら言われている。

魚の他にも海鳥やウミガメの胃袋を解剖すると中からプラスチックごみが出てくることが多い。海鳥の実に90%以上がプラスチックごみを摂取しているという試算もあり、生態系への深刻な影響が懸念されている。

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とりわけ怖いのが、漂流中に崩れ、細かくなった粒子状のマイクロプラスチックだ。こうなるとごみとして回収しようにも不可能で、それを食べた魚の体内に蓄積されることになる。

もちろん、魚を食べた人間にも蓄積し、深刻な健康被害が起きる可能性がある。事実、'18年に発表された研究では、日本人を含む被験者8人全員の便からマイクロプラスチックが発見されている。もはや我々は、自分の捨てたごみを口にして生きているのだ。

コンビニでもらうスプーンを有料化すれば、海洋プラスチックの問題は解決されるのだろうか?答えは、限りなくノーに近い。

世界全体で一年に海に流れ込むプラスチックの量は約800万tに上る。だが、そのうち日本から発生しているものはわずか2万~6万t(環境省)である。

日本はプラスチックの廃棄量では人口一人あたり32kgで米国に次いで世界第2位のプラスチック消費大国だが、ごみの収集及びリサイクルのシステムが発達しているため、川や海に廃棄される量は極めて限定的である。

ちなみに中国から海に流れ出ているプラスチックの量は年間132万~353万tと見積もられている。

また、日本の海岸に漂着しているプラスチックごみのうち、ポリ袋が占める割合は重量でわずか0・4%、スプーンやフォーク、ストローなどのカトラリーは0・5%に過ぎない。

漂着ごみの大半を占めるのは漁網やロープ(41・8%)、ブイ(10・7%)などで、それらを規制しない限り、海洋プラ問題の根本的解決はありえない。

エコバッグも環境に悪い

我々が身近に使用している製品でゴミとして漂着しているものは飲料用ボトル(7・3%)、その他プラボトル(5・3%)など。

本気で海洋汚染を食い止めたいなら、スプーンやフォークの前にペットボトルを禁止するほうがよほど効果的だ。もっとも、それには業界団体の調整など難しいハードルがいくつも立ちはだかる。

そもそも、コーヒーを飲むのにストローだけ紙製で大きなカップのほうはプラスチックのままだったり、スプーンを有料化しても石油由来の弁当箱は使い捨てだったりするのはおかしな話だ。

もう一つの二酸化炭素排出量の問題にしても同様のことが言えるだろう。

マイスプーンやマイフォークを持ち歩いても、プラスチックに入ったコンビニの弁当を食べていたら、これまでとほとんど変わらぬ炭素量を排出していることになる。

レジ袋に関して、面白い試算がある。

日本LCA(ライフサイクルアセスメント)学会が、レジ袋とエコバッグの二酸化炭素排出量を詳細に比較したものだ。

原材料の段階でレジ袋よりエコバッグのほうが約100倍もの二酸化炭素を排出している。製造段階で20倍、焼却段階では7倍ほど、エコバッグの排出量が多く、トータルで見て、エコバッグ1枚の環境負荷はレジ袋50枚分に匹敵することがわかったのだ。

レジ袋を持ち帰る人は家でごみ袋などとして再利用することも多い。そうなるとエコバッグを100回以上利用しなければ、レジ袋より多くの二酸化炭素を排出している計算になる。

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環境派を気取りながら、次々エコバッグを買い替えていては、むしろ地球温暖化を促進することになりかねない。

詳細な試算はないが、同様に金属製のスプーンやフォークを製造するにはプラスチック製に比べて多量のエネルギーが必要になり、かなりの二酸化炭素が排出されていることは間違いない。廃棄時に排出される炭素の量も桁違いだ。

環境のために、プラスチックをリサイクルして再利用しようという提案もある。だが、これも本当に地球のために優しいかは怪しい。東京大学大学院・特任教授の保坂直紀氏が解説する。

「プラスチックのリサイクルに関しては、難しい問題があります。せっかくごみを分別して再生プラスチックを作っても、それを買ってくれる消費者はなかなかいません。新しいプラスチックのほうが安価で品質もいいからです。

政府がなんらかのインセンティブを導入して、リサイクルがうまく回るようにしなければ、市井の人がいくらレジ袋やスプーンの使用を控えても、ごみ問題の根本は解決できません」

そもそもプラスチックをリサイクルすること自体、意味がないという意見もある。経済学者の池田信夫氏が語る。

「'90年代には、プラスチックのリサイクルにも意味がありました。当時は焼却炉の性能が悪く、プラスチックを燃やすと焼却炉が傷んでしまったのです。ところが、現在は800度以上の高熱に耐える焼却炉が普通になり、ダイオキシンのような有害物質も発生しません。

現在、プラスチックごみの大半は『サーマルリサイクル』と称して、ごみ焼却の燃料として利用されています。逆にそれがないと助燃材として重油を投入しなければ燃えない。

いくらプラスチックごみの排出を減らしても、重油でごみを燃やしていれば環境対策として本末転倒です」(池田氏)

サミットへの「手土産」

自治体の中には、わざわざプラスチックごみを可燃ごみと分別して回収しても、焼却段階で一緒に燃やしてしまうところもある。まさに「見せかけ」の環境保護活動。手にした容器やスプーンをプラスチックか否か悩みながら分別するのが馬鹿らしくなる話である。

このように「環境問題」を旗印に行われる施策には、科学的見地から疑問を呈さざるを得ないものが多い。実際のところ小泉大臣や環境省の役人は、「本気でスプーンを有料化することで地球を救える」と考えているのだろうか。

「実は今回の法案には『温暖化防止』といったタテマエとは別の意味合いがあるのではないか」と、経済ジャーナリストの磯山友幸氏は見ている。

「これまで日本は大量のプラスチックごみを中国やインドネシアなどへ輸出してきました。ところが最近、国際的な基準が厳しくなり、ごみを輸出せず自前で処分しなければならなくなってきた。

処分費用は税金で賄うか、企業に負担させるしかない。レジ袋やスプーンを有料化することには、企業の側にごみ処理コスト回収の道筋をつけさせようという意味合いがあるのです」

有料化の本当の意図はさておき、スプーンの有料化くらいで問題が解決しないことは明らかだ。

菅義偉総理は4月下旬、米国が主催する気候変動サミットに新たに気候変動問題担当大臣に任命した小泉氏を同席させる予定だ。

「サミットの担当大臣にしてもらった進次郎氏はすっかり舞い上がり、『私のカウンターパートはケリー元国務長官だ』と浮かれています。スプーンやフォークの有料化も『脱炭素』をアピールするための手土産だと考えているようです」(全国紙政治部デスク)

大臣就任当時、「気候変動問題に取り組むことはクールでセクシー」と発言し物議を醸した小泉氏。会議にもマイスプーンを持参し、セクシーさを誇示するつもりだろうか。

『週刊現代』2021年4月3日号より

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