『ペーパー・ハウス』や『ダーク』だけじゃない!──台湾ドラマにノリウッド映画までNetflixの非英語圏の名作

『ペーパー・ハウス』や『ダーク』だけじゃない!──台湾ドラマにノリウッド映画までNetflixの非英語圏の名作

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2021/05/04
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月刊サイゾー3月号より一部転載

世界をひとつのマーケットとみなし、映像コンテンツを配信するNetflixのおかげで、我々はあまりスポットが当てられてこなかった国や地域の映画・ドラマを手軽に楽しめるようになり、優れた作品はこれまで以上に大きな注目を浴びるようになった。

例えば、日本でも社会現象になった韓国の『愛の不時着』のほか、スペインの『ペーパー・ハウス』は世界中でヒット。2019年にはドイツ発の『ダーク』が「Netflixで最も視聴された番組ランキング」の3位に食い込んでいる。

本稿ではNetflixで視聴することができる非英語圏の知られざる名作をピックアップ。今見るべき、少しマニアックな国の作品を紹介していきたい。

実はドラマ大国──トルコ発に注目

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「Netflixはこれまで既存のローカル作品の国際配信権を買い付けていましたが、近年は単に各国で人気作品を買い付けるのではなく、ローカルの有力プロダクションとタッグを組み、企画・制作からNetflixが携わるオリジナル作品が増えています」

そう語るのは『海外ドラマ10年史』(日経BP社)などの著作がある、ライターの今祥枝氏。

同氏は現在、Netflix内で存在感を増しているトルコに注目しているという。

「本国でも評判になった『エートス:イスタンブールの8人』は、トルコニューウェーブとでもいえるようなシネフィル感あふれるドラマです。トルコは昔からドラマ大国なのですが、広く一般ウケする地上波的な大衆性の強い作りから一歩進み、1シーズン8話という少ない話数で、これまで描かれなかった現代トルコを、正面から描き出す意気込みが伝わります。本作は保守的なイスラム教の古い慣習を守ってヒジャブをかぶっている女性や、グローバルな視点を持つ海外留学組の女性の重厚な人間ドラマです。構図やカメラアングルなど映像も凝っていて、そのクオリティも素晴らしく、本当に驚きました。10分見れば映画ファンにもヤバさがわかるドラマです」

トルコはドラマ大国の一方で、宗教のため規制が厳しい国でもある。Netflixの『イフ・オンリー』という作品も、登場人物のひとりが同性愛者という理由で、本国の検閲が入り制作中止になっている。

「『イフ・オンリー』の件があったにも関わらず、『恋の入門編』には表現の規制でかなり暗示的な形ですけど、明らかに同性愛者のキャラが出てきます。本作は爽やかな青春ドラマとサスペンスが入り混じった、古いしきたりの中でティーンエイジャーの悩みを描いた作品で、ロケーションもすごく素敵です。イスタンブールの港の風景も出てくるし、学生たちが屋台などで買い食いするシーンも多く、現地の生活や文化を垣間見る楽しさがあります。これこそが、異文化なのに普遍性を共有できる、非英語圏作品を見る一番の魅力ですね」

そんなトルコドラマ推しの今氏だが、同氏が昨年見たいわゆるNetflixオリジナル(以下、オリジナル)のドラマの中で、年間ベストに選んだのは、スウェーデンの『カリフェイト』だった。

「題材はISILと不法移民で重いんですが、スリリングだし、次が気になる連続ドラマの面白さもあります。また、移民問題はアメリカの専売特許ではなく、北欧でも非常に現代的な問題です。スウェーデンに移民した人たちの鬱屈とした現実、居場所のない若者という、普遍的ともいえるテーマを扱い、娯楽性も高いです」

また、同氏によると最近のスカンジナビアンドラマでは、フィンランドの『DEADWIND: 刑事ソフィア・カルピ』もオススメだという。

「シーズン1はフィンランドとドイツ、シーズン2はヘルシンキが関係する公共事業と、その汚職をめぐる社会派要素を盛り込んだ刑事ドラマです。EU圏では広がりのあるドラマを作りやすく、事件自体も鉄板で面白い。また、本作はフィンランドの女刑事ものというのもポイントです。とにかく寒そうなんですけど、北欧ドラマ特有の暗い陰気な感じの映像が不吉な雰囲気を盛り上げてくれます」

また、サスペンスドラマ、犯罪者モノで言えば、2022年にシーズン2の配信が開始される台湾の『次の被害者』も注目のタイトルだ。

「昨年配信された『次の被害者』のシーズン1も、非常に凝った社会派サスペンスミステリーです。一風変わった連続殺人事件を題材に社会問題を入れ込み、画づくりなどにも北欧ドラマの影響を感じます。序盤は中華圏の名前が頭に入ってきにくいんですが、展開がすごくて、慣れてくるとかなり楽しめる作品です」

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ここまでは、オリジナルのドラマを紹介してきたが、ここからはNetflixで配信されていないと、日本では視聴すら難しかった作品も紹介していきたい。

『ネットフリックス大解剖 Beyond Netflix』(DU BOOKS)の著者のひとりである、ライターの常川拓也氏は、19年1月にナイジェリア発の『LIONHEART/ライオンハート』がNetflixで配信が始まったことは「革命的だった」と振り返る。

「本作はノリウッドと言われる、ナイジェリアの映画産業を切り開いた一本です。ナイジェリアはイギリスの植民地だった影響で公用語が英語なのですが、本作は第92回アカデミー国際長編映画賞にエントリーし、一旦は承認されたものの『作中の言語が英語だから』という理由で、取り消されたので、当時結構な問題にもなりました。それにしても、日本のお茶の間で普通にナイジェリアの映画が見られるというのは、やはりNetflixの画期的なところですね。この作品以降、Netflixではさまざまなアフリカ映画が配信されるようになり、非英語圏発の作品が増えてきたなと思います」

本作が失格となったことで、「外国語賞とは一体何なのか」と物議を醸したが、その一方でNetflixでは、同じ第92回アカデミー国際長編映画賞でノミネートまで進んだ、現在公開中のポーランド映画『聖なる犯罪者』の、ヤン・コマサ監督による『ヘイター』を視聴することもできる。

「日本だと『聖なる犯罪者』の公開前に『ヘイター』が配信されたので、順番が変わっていますが、『ヘイター』と『聖なる犯罪者』は主人公の名前が同じで、かなり対比的に描かれています。前者は大学卒業後、PR会社に入社した青年が口コミで市長候補の評判を落とす仕事に関わり、SNSでフェイクニュースをバラ撒いてヘイトを煽って、罪のない人の人生を破壊していくストーリーで、後者は少年院を抜け出した青年が、自らを神父だと偽って活動していく話です」

『ヘイター』の撮影終了から、3週間ほどたった19年1月13日。ポーランドでパベウ・アダモビッチという、リベラル派でグダニスクの市長が、右翼青年に刺殺される事件が発生。あまりに映画の内容と酷似した事件が発生したことも話題となった。

「『ヘイター』は一見善良そうな青年が、SNSをフェイクニュースで炎上させてコミュニティを崩壊させていく一方で、『聖なる犯罪者』は前科者の“悪人”が神父として街の人たちに良いことを説き、その街を良くしようとするんです。なれば、前者は詐欺師が政治を操り、後者は詐欺師が宗教を操るという構図で、2本を見比べてみるのも面白いです」

また、宗教というテーマでは、アメリカとドイツの共同制作で、エミー賞にノミネートされた『アンオーソドックス』も見逃せない作品だ。

「厳しい戒律を遵守するユダヤ教超正統派の女性を主人公に、強制結婚や妊娠圧力をめぐる自己決定権などがテーマになっています。世界的にリプロダクティブ・ヘルス【編注:性と生殖に関する健康と権利】を扱う作品は増えていますが、旧態依然とした慣習が現代で普通に維持されていることへの驚きもあるし、内部の人たちが感じている違和感を表現している点でもタイムリーかつ重要な作品です。また、これは海外の作品全般でいえることですが、例えば『ジョジョ・ラビット』や『チェルノブイリ』は、それぞれドイツとロシアが舞台なのに、役者がみんな英語をしゃべっていることに違和感があったのですが、本作は全編イディッシュ語が話されているのも、評価するべき点ですね」

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近年のオリジナル作品では、アリアナ・グランデやレディー・ガガ、ビヨンセなどのライブドキュメンタリーの人気も高い。昨年12月に配信された『エミシーダ:アマレーロ – 過ぎゆく時の中で』もそのひとつだ。

本作はブラジルの人気ヒップホップアーティスト・エミシーダのアルバム『AmarElo』を引っさげてのライブを追いかけたドキュメンタリーだ。ライター・編集者の今野芙実氏は、本作について次のように語る。

「この作品ではライブ映像を通して、過去・現在・未来という、広いスコープでアフロブラジル文化史が語られます。ブラジルというと貧富の差が激しくて、混沌としたファベーラのようなイメージが先行しがちですが、本作はハードな一面だけではないブラジルの多層性に触れられる作品ですね。ドキュメンタリーの面白さと、音楽映画の面白さがあり、アニメーションを交えた語り口も楽しめます。怒りのエネルギーだけではなく、慈愛と先人たちへの敬意に満ちた形で歴史を紡ぎ、その語りの中からブラジルの現在を浮かび上がらせている。人種をはじめ、さまざまな社会的なイシューを扱い、最後の落としどころも2020年ならではです。このタイミングでオススメしたい一本です」

前出の今氏と同様、今野氏もトルコ映画には注目をしているようで、山間のクルド人集落を舞台にした映画『酸っぱいリンゴの木の下で』を挙げる。

「同国の厳格な家父長制など、つらい描写も多い作品ですが、主人公の女の子たちが妙に朗らかなんですよね。単に伝統的な価値観に置かれた、かわいそうな女性ではなく、広大な自然と豊かな土地の中での楽しい日常や純愛、新しい時代の空気をつかもうとする姿が、ユーモアとペーソスを交えて描かれています。立派なリンゴの果樹園と主役の3人の美しい娘を持つ強権的な父親も、古い時代の男性の典型ではあるのですが、決して単純な悪役ではありません。現代の語り部が70年代から90年代と、時代の移り変わりを振り返る構造で、どんな時代や環境の中でも、しぶとく生きていく人たちの人生を肯定してくれるような映画です」

ここまで見てきたように、Netflixにある名作と呼ばれる作品には、社会問題や伝統とのしがらみを扱ったものが多い。しかし、「ただただ楽しいだけの作品も見たい」ということもあるだろう。ということで、最後に今野氏は、スペインの人気監督のひとり、オリオル・パウロ監督の『嵐の中で』を紹介してくれた。

「日本でも『インビジブル・ゲスト』や『ロスト・ボディ』が公開されたパウロ監督は“スペインの2時間ミステリー職人”みたいな人です。全体的に大仰というか、割と通俗的な監督なんですけど、それ故の面白さを存分に堪能できる作品を連発しています。『そんな、無茶な……』みたいな要素も盛り込みつつ、しっかり盛り上げてくれるサスペンス作りに好感が持てます。パウロ監督は、ちょうどいい塩梅のサスペンスのテイストを感じられるような内容が多いんです。シンディ・ローパーの『タイム・アフター・タイム』をモチーフにした変則タイムトラベルものの本作も、“御近所さんSF”のようなテイストとやや強引な盛り上げ術の掛け合わせが楽しい一作。グイグイ持っていってくれる展開と、パワフルな語り口のパウロ監督ですが、意外と生真面目に伏線回収してくれる安心感もある。本作も『どう落とすのか?』と思いながら見ていましたが、ちゃんと落としてくれました(笑)」

このように、あらゆる地域、さまざまな言語の映画やドラマ、ドキュメンタリーがNetflixだと視聴することができる。現在、鹿児島県在住の今野氏は最後にNetflixの恩恵を、次のように語る。

「ミニシアターが少ない地方在住でも、世界各国の映画や、公開規模が小さい映画を見られるようになったのはNetflixの良い点ですよね。非英語圏の作品は一部の国などを除けば、岩波ホールなど特定の劇場の特集上映や映画祭でかかるくらいで、これまで国内で見られる機会は、多くありませんでしたから。人はどうしても、限られた情報やなんとなくのイメージに基づいた偏見を抱きやすいものだと思います。でも、ひとつの国の中でも性別や人種、世代によって立場が違うこと、立場によって見えている景色が違うことを、多彩なNetflix作品を通じて知るだけでも少し変わってくるはず。意外な共通点や相違点も含め、作品を通して全く知らない国やカルチャーに触れることは先入観から解き放たれる第一歩になりますし、自分自身の思考もより自由になれるような気がします」

いろんな国のハイクオリティな作品が並ぶNetflix。一度、なじみのない国の作品を見てみるのは、いかがだろう。

(文/伊藤綾)

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