『硝子の塔の殺人』知念実季人
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雪深き森で、燦然と輝く、硝子の塔。地上11階、地下1階、唯一無二の美しく巨大な尖塔だ。ミステリを愛する大富豪の呼びかけで、刑事、霊能力者、小説家、料理人など、一癖も二癖もあるゲストたちが招かれた。この館で次々と惨劇が起こる。館の主人が毒殺され、ダイニングでは火事が起き血塗れの遺体が。さらに、血文字で記された十三年前の事件……。謎を追うのは名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬。散りばめられた伏線、読者への挑戦状、圧倒的リーダビリティ、そして、驚愕のラスト。著者初の本格ミステリ長編、大本命!
実はミステリ小説に少し苦手意識があった。登場人物が多かったり、ストーリー展開が難解だと、ちょ、ちょっと待ってとなってしまうからだ。特にAudible読書だと、一瞬ほかのことでも考えようものならすぐに話についていけなくなるからだ。けれども、こちらの本はそんな私にミステリの面白さを存分に教えてくれた。
登場人物たちと一緒にガラスの塔のらせん階段を上ったり下りたり、長い廊下を移動したり、ダイニングやキッチンなどで人々との会話に推理を重ねることに心が躍った。一つ一つの小物がこれは何に繋がるのだろうと考えながら読み進めるのが楽しくて仕方がなかった。
最後のそうきたか!が始まってからは、頭のいい人の話の組み立て方にただただ脱帽していた。医師でもあり、小説家でもあるこの作者のトリックの明かし方にも、うなってしまった。一文一文が簡潔で美しく、自分の中にスパンスパンと入ってくるのが、爽快で気持ちよかった。
一瞬たりとも退屈する瞬間のない、ストーリー展開だった。ラストは、この人が汚れ役になっていなければいいなと思っていたことが望み通りになって
満足バロメーターがぐぐっと上がった。
『エゴイスト』高山真
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14歳で母を亡くした浩輔は、同性愛者である自分を押し殺し過ごした思春期を経て、東京で暮らしていた。ある日、癌の母と暮らすトレーナーの龍太と出会う。そんな浩輔を待ち受けていた、残酷な運命とは…。
勤務している日本語学校で前の学期に受け持った学生が紹介してくれたのが、この小説を基に作られた映画だった。映画の予告動画を見ただけでは、どのようなストーリーなのか全く分からなかったが、Audibleを聴き終えて、なぜもっと早く聴かなかったのか、後悔している。彼と別のクラスになる前に感想を語りあえばよかった。
たまたま浩輔が同性愛者だったというだけで、それのなにが問題なのだ。なにも問題ではなく、浩輔の人を想う気持ちがまっすぐできれいだと感じた。同性だろうと異性だろうとこんなに愛する人に出会うことができ、エゴなのかもしれないが、自分の気持ちを受け取ってくれる人がいることの幸せについて考えずにはいられなかった。
『エミリの小さな包丁』森沢明夫
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恋人に振られ、職業もお金も居場所もすべてを失ったエミリに救いの手をさしのべてくれたのは、10年以上連絡を取っていなかった母方の祖父だった。人間の限りない温かさと心の再生を描いた、癒しの物語。
美しいブルートパーズ色の海と風鈴の音色、おじいちゃんが作る珠玉の料理たちが傷つき疲れたエミリの心を癒していく。読み終わる頃には、包丁を研いでから魚料理を丁寧に作りたくなるか、釣りをしたくなる。ビーチサンダルをぺたぺた鳴らして、海を渡ってくる風にあたりながら散歩したり、何か心を浄化するために五感をつかいたくなる。時間がゆっくり流れたような気持ちになった。
今、聴いているのは『さくら』西加奈子。前半は声を上げて笑ってしまうような面白可笑しい場面が多かったけれども、後半は少し悲しくなってきた。このあと、どのように展開していくのだろう。楽しみ。
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。
また次の記事でお会いしましょう。
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日本語教師歴10年以上宅録ナレーターの優谷美和(ゆうたにみわ)と申します。非常勤で週16コマの授業と並行して声の仕事に奮闘中です。
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ia19200102(https://note.com/ia19200102)
優谷美和