「なんで検察官の方を向くんだ!」威圧に号泣 河井克行・案里被告の裁判は“無法地帯”

「なんで検察官の方を向くんだ!」威圧に号泣 河井克行・案里被告の裁判は“無法地帯”

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/10/16

「なんで検察官の方を向くんだ!」

【画像】電話をしながら記者の間をすり抜ける案里被告

9月4日、東京地裁の法廷に男性の野太い大きな声が響いた。声の主は菅義偉首相が重用していたことでも知られる元法相・河井克行被告(57)だ。法廷には不似合いな威圧するような発言を裁判官にたしなめられ黙ったが、克行被告は不服そうな顔をして睨みをきかせ続けていた。

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元法相・河井克行被告 ©️AFLO

克行被告は、安倍晋三前首相の首相補佐官も務めるなど政権の中枢に食い込み、自身も昨年9月に法務大臣の座を射止めた。しかし、妻、案里被告(47)が初当選した同年7月の参院選で、地元広島県議や支援者ら総勢100人に計2900万円余りをばらまいたとして、公選法違反(買収)の罪で東京地検特捜部に起訴され、夫妻ともに政治生命は事実上絶たれた。

買収資金とは直接関わりはないが、自民党本部から参院選の時期に1億5000万円が夫妻側に振り込まれていたことも問題になった。克行被告が菅首相や安倍前首相にそれほど食い込んでいた証左だ。

現金買収は選挙違反の中でも罪が重い。克行被告は罰金刑以上の有罪が確定で、案里被告は自身が有罪になるか、連座制の対象となる克行被告らの結果次第で、失職することになる。配布したと検察が主張する金額からも、克行被告は罰金刑どころか実刑判決となる可能性が高い。

河井夫妻は法廷で何を語るのか——。

裁判の行方に注目が集まっていたが、河井夫妻の初公判が開かれるに至ったのは、7月8日の起訴から実に48日後の8月25日だった。公選法には、裁判が長引き選挙の効力が確定しない状況を少しでも短くするため、起訴から30日以内に初公判を開き、100日以内に判決を出す「百日裁判」の規定があり、夫妻にも適用された。これに沿うと、夫妻の裁判の判決は10月中旬が期限だったが、判決の言い渡しは来年になる見通しだ。

裁判引き伸ばしで夏のボーナスは640万円

被買収者が多数に及び、裁判の審理が大きく遅れていたということもあるが、克行被告が行った“裁判引き延ばし”が目的ともとれる行為も原因のひとつだ。

克行被告が先月、公判中に保釈が認められないことなどを理由に弁護人を解任したことが追い打ちをかけ、裁判の見通しはまったく立たない状況となった。裁判の引き延ばしのために刑事被告人が弁護人を解任するケースは、しばしば散見される“常套手段”なのだ。

裁判が引き延ばされることによって、克行被告が得たもののひとつは多額の議員報酬だ。

発端となったウグイス嬢に対する法定上限を超える違法報酬事件を、「週刊文春」(2019年11月7日号)が初めて報じたのが昨年10月末。そこからすでに1年近い時間が経過している。通常、国会議員の場合、警察が扱う選挙違反事件は投開票が終わるとすぐに捜査に着手し、違反が議員本人にも影響する場合などにはすぐにその当選を無効にされるケースもあるほどだが、今回は極めて異例だ。

夫妻にはこの間ずっと、それぞれ月130万円ほどの報酬と100万円の文書通信交通滞在費が支払われていたとみられる。コロナ禍で多くの国民が苦しむ中、6月には夫妻に夏のボーナス各640万円ほどが支給され、12月のボーナスも解散総選挙でも行われない限りは手にすることになるだろう。

法廷では大声で証人に圧力

そしてようやく行われた裁判も、法廷は“無法地帯”と化している。

そもそも克行被告は弁護人を突然解任したことで、審理を行えない状況を作り出していることに加え、冒頭にもあるように発言権のない状況で大声を発するなど、「パワハラ気質」だというその片鱗を法廷内でも見せている。

陣営に長く仕える案里被告の60代の女性秘書の証人尋問が行われた際、夫妻の弁護側からの「(あなた自身の)容疑は何だったのか」などといった検察の捜査についての質問に、答えに窮した女性秘書はしきりに、検察官の方向を向き「助け」を求めた。これに苛立った克行被告は大声で発言したのだ。理由はともあれ、法廷という神聖な場で、証人に圧力をかけることは決してあってはならない。一時とはいえ法務大臣を務めた人間とは思えぬ行為だ。

一方の案里被告は、初公判では眠ったように長い間目をつぶったり、少しおもしろいことがあると笑ったりと、他人の裁判を傍聴しているかのような様子だ。

10月13日の公判では号泣して裁判をストップさせるシーンもあった。この日の証人だった広島市議が克行被告に「過去に恫喝された」などと訴えたからだ。「主人のご無礼をお許し下さい」涙を流しながら頭を下げ、傍聴席は呆気にとられた。

証人たち、検察側も問題だらけ

しかしながら、この混沌とした公判では証人側にも問題が散見される。

前述の克行被告にどなられた女性秘書は、買収のための現金の一部を渡す役目も果たしており、やましい思いもあるのだろうか、チラチラと検察側に視線を向けていた。女性秘書は案里被告の公設秘書の肩書きを持っており、現在も税金から給与が支払われているとみられる。

現金を受け取った側の姿勢にも疑問が残る。ある重鎮の県議は、証人尋問で、現金を渡されたときに「違法なカネだと認識した」と証言した。しかしこの県議を含め被買収者は結局返金せず、飲食費に充てたと話しているケースもあるのだ。

過去の買収事件では受け取った側も罪を問われた例はいくらでもある。ベテランともあろう重鎮議員であれば、違法な金を受け取ることがどんなに危険か分かったはずだ。現金買収事件が発覚し辞職した議員・首長らもいるが、一方で辞職せずに今も現職を続けている議員も多くおり、不公平感が残る。

そして、この混乱を招いている原因は検察側にもある。

被買収者100人は未だに刑事処分の保留状態が続いている。いずれも不起訴(起訴猶予)処分が見込まれているというが、なぜその処分を行わないのか。配ったことを立証できるのであれば受け取ったことも立証できるはずで、捜査が終わっていないという言い訳は成り立たない。

「未処分」を、検察側に有利な証言をさせるための「人質」にしているのではないか、そんな疑念が湧いてくる。とすれば、証人の供述は信用できなくなってしまうため、この裁判は無意味なものになってしまう。また200万円もの大金を受け取った議員を不起訴処分として本当にいいのか、という問題もあるだろう。

こうして大規模買収事件の背後では今も税金が垂れ流されている。この公判は一体どこへ向かっていくのか。今後、難航しているという克行被告の新たな弁護人探しと、その行方が注目される。

(西川 義経/Webオリジナル(特集班))

西川 義経

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