未来の予測をアップデートして、世界観を更新する/太田垣康男インタビュー2

未来の予測をアップデートして、世界観を更新する/太田垣康男インタビュー2

  • ダ・ヴィンチニュース
  • 更新日:2020/11/22

『MOONLIGHT MILE』や『機動戦士ガンダム サンダーボルト』といった緻密なSF作品で知られるマンガ家・太田垣康男。彼は2018年に、腱鞘炎によりマンガ家人生の大きなターニングポイントを迎えた。その契機になった一作が『ディアーナ&アルテミス』(双葉社)。再起の一作にかけた想いを語ってくれた前回につづき、2回目では、SF描写、SFガジェットを通し、より作品のディテールに迫る。

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『ディアーナ&アルテミス』(双葉社)

――今作のヒロイン・ディアーナとアルテミスはアラサーの女性たちですね。

太田垣:本当はティーンエイジャーをヒロインにすると受けやすいんでしょうけど、私は個人的にあまりそういう年代にグッと来ないんですよね。自分にとっては20代真ん中ぐらいから30代が自分のストライクゾーン(笑)かもしれません。

――女性のコンビものと考えると、アニメ化もされた、高千穂遥さんのSF小説『ダーティペア』などを連想します。

太田垣:当然、意識していましたね。『ダーティペア』や『クラッシャージョウ』が好きだったので、そういった作品にリスペクトを捧げつつ、挑戦してみたいなという思いもありました。私は53歳になるんですが、10代の若いころに興味を持ったものとか、関心を持ったもの、好きだったものに自分の創作の原点があるんじゃないかと、以前から考えていたんです。20代くらいになってから好きになったものは、まわりからの圧力を受けて好きになったような気がするんです。何も知らない純粋だったときに、好きになったものに、自分の本質があるんじゃないかと。だから、創作するときは、なるべく昔を思い出して、好きだったものを掘り起こしていくことから始めるようにしているんです。

――太田垣先生のSF作品へのこだわりはご自身の10代のころに芽生えたものだったんですね。

太田垣:当時(80年代)はSFブームだったので、SF作品の新作が当たり前のように次々と出ていた時代だったんです。自分もSF作品の洗礼を受けて、多感な時期を過ごしました。ところが私が20代を迎えたころから、ファンタジー作品が多くなっていき、やがて「SFはタブー」とまでいわれる時代になってしまったんです。それがとても腹立たしくて、許せなかった。ハリウッドではSF大作が次々と作られているのに、日本のマンガ市場ではSFは敬遠されていた。

『MOONLIGHT MILE』の執筆を始めたころも、目立つSF作品は、幸村(誠)くんの『プラネテス』ぐらいしかなかった。しかも、すぐに『プラネテス』の連載が終わっちゃうし(笑)。当時、SF描いてる変わり者は俺だけじゃないか! という気分がありました。だからこそ、意地でも続けなくちゃいけないなという覚悟もあって。自分がSF作品を描き続けることで、いつかSFの潮流が戻ってくる時が来るだろうとずっと願っていました。

――『MOONLIGHT MILE』も執筆を開始して20年。状況は変わりましたか?

太田垣:ここ5~10年くらいでSF作品が多くなってきたという印象があります。宇宙を舞台にしていなくても、SFの要素が入っている作品が乱立していて、本当に嬉しいなと思っています。自分もその潮流にちゃんと乗れるようにしたいと思っています。

――「ディアーナ&アルテミス」にもたくさんのSF描写、SFガジェットが登場します。『MOONLIGHT MILE』と同じ世界観でありながら、テクノロジーのアップデートが行われていますね。たとえば、ディアーナとアルテミスのふたりは「Aボーン」と呼ばれる強化骨格を装備して、宇宙へと飛び出します。こういったSFガジェットは『MOONLIGHT MILE』では描かれていませんでした。

太田垣:『MOONLIGHT MILE』が中断して8年経つのですが、その間に現実の科学技術がどんどん進んでいるんですよね。「スペースX」のような宇宙輸送技術など、当時は想像していなかったテクノロジーが宇宙開発に使われるようになりました。執筆を中断している間に、近未来を描いていたはずの『MOONLIGHT MILE』が古くなっていくという怖れをずっと感じていたんです。たとえば、以前描いていたときは、宇宙生活には強化外骨格みたいなものが必要だろうと、(猿渡)歩くん(月で生まれたムーンチャイルドの少年/第2部の主人公)には身体に重りを付けて、動きを制御させていたんです。でも、それならば今回の「Aボーン」のように、身体を押さえつける骨格を身に着けて、動きを制御したほうが理にかなっているだろうなと。以前には描けなかったSF描写を、今回は盛り込んでみようと思ったんです。

――作品世界のSFガジェットを今の技術でアップデートしたんですね。

太田垣:あと、月面に民間の人間がたくさん行くと、商業主義が月の世界に持ち込まれていくだろうという予測もありました。『MOOLIGHT MILE』のときは月面開発の時代を描いていたので、合理的なものだけを描こうと思っていました。登場するSFガジェットのデザインコンセプトも、「無駄を全て省く」という考え方だったんです。でも、月面に民間人が入ってくる時代になると、きっと無駄なものがたくさん入ってくる。じゃあ、宇宙空間で一番無駄なものは何か、と考えたんです。それはきっと……「着ぐるみ」だろうと。「ゆるキャラ的なもの」が入ってきたら、月面に(消費)社会ができあがっていることでもあると思ったんです。それでディアーナとアルテミスたちは警察官に対する警戒心や恐怖心を市民が抱かないように「着ぐるみ」のようなスーツを着るんだろうなと連想していきました。

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(c)太田垣康男/双葉社

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(c)太田垣康男/双葉社

太田垣:『MOOLIGHT MILE』を執筆しているときから、未来予想を立てながら世界観を作っていたんです。宇宙開発はアメリカ一国のものにはならないだろう、ならばライバルはどの国か……。『MOOLIGHT MILE』では中国の宇宙進出を描いています。当時は、その予想に共感してくれる人はかなり少なかったんですが……。

――ディアーナとアルテミスが、カエル型の宇宙服を着ているのは、そういうバックグラウンドを表しているんですね。その未来予測のビジョンが、いかにもSFです。

――アメリカと中国の宇宙開発競争は、もはや現実のものになっています。『MOONLIGHT MILE』で中国の軍事的、宇宙開発的な脅威を描いたことは、まさに正解でしたね。

太田垣:僕が『MOONLIGHT MILE』の取材でアメリカに行ったとき、アメリカの空港にアジア人がたくさんいて、それがほとんど中国人だったんですね。その光景を見て、中国の国力は大きいぞと。きっと次は中国が来るんだなと肌で感じていました。

――その肌感覚が、未来を描くベースになっていたんですね。

取材・文=志田英邦

【インタビュー③は11月23日(月)公開予定】

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太田垣康男(おおたがき・やすお)

マンガ家。尾瀬あきら、山本おさむのアシスタントを経験。アフタヌーン四季賞でデビュー。『ミスターマガジン』にて新人賞受賞。アクション新人賞受賞。近未来の宇宙飛行士たちを描いた『MOONLIGHT MILE』、『機動戦士ガンダム』の世界を新たな切り口で描いた『機動戦士ガンダム サンダーボルト』などのヒット作を手掛ける。2018年末に腱鞘炎の悪化により作風を大きく変えた。

腱鞘炎という絶望を乗り越えた、太田垣康男がマンガ家生活30年目にたどり着いた“原点回帰”の一作/インタビュー①

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