福島県磐梯町のDXへの挑戦と実践

福島県磐梯町のDXへの挑戦と実践

  • JBpress
  • 更新日:2021/04/08
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※本コンテンツは、2021年2月26日に開催されたJBpress主催「公共DXフォーラム2021」の特別講演Ⅰ「自治体のデジタルトランスフォーメーション~人口3000人・福島県磐梯町のDXへの挑戦と実践~」の内容を採録したものです。

福島県磐梯町
CDO(最高デジタル責任者)
菅原 直敏氏

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人にやさしいデジタル技術で、誰一人取り残さないことが重要

DX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル変革)という言葉を耳にする機会が増えている。そしてDXに対する関心は、民間企業だけでなく自治体でも高まっている。

そうした中、神奈川県在住で民間企業を経営する菅原直敏氏は、福島県磐梯町のCDO(最高デジタル責任者)を務め、自治体の仕事とDXの双方に精通するエキスパートとして知られている。その菅原氏は自治体のDXについてこう指摘する。

「多くの人々の頭の中には、Society5.0、AI(人工知能)、スマートシティ、ブロックチェーンといった、いわゆるテクノロジー用語が入って負荷がかかっているのではないでしょうか」。

いわばテック起点になっているわけだが、DXに求められる思考方法は決してそれではないという。

「テック起点ではなく住民起点でDXを思考すべきです。そこで大事なのは、自治体の哲学、ビジョン、ミッションです。日本には約1700の自治体があり、それぞれの表現は異なると思いますが、住民本位であることは共通するはずです。どの自治体も、哲学、ビジョン、ミッションを実現する手段としてヒト・モノ・カネを使ってきました。しかし、人口が減少局面に入る中で、使えるヒト・モノ・カネがどんどん少なくなっています。そこで、この3つにプラスする要素としてデジタル技術『も』使えるということなのです」(菅原氏)

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DXの思考法

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菅原氏は、DXは何でもデジタルだけで行うことだと考える人がいるが、それは誤りだとし、大切なポイントを「まず、デジタル技術は『手段』であって、『目的』ではないことです」と話す。

「DXの実務の段階になると、『AIを使わなくては』、『RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を入れなくては』、『補助金が付くからとにかく使わなければ』、となりがち」(菅原氏)

さらに、自治体におけるDXについて民間企業との違いを次のように説明する。

「自治体のDXは『人に優しいデジタル技術で、誰一人取り残さない』こと、そして、『行政、地域、社会のあらゆる分野がデジタル技術によって再構築される』ことが大切です」

民間企業であれば、費用対効果を考慮して顧客の選別も行うだろうが、自治体ではそういうわけにはいかない。またDXについて、情報システム部門だけが関わるのではなく、全ての部署、職員がリテラシーを持つべきだと言う。

その上で菅原氏は、自治体におけるDXの定義について、「自治体と住民がデジタル技術を活用して、住民本位の行政、地域、社会を再構築するプロセス」であると強調する。

自治体でも取り組みがICT化でとどまってはいけない理由

菅原氏によれば自治体のDXにおいては、「DXのDよりもXの方が大事」だと言う。

「DXで実現することは主に3つです。1つ目は『課題解決』です。課題解決とはマイナスをゼロにするとことです。自治体関係者の方は課題解決が大好きです。しかし、これだけでは駄目なのです。なぜなら、マイナスをゼロにしても、ゼロ以上にはならないからです。

なので、2つ目の『価値創造』が大事になります。ゼロを1に、1を10に、10を100にする、これがDXの得意分野です。

3つ目は『共生社会(新しい世界観、脱常識)』です。私たちが寄って立つ社会の前提条件自体、行政なら行政の仕組みや在り方自体がデジタルによって再構築されます」

政府もDXの推進に力を入れている。経済産業省、総務省、農林水産省などの資料にもDXの用語が数多く登場する。与党の提言や「骨太の方針」にもDXが掲げられている。

「いずれもICT化(高度情報化)の推進とは表現していないことには注目すべきです。なぜならDXとICT化は大きく異なる概念だからです。ICT化の目的は、組織の効率化を主な目的として、業務を情報通信技術に代替することです。一方で、DXは、住民サービスの向上を主な目的として、デジタルを用いて新しい価値を生み出したり、仕組みを変えたりすることです」(菅原氏)

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ICT化とDXの違い

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DXもICT化もデジタル技術を使っているので混同しやすいが、目線は大きく異なる。

「デジタル化には『Digitization(情報のデータ化)』、『Digitalization(情報のICT化)』、『Digital Transformation(デジタルによる価値創造)』の3つの分類があります。大切なのは紙をデジタルに置き換えるだけでなく、新しい価値を生み出していくフェーズまで持っていくことです」(菅原氏)

ICT化のフェーズは業務の効率化や改善にすぎないが、DXは組織や人の仕組みを変えることになる。

「そういう点では、DXは経営そのものと言えます。情報システム部門だけではできません。海外では政府の中にCDOを置いている国も珍しくありませんが、これらの国では大臣など責任のある役職の人がCDOを務めています」(菅原氏)

実は磐梯町でもCDOおよびデジタル変革戦略室は副町長の直下に置かれ、複数の部署を横串にする形で運用されている。

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磐梯町組織図(令和2年1月1日現在)

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菅原氏はさらに、行政のDXを着実に実現するにはステップがあると話す。

「先ほど紹介した3つのフェーズ以前に、業務の可視化(BPR=ビジネスプロセスリエンジニアリング)を行うことが大切です。注目されているRPAについても、BPR、つまり業務の流れを分析し最適化することがある程度できた段階で導入しないと、むしろ非効率になります」

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デジタル化の前にBPR

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デジタル技術の一般化が自治体でもDXを可能にする

そもそもなぜ自治体においてDXの必要性が叫ばれるようになっているのか。

「3つの背景を挙げることができます。1つ目は『社会環境の変化』、2つ目は『住民ニーズの多様化』、そして3つ目は『デジタル技術の一般化』です」(菅原氏)

「社会環境の変化」「住民ニーズの多様化」について、平成の30年間、多くの自治体は少子高齢化や経済、社会保障などの課題に直面してきた。「しかし、それに対する対策は、補助金や借金への依存、公共施設の建設、商品券の配布、ゆるキャラ、コンサルタントへの丸投げによる問題先送りなどでした。令和になってむしろ状態は悪化しています」

そろそろアプローチを見直すべき時期になっていると語る菅原氏。そしてその変化を起こすために不可欠なのがデジタル技術だという。

「そこでポイントになってくるのが『デジタル技術の一般化』です。5年、10年ほど前にはスーパーコンピューターを利用するためには巨額の投資が必要でした。しかし今ではその計算能力が、スマートフォンやスマートウオッチなどで手軽に利用できるようになっています。なぜなら、これらのデバイスはインターネットでスーパーコンピューターとつながっているからです」

AIを活用した高精度の翻訳アプリなどが無料で利用できるのもそのためだ。

「『デジタル技術の一般化』により、利用費用の『劇的』減少、利用しやすさの『劇的』向上、選択肢の『劇的』増加が起こります。これを利用しない手はありません」

こうした提案を聞いた場合、自治体によっては議会などで「高齢者はインターネットが使えない」と反対意見が出るところもあるだろう。しかし菅原氏によれば「高齢者は日常的にLINEなどのSNSを使っています。60代の90%、70代の74%、80代でも半分以上の人がインターネットを使っています。使える人が多いことを前提に制度を設計し、使えない人をどう漏らさないようにするかという政策が大切です」という。

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高齢者がインターネットを使わない?

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土台作りをしっかりすることで職員・議員の総意で取り組めた

「バブルが弾ける前、世界の時価総額ランキング トップ10のうち7割は日本企業でした。しかし、今では50番手にトヨタ自動車がやっと入るくらいです。なぜそうなってしまうのでしょうか。それは、日本はバブル崩壊後、組織がシュリンクし、リストラをし、コストカットして、デジタル技術をICT化、つまり削ることにだけ使ってきたからです。その間に、米国のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)、あるいは中国のバイドゥやテンセントなどは企業価値を創造するDXのためにデジタル技術を使ってきました。今の日本企業はこれらの企業の下請けのような状況になっています」(菅原氏)

失われた30年ともいわれ、この間に大きく水をあけられることになったわけだが、さらに自治体でこのような格差が起きてもおかしくない。

「総理大臣が率先してデジタル化を推進すると言って、全国の自治体が取り組もうとしています。しかし、私が見たところ、9割ぐらいの自治体はICT化のことばかり考えています」

これら自治体の中には失敗を経験することでDXにシフトするところもあるだろうが、現状ではそこまで思考しているところはまだ少ない。そうした中、福島県磐梯町(佐藤淳一町長)は意欲的な取り組みを行っている。

磐梯町は喜多方市、会津若松市、猪苗代町などに隣接し、総人口は3400人あまり。2019年11月、地方自治体として初めてCDOを設置し注目された。

「CDO設置前の準備段階から、総合計画をはじめとする諸計画の改正、条例・要綱改正に基づくデジタル変革戦略室の設置およびデジタル変革戦略の策定など、土台作りに1年以上を費やしました。その成果として、職員・議員の総意によるデジタル変革の推進が可能になるとともに、町のミッション、ビジョンに基づくデジタル変革の取り組みが行われるようになりました」(菅原氏)

興味深いのは、デジタル変革戦略室の活動スタイルだ。

「完全ペーパーレス、完全クラウド、完全オンラインの完全デジタルネイティブ組織です。私は神奈川県在住で、民間企業の経営者をやりながら磐梯町のDXに携わっていますが、問題なく業務を執行できています」(菅原氏)

審議会などもオンラインで行い、運用費用の削減や職員の業務の効率化も図られている。

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地域のDX~オンライン審議会

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磐梯町の取り組みは、DXを実践している好例と言えるだろう。多くの自治体でも同町を参考に行動に移してほしいと菅原氏は力を込める。

「大切なのは、アナログとデジタルは手段の選択肢にすぎないということです。場面場面で使い分けをしながら一番いい形にしていくのがいいのです。そこで、町民本位の時代にマッチした対応しなければならない、つまり町民のためになるのであれば、そうしたデジタルツールを使っていくということもやぶさかではないという話です。繰り返しになりますが、デジタル技術は手段であって目的ではありません。それぞれの自治体で何をしたいのかが問われているということになるでしょう」

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行政のデジタル変革における「什の掟」(行動規範)

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