「天王洲で2000円ランチに舌鼓」人気No1企業JTBが凋落したコロナ以外の原因

「天王洲で2000円ランチに舌鼓」人気No1企業JTBが凋落したコロナ以外の原因

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2021/10/14

JTBがコロナ禍で苦境に立たされている。2021年3月期には過去最悪の最終赤字を計上、9月には東京都品川区の自社ビルを売却するに至った。金融アナリストの高橋克英さんは「JTBが業績悪化に陥った原因は、コロナ禍だけではない。それ以前から抱えていた問題がある」という――。

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写真=時事通信フォト旅行大手JTBのロゴマーク=2020年6月25日、東京都品川区の同社本社 - 写真=時事通信フォト

2021年卒の大学生就職人気はNo1

マイナビ・日経 2021年卒大学生就職企業人気ランキング」(有効回答3万630名)の文系総合で首位だったのがJTBグループだ。2位全日本空輸(ANA)、4位日本航空(JAL)に加え、11位エイチ・アイ・エス(H.I.S.)、18位近畿日本ツーリストと、その知名度とグローバルなイメージの良さもあり、旅行・航空業界の企業が上位を独占していた。

ところが、今年4月に発表された2022年卒版(有効回答4万1093名)では、東京海上日動火災保険がトップ、2位第一生命保険、3位味の素となり、コロナ禍により、旅行・航空業界の企業が軒並みランクを下げた。JTBグループは、前年度トップから35位にまで凋落。JALは45位、ANAは64位。H.I.S.と近畿日本ツーリストに至っては100位圏外となった。なお、JTBグループでは、障がい者を除き、2022年度新卒採用を中止している。

2021年卒の調査が行われたのは2019年12月~2020年3月、2022年卒の調査が行われたのは、2020年12月~2021年3月だ。コロナ禍が本格化する前と後で、大きな違いが出た。

売上高1兆円、従業員2万人の大企業

JTBの歴史は、「英米人たちに日本の真の実情(姿)を知ってもらうことを目的」(JTB公式サイトより)として、1912年に創設されたジャパン・ツーリスト・ビューローにまでさかのぼる。その後、社団法人、財団法人へと姿を変え、1963年に株式会社化し現在に至る。海外旅行ブームもあり、業績は拡大し、海外法人を含む子会社の設立やM&Aも積極的に行ったことで、グループの売上高1兆円従業員2万人を誇る名実ともに国内トップ企業となった。

お馴染みのパッケージツアー「ルックJTB」「エースJTB」「旅物語」に代表される旅行業のほか、「JTB時刻表」や旅行雑誌「るるぶ」などの出版業に加え、直近では、地域活性化事業、ふるさと納税事業、法人向けソリューション事業なども手がけている。世界的な旅行市場の拡大、東京オリンピック特需への期待もあり、JTBは業界盟主の座をさらに強固にするとの見方もあった。

1/4を人員削減、夏冬の賞与はゼロ

しかし、コロナ禍による旅行需要急減により、JTBは天国から地獄に突き落とされることになる。2021年3月期決算は、売上高が前年比71%減少の3721億円となり、最終赤字が1051億円と過去最悪となった。

このため、700人規模の追加リストラや今期夏冬の賞与ゼロなどを発表したことで、昨年11月の発表分と合わせた人員削減は、全体の1/4に当たる7200人規模にまで膨れ上がった。また、2022年3月末までに国内の約25%の115店を減らすとしている。

そして、2021年3月末に減資を実施。23億400万円の資本金を1億円に減資し、「中小企業」となる「禁じ手」まで使った。中小企業となることで外形標準課税の免除など税負担の軽減を図っている。

さらに、2021年9月末には、日本政策投資銀行とみずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行に対して優先株による第三者割当増資を実施し、300億円の資本増強を実施している。なお、これら銀行などからの長短借入金の合計は、前年度899億円増加の1076億円にまで膨れている(2021年3月末)。

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写真=iStock.com/y-studio※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

まさに、学生人気No1の名声と業界盟主のプライドを捨て去り、なりふり構わず、今そこにある危機に対処するため、人員と店舗のリストラ、減資、資本増強、借入増加とありとあらゆる止血策を繰り出している。それだけ急を要し深刻ということだ。

かつては天王洲で優雅なランチを楽しんでいた

そして、ついに今年9月には、東京都品川区の本社ビルと大阪市中央区のビルを売却するに至った。日本経済新聞(2021年9月28日)によると売却先は外資系ファンドだという。売却額は非公表ながら数百億円とみられる。本社ビルについては引き続き賃貸契約を結んだ上で利用するという。

JTBの本社がある天王洲アイルは、天王洲運河などに面したいわゆるウォーターフロント地区で、品川と羽田空港の中間地点にあり、東京モノレールやりんかい線の駅が通る。複数のオフィス商業複合ビル、商業店舗、飲食店、劇場、アートギャラリー、イベントスペースなどからなる再開発街区である。その一角にあるT.Y.HARBORは、醸造所を併設したブルワリーレストランで天王洲エリアのランドマークだ。約350席を有するダイニングは、クラフトビアバー、個室、2階席、そして運河を臨めるテラス席からなり、目の前に広がる運河には都内唯一の水上ラウンジが浮かぶ。平日ランチタイムには、2000円近いメニューもある“贅沢なランチ”にもかかわらず、JTBやJALなど近隣オフィスの社員でも埋まる優雅な場所だ。

JAL、シティバンクとの残念な共通点

なお、2010年に会社更生法適用を申請して一旦破綻したJALは、JTB本社ビルと道路を隔てて向かい合っているJALビルディングを野村不動産に売却し、「野村不動産天王洲ビル」と改称された後も引き続きテナントとして入居している。

また、2014年には、JTB本社ビルと連なり、天王洲シーフォートスクエアの一角にはシティバンクの日本拠点本部ビル、通称シティグループセンターがあった。シティバンクは2014年、日本事業の撤退・縮小に伴い、同ビルから撤退している。

そして2021年、同じく天王洲シーフォートスクエアの一角にある地上20階地下1階高さ101メートルのJTB本社ビルが、売却となった次第である。

天王洲アイルに本社を構えるJAL、シティバンク、そしてJTBの3社がそろって売却や撤退に追い込まれたのは偶然ではない。3社には共通項があるのだ。

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写真=iStock.com/Moarave※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moarave

それは、先ほど紹介したT.Y.HARBORなどにおける優雅なハーバーランチに象徴されている。どういうことだろうか。

3社に共通するのは、グローバルな仕事と優雅な職場というイメージとは裏腹に、その居心地のよさから、人件費など高コスト体質が仇となり、顧客ニーズや市場の変化についていけずに、破綻や撤退や売却に追い込まれたということだ。

「安定・高待遇・自由な職場」は存在しない

ベイサイドのオフィスで高い給料を得ながら、グローバルで華やかな仕事をし、ハーバーランチを優雅に楽しむ自由な職場、そして安定した雇用制度と、成長する企業業績。これらが共存して持続することはない。①安定かつ②好待遇で③自由な職場、というのはこの世には存在しないのだ。公務員のように雇用が安定していれば、民間企業より給与が低かったり、まさに官僚的だったりして自由度がないものだ。逆に、高給で自由度も高い外資系企業などには、頻繁にレイオフや転職があり、安定や長期雇用がないものだ。

安定し好待遇で自由な職場、仕事内容も満足な職場、というものはまずないはずなのに、それを一定期間実現していたのが、JALであり、JTBであった。それが大学生の就職人気の高さにも表れていたのだ。しかし、それは何かを犠牲にした幻想であり、決して長続きするものではなかった。

ベイサイドの立派なオフィス、一見世界をまたに掛けた仕事、業界比、高額な給与に福利厚生、潰れることもレイオフもない(幻想)、という社員にとって楽園のような環境下、このまま居座りたいと思う社員から改善や革新や収益は生まれない。レイオフはともかく、また、たまの優雅なハーバーランチはともかく、普段は、昼食時間を削ってでも、仕事をするといったある程度の社内競争や営業マインドがやはり勝ち残る企業には必要なのだろう。

「コスト意識」と「自己変革の意識」が足りない

安定し好待遇で自由な職場の獲得のために、犠牲にした何かとは何だろうか。それは①コスト意識と②自己変革の意識だ。

JTBは、売上高1兆円社員2万人の名門大企業ながら、非上場会社であることをいいことに、長年の蓄積による肥大化した本部組織と無数の子会社・関連会社を擁し、社員にも業績にも優しい経営、一等地の店舗と高コストの人材、公益機関のような振る舞いをしてきた。これによりコストを増大させてきたのが凋落の原因である。コロナ禍はきっかけにすぎないのだ。

JTBでは、店頭での対面販売を中心とした個人事業については、実は低迷が続いていた。店舗ゼロの米国エクスペディアや一休などネット専業会社やスマホサイトに市場を奪われ続けている。デジタル化の進展は、専門家でなくても、みえていた近未来像だ。

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写真=iStock.com/anyaberkut※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

法人事業は、足元では、国内外の出張の減少に加え、修学旅行を含む団体旅行の取り消しや大型イベントの中止・延期が相次ぎ、大幅に需要が減少している。テレワークの定着などもあり、コロナ後であっても、元のように回復するかは不透明だ。

一等地の店舗・高スペックな人員・子会社が重荷

店頭での対面販売重視でオンライン化が遅れ、主要ターミナル駅にある一等地の店舗と就職人気No1に惹かれて集まった高スペックな人材がいまや重荷になっているのは銀行と同じだ。店舗をゼロにし、人員を限りなく絞らない限り、オンライン専業会社にはコスト競争力で勝ち目はない。

国内34社、海外96社にも及ぶ無数のグループ企業の統廃合も不可避だ。JTBは自治体の観光課題解決などソリューションビジネスを事業の中核に育て、新たな観光資源の発掘や、ふるさと納税の商品開発、国際会議や見本市の誘致など「MICE」事業を強化するというが、こうした新規業務も収益の柱になるまでには時間が掛かり、有望な分野であればあるほど、当然他社との競争も激しくなる。

コロナ収斂によって旅行需要は回復するが、オンライン化はさらに進むことになるため、店舗・人員・子会社を多数抱えるJTBにとって、アフターコロナも前途多難だ。JTBは①コスト意識と②自己変革の意識を強く持ち、店舗をゼロにしてオンライン専業会社になるくらいの覚悟がない限り、このままでは2010年のJAL破綻の二の舞になる可能性もあろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』など。
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高橋 克英

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