『アンという名の少女』5話。消防士になったアン!原作にはない火事のシーンが訴えたこと

『アンという名の少女』5話。消防士になったアン!原作にはない火事のシーンが訴えたこと

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  • 更新日:2020/10/29
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Netflix配信中の『アンという名の少女』は、原作『赤毛のアン』に現代的解釈を大胆に加えた作品、NHKで先週放送された第5話「宝物は私の中に」(Netflix版4話)では、アンの友人ルビーに災厄が降りかかる。放送中にはツイッタートレンドに上がってくるほどの魅力を、ゲーム作家・米光一成が読み解く。

アンは学校に行ってない

NHK総合で10月18日(日)夜11時から第6話。「スペリング対決」「いちご水事件」「マシューはじめてのお買い物」と盛りだくさんの回だ。
さて、その前に第5話をおさらいしよう。

学校に行かなくなったアン。屋根の上でひとり、コーデリアの歌を歌う。ジョージー・パイに命じられて屋根の棟を歩いて落ちてしまうシーン(原作『赤毛のアン』23章)を連想してしまった。
その後、「パイの焼き加減を見るの忘れないで」とマリラから言いつけられたアンが呟いている歌は『マザーグース』。
北原白秋の訳では、こういう詩だ。

てんとうむし、てんとうむし、はよう家(うち)へかえれ、おまえの家(うち)ゃ火事だ。みんな子供がやけしんだ。むすめのアンヌがたったひとり、プッジングのなべの下につんぐりむんぐりもぐった。

『まざあ・ぐうす』北原白秋訳

家が火事になり、アンヌが鍋の下にもぐり込んで助かったという内容。
アンヌというのは、原文では、”And that’s little Anne”。アンだ。

マザーグースのこの歌が象徴するように展開していくのだ。

空想にふけったアンがパイを焦がして火事になりそうになっているのを見つけて、マリラはアンに学校へ行くように厳しく言い渡す。
アンは、居場所がないから行きたくないと泣きながら主張する。だが、マリラは聞く耳を持たない。
追い詰められたアンは、イマジナリーフレンドのケティ・モーリスと話し始める。

ケティ・モーリスは、原作では第8章に登場する。
〈ガラスにうつる自分を本棚の中に住んでいる女の子だという事にしていたの。ケイティ・モーリスといって、とても仲良しだったわ。何時間もおしゃべりしたのよ、特に日曜日に。〉(『赤毛のアン』第14章・松本侑子訳/文春文庫)と、つらい時期の慰めとして語られる。
そのケティ・モーリスを再び呼び起こさないと耐えられないほどアンは追い詰められてしまった。
第5話は、アンが「学ぶことによって自分の道を開く」ことの大切さに気づき、自ら学校に行こうと決意するまで(つまりケティとさよならするまで)を描いた。

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『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ 著、松本侑子 訳/文藝春秋。詳細な注釈がついた新訳版

モンゴメリとサスカチュワン

「思ったほど悪くなくて楽しかったわ」
翌日、帰ってきたアンの言葉に、マリラは安堵する(安堵した表情を見られないように背を向けるマリラ!)。
だが、視聴者は、アンがまたケティに話しかけるのを見て、察するのだ。
アンは学校に行ってない。
翌朝、「今日はサスカチュワン地区を勉強するの」と家にある本を開いて、アンは嘘をつく。

カナダ中西部のサスカチュワンは、『赤毛のアン』の著者モンゴメリが、少しの間だけ暮らした場所だ。
モンゴメリは、キャベンディッシュで祖父母に育てられた。
このキャベンディッシュが、『赤毛のアン』の舞台であるアヴォンリーのモデルである。
15歳になったモンゴメリは、再婚した父親の住むサスカチュワン州へ行くのだが、再婚した継母と折り合わず、1年ほどしか一緒に暮らせなかった。
その「サスカチュワン」だ。
ドラマ版、こういう小ネタもがんがん入れ込んでくる。

アンは、サスカチュワンに「行ってみたい」とマリラに語り学校へ向かう。と見せかけて、森の中の秘密基地(原作の「アイドルワイルド」か)に行っているのだった。
ちなみに、森の秘密基地で「先住民みたいに名前に意味を持たせるのも悪くないわね。わたしが先住民ならどんな名前かしら」とアンがひとりで空想しているのは、シーズン3につながる伏線だ。

女の子は良き妻になるように育てるべきだ

帰宅したアンは、テーブルの上を見て、気づく。
ダイアナとルビー・ギリスが届けてくれた教科書だ。嘘がばれてしまった。
牧師が呼ばれ、説教タイムに。
「君の考えはどうでもよろしい」
「無理に学校に行かせる必要はありません。うちにおいて家事を教え込むといいでしょう。結婚するまで」
「教育など受けさせなくてよいのです。女の子は良き妻になるように育てるべきだ」
という言葉に釈然としないアン。そしてマリラも。
牧師の言葉は、アンに向けたものだが、マリラに突き刺さる。
この誰かに向けた言葉が違う人に突き刺さるパターンが、第5話ではもう一度繰り返される(このあと、また出てきます)。

牧師の言葉で、マリラは考え込む。
マリラは、結婚していないが、兄のマシューとふたり暮らし。家事を一手に引き受けている。
アンの教科書を愛おしそうになでるマリラは、「教育が開く可能性」について思いを馳せていたのだろうか。
「わたしらしさなんてもうわからない」とリンド夫人に語り、「なんなりとわたしに言いつけてくださいな。料理でも掃除でも」とマシューに八つ当たりしてしまう。

アンは、「やりたいと思うことは何?」と、農園の手伝いとして雇われている少年ジェリーに問う。
ジェリーは、聞かれても、わからない。
アンには、ジェリーの境遇を想像する力はまだない。
ジェリーは、自分は学校に行きたくても行かせてもらえない気持ちを伝えようとする。働きたくて働いているわけじゃない。
「学校に行けるんなら行けばいいのに」と言うジェリー。
「今日は意外なことばかりだわ」と驚くアン。

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マシューの手伝いをするフランス人の少年ジェリー・ベイナード(原作ではジェリー・ブート)Netflixオリジナルシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

その夜。ギリスの家が火事になる。
孤児院で読むモノがなくて「消火の手引き」を読んでいたアンの活躍(学んだことが役立つ!)もあって、火は消える。
ジェリーが「消防士になれるんじゃない」とアンに囁いて笑う。いい子やー、ジェリー。

ルビー・ギリスが、アンの家に世話になることになり、アンとルビーが一緒のベットで寝る。
嫌がっていたルビーだが、打ち解け、仲良くなるふたり。

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左からダイアナ、アン、ルビー。Netflixオリジナルシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

あなたは道を選べる

アンとルビーがスコーンを焼いて、家を修復している「男共みんな」の現場に差し入れに行く。
ここで、再び「誰かに向けた言葉がほかの人に届く」パターンが繰り返されるのだ。
いじわるを言ってくる少年ビリーに、アンがまたかんしゃくを起こして、「あんたは悪態つくだけで働いてないじゃないの!」と叫ぶ。
これ、半分は、古い考え方を押しつけた牧師に対する言葉だろう。
「男共みんな」の現場でも、牧師さんはぶつぶつ言ってるだけのように描かれる。
帰り道、アンは「正直は最善の策だし、気分のいいものですね」と言う。牧師さんは(吹き替えではわかりにくいけど)「わわわわ」とおろおろする。

アンが、マリラのベッドルームにやってくる。
ふたりは語り合う。
「牧師さんの言うことは時代遅れだ」とマリラはアンに言う。
この直前に、マリラが読んでいた聖書は「詩編78 アサフのマスキールの歌」のページだった。
おそらく、読んでいた一節は、ここだ。
「しかし彼らはその口をもって神にへつらい、その舌をもって神に偽りを言った。」

Yet with their mouth they flatter’d him,and spake but feignedly;And they unto the God of truthwith their false tongues did lie.

「Psalm 78:3」(映像より引用)

マリラは、アンに言う。
「可能性を狭めないで。わたしには選択肢がなかったけど、あなたは道を選べる」
アンは、学校へ行くことを決意する。
アンは、ようやくケティにさよならを告げるのだ。
第5話、「教育が開く可能性」を軸にして、アン、マリラ、ジェリーそれぞれ違う立場で考え悩む姿を描いた緻密な構成の回だった。

理不尽を許さない少女、アン。Netflixオリジナルシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

余談。
物語クラブも結成された。アンの筆名は「ロザモンド・モンモランシー」。アンは「モンモランシー」の言葉の響きが好きらしく、原作では、筆名でも、創作した物語の登場人物の名にも「モンモランシー」を使っている。

『アンという名の少女』

原題:Anne with an “E”
制作:2017年 カナダ
原作:L・M・モンゴメリ
製作総指揮:モイラ・ウォリー=ベケット

キャスト
アン・シャーリー(エイミーベス・マクナルティ)(上田真紗子)
マリラ・カスバート(ジェラルディン・ジェームズ)(一柳みる)
マシュー・カスバート(R・H・トムソン)(浦山迅)
ダイアナ・バリー(ダリラ・ベラ)(米倉希代子)
ギルバート・ブライス(ルーカス・ジェイド・ズマン)(金本涼輔)
レイチェル・リンド(コリーン・コスロ)(堀越真己)
ジェリー・ベイナード(エイメリック・ジェット・モンタズ)(霧生晃司)

Netflixシーズン1から3まで配信中
NHK総合で日曜の午後11:00から全8回

不朽の名作をドラマ化『アンという名の少女』予告編

米光一成

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