危機から生まれたVR音楽  大所帯バンドの新しいエンタメ表現

危機から生まれたVR音楽 大所帯バンドの新しいエンタメ表現

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2022/11/26
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コロナ禍のショックから少しずつ原状復帰に向かっているライブエンターテイメント業界。しかし、この2年半で歴史あるライブハウスなどの多くの音楽の表現の場が失われ、数えきれないほどのアーティストやバンドがそのキャリアを終了させてしまった現実は、忘れることができない。

解散の危機、メンバーに投げかけた「問い」
状況がひときわ混乱していた2020年当時は、オーケストラや大所帯のバンドなど、人数が多く飛沫対策の取りにくい管楽器隊を擁するグループなどは特に制約が多く、先行きが全く見えなくなってしまっていた。

2009年の結成から東京のライブハウスを中心に活動してきたバンド「オワリズム弁慶」も、コロナ禍でライブが無くなり、40人近いメンバーを抱える大所帯ゆえにスタジオ練習に入ることすらできなくなった。さらには、リーダー格のメンバー二人が活動に参加できなくなる事態に。ロックからダンスビートを持ち味とした迫力あるステージが醍醐味のバンドだが、新作アルバムのために組んだプロモーションも全てキャンセルになった。

今後の活動をどうしていくか、残されたメンバーたちは話し合いを繰り返したが......

「新曲やコロナ禍でもできる活動のアイデアを持ち寄ったりもしたのですが、まとめ役を失った状態では物事が次に進む気配がなく、コロナ禍での制限もありなかなか話は進まず、最悪の雰囲気でした。このまま解散するのだろうと、自分含めみんなが思っていました」

バンドでギタリスト兼美術装飾を担当する小澤ヒデキさんは、バンドの活動が一切白紙になった当時をそう振り返る。10年以上続いてきたバンドの歴史がこのままフェードアウトしてしまうのか。

なんとか再起させたいという思いを持つメンバーたちが行ったのが、バンドの特徴や魅力を客観視してリストアップしていく自己分析。メンバー全員に「このバンドの良さとは?」という質問を投げかけ、回答を集めた。

そこで見えてきたのは、

・大所帯ならではの迫力のあるパフォーマンス
・空間全体を使った演出

といった要素だった。

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コロナ以前の ライブハウスでの演奏の様子

VRこそパフォーマンスの迫力を再現できる
「ライブハウスという空間が”密”になることで生みだされるグルーヴがこのバンドの本質」であると再認識したことで、小澤さんのなかで「VRで表現する」というアイデアがひらめいた。

VRであれば、空間演出の妙を最大限に観客に届けることができ、ミュージックビデオやライブ配信では伝わらないパフォーマンスの迫力をリアルとは違ったかたちで再現できる。

ただ、ミュージックビデオの制作に比べて、VRは技術面はもとより予算と時間の面でも大きな負担が強いられる。元々は映像美術として映像制作に関わり、現在も空間デザイナーとしても活躍する小澤さんは、メンバーへVR企画についてプレゼンテーションし、製作の指揮と監督を買って出た。

「空中分解しかけていたバンドが、VRという新しい試みを目標に持つことで、なんだかよく分らないけど面白そう、やってみようか、というモチベーションでようやく持ち直したんです」(小澤)

そうして、一年半に及ぶ製作がスタートした。クラウドファンディングでは120万円が集まり、サポートしてくれるスポンサー企業も見つかった。

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新表現求めるプロのクリエイターが集結
さらに、映像制作には、ファッションブランドのBOTTEGA VENETAとのコラボレーションでも知られるクリエイティブディレクターの奥山太貴や、サンリオピューロランドのVR企画なども手がけるXRクリエイターの三日坊主らという心強い面々の協力が決まった。

資金面、技術面でサポートを申し出た彼らは、必ずしもバンドと旧知の仲であった人々ばかりではない。音楽に限らずあらゆる表現の場がコロナ禍で停滞してしまっているなかで、前向きな挑戦に乗り出したバンドの姿勢が共感を呼び起こした。今回のプロジェクトで初めてバンドと関わった奥山さんは、依頼を受けた心境を次のように語る。

「僕自身、これまで音楽やライブハウスのシーンから刺激を受けてきたり、実際に活動をしている中で、コロナ禍以降の窮状は他人事ではありませんでした。仕事が減り困っていたところで相談をもらったので、正直不安もありました。

構想の段階から現実的にハードルがとても高いことはわかっていたのですが、しかしそれをインディペンデントレベルで実現していくことで、シーンのあり方や表現の可能性を拡張していけるのでは、という強い希望も同時に感じました。

なにより、閉鎖的な雰囲気の中で新しい表現に挑戦していく興奮が、僕を含めてみんなを動かしたんだと思います」(奥山太貴)

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撮影の様子

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イメージボード

制作は、4曲分の撮影と編集、さらに演奏の録音などを並行して行った。小澤さん含め、みな本業を抱えながらスケジュールの合間を縫って集まり、気の遠くなるような細かな作業をこなしていった。

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ライブハウスの3Dスキャン

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3DCGのモデリング

作品のコンセプトは「新時代への祝祭」。ライブハウスを舞台にした現実感のあるシチュエーションから始まり、寺の本堂を経由して徐々にサイバーパンクな世界観へとトリップしていく。VRならではの表現を追求する面白さを見出しつつ、演出の面では通常の撮影にはない苦労も多かった。

「カメラワークが激しくなると鑑賞者に「VR酔い」を引き起こす可能性があるため、演出に工夫が必要でした。またVRへの没入感を増すために、撮影は基本的に1カット。ショート動画の流行で、カット割が多く、カメラワークの動きも多い動画が多い中、ワンカットでも飽きない演出をいかに組むかが課題でした。特に実写パートは撮影後の編集が出来ないため、5.1CHサラウンド音響時のMIXを考慮した楽器の立ち位置や、照明・カメラとの入念な撮影検証を繰り返し行いました。メンバーの導線や振り付けは、『東京2020 パラリンピック』の閉会式にも出演したダンサー兼振付師で、バンドのメンバーでもある渡部加奈と打ち合わせを重ねて構築しました」(小澤)

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八方塞がりから生まれた表現の破壊力

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すべての工程が終わり完成したのは2022年11月。作品はHMD(Oculus quest2)を装着し、音響はライブハウスに5.1chのサラウンド環境を構築して上映する。4K画質の360°VR映像とライブハウスでしか味わえない轟音環境で、リアルのライブを超える新しい音楽・映像体験を目指す。

「コロナで八方塞がりになるなかで生まれた作品ですが、ミュージックビデオでもライブでもない、新しい作品リリースのかたちとしてシーンに一石を投じることになればいいなと今は思っています」(小澤)

かつてレコーディング機器の発達やエレキギター、リズムマシン、ラップトップなどが新たな音楽文化を生み、人種や国籍、イデオロギーの違いを超えて人々をグローバルに繋いだ様に、テクノロジーはそれ自体が新しいものだからこそ、壁を超えて文化を形成できる可能性がある。オワリズム弁慶の活動にも、そんな希望が感じられる。

上映会は11月25日〜27日の3日間、東京都豊島区の「大塚Hearts Next」で行われるので、興味のある方はぜひ体験してみてもらいたい。(詳細はこちら

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