岩合光昭の「世界ネコ歩き」映画第2弾 猫たちの家族愛に「僕が感動した場面は不思議と見てくださる方に伝わる」

岩合光昭の「世界ネコ歩き」映画第2弾 猫たちの家族愛に「僕が感動した場面は不思議と見てくださる方に伝わる」

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  • 更新日:2021/01/13
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岩合光昭(いわごう・みつあき)/1950年、東京生まれ。地球上のあらゆるフィールドで活躍する動物写真家。一方で、ライフワークとして猫を半世紀以上撮り続けている。2012年からNHK BSプレミアムの番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」の撮影を手がける(撮影/写真部・加藤夏子)

世界中を「ネコ目線」で撮り続けてきた動物写真家・岩合光昭さんによる人気の猫ドキュメンタリー番組の劇場版「世界ネコ歩き」第2弾が1月8日に公開されました。AERA 2021年1月18日号では、岩合さんが映画制作のエピソードを語ります。

【「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族」の場面写真はこちら】

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暗闇に浮かび上がる1匹の猫。その姿を覆うように漂う美しい白い靄は、カメラが引くと、牛の鼻息が生む湯気であることに気づく。そこで舞台は一転、きらめく川面へ。小さな船の舳先に座る4匹の猫たちと、水をかく櫂が映し出される。

そんな視覚に訴えかける映像から、映画「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族」は幕を開ける。監督・撮影は岩合光昭。日本屈指の動物写真家で、“ネコ写真家”としても知られる。

NHK BSプレミアムの人気番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」から生まれた劇場版第2作にあたる本作は、二つの舞台を行き来するように紡がれる。タイトルにもあるとおり、ミャンマー・インレー湖の「水」とともに暮らす猫の一家と、北海道の「大地」に生きる複数の猫の家族が織りなす社会のあたたかさ、厳しさを、「ネコ目線」で追う作品だ。岩合監督に話を聞いた。

■猫の家族と愛がテーマ

──ひとつの猫の家族を核に、世界各国の猫たちをオムニバスのように構成した2017年公開の第1作「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち」とは、かなり趣が異なるように感じました。

岩合光昭(以下、岩合):前作は、テレビ版をそのまま劇場版にしようということで、テレビ用に撮影した素材を番組ディレクターが再編集して、テレビと変わらない作りにしました。そのため映画関係者から「テレビ番組が映画館にかかったみたいだね」という厳しいご意見をちょうだいしてしまって。今回は、最初から映画を作ろうという意志のもとに撮影しました。

──北海道の牧場とミャンマーの湖とを舞台とする構想は、当初からあったのでしょうか。

岩合:ミャンマーには以前テレビ版のロケで訪れていて、猫の一家と人の一家がひとつの高床式の家で寄り添うように暮らしている姿が強く心に残っていました。今回、家族や愛をテーマに猫の映画を作ろうと考えたとき、あの一家が最もふさわしいなと思ったんです。

──まず家族と愛というテーマが頭にあったということですね。北海道の牧場を選んだ理由は?

岩合:日本全国で、猫の家族がいるところやメスが出産しそうなところを探してもらったんですが、ここだというところがなかなか見つからなかったんです。もう間に合わないと焦っていた19年の夏、たまたま雑誌の取材で訪れた北海道で、たくさん猫がいる牧場があると教えていただいて。行ってみたら、牛舎で何匹もの子猫たちが複数の母猫からおっぱいをもらっていた。共同保育をしていたんです。これは面白いな、ここだったらミャンマーとは違うかたちの猫の家族が撮れるんじゃないか、と思いました。あの牧場がなかったら、映画はできなかった。本当に運命的な出会いでしたね。

■猫が泳ぐというめずらしい場面も

──映画にはいくつも印象的な場面がありますが、そのひとつがミャンマーの猫たちが泳ぐシーンだと思います。一般的に、猫は水を嫌うと言われていますし、世界各国で猫を撮影されている岩合さんにとってさえも、泳ぐ姿はめずらしいとか。

岩合:うん、めずらしいですよ。ご主人に「よく泳ぐよ」と聞いて、絶対に映画に入れよう、と思いましたから。湖の上の家ですし、雨季になれば水かさが増して家の前の地面がなくなるので、猫にとって泳ぎは必要不可欠なんです。繁殖のためには、家に閉じこもっているわけにいきませんから。オスが泳いでメスに会いに行くんだそうです。

──母猫が泳ぎを教える場面もありましたが、あれは子猫にとって初めての挑戦ですか?

岩合:少なくとも僕らの前ではあのときがファーストトライでした。無事に泳げてほっとしましたね。その前に、シュエという名のメスの子猫が水に落ちて必死で泳ぐ場面がありますが、あれはまったくの初めてです。生後1カ月半くらいでしょうか。

──シュエが落下した瞬間、岩合さんの「あ、落ちた」という声が入っていました。ほかにも何カ所か、咄嗟に漏れ出た声のように感じられた場面がありましたが。

岩合:あれは現場音です。カメラに二つマイクがついていて、僕の声も同時に拾っているんですよ。僕は役者じゃないんで、ナレーションでは、とてもそんなうまく声はかけられない(笑)。ちなみに、この映画でいちばん僕の現場コメントが利いているねと言われるのが、「逃げた」という言葉です。ある予想外の出来事に遭遇したときに思わず口に出てしまったんですよ。どの場面か探してみてください。

■写真家ならではの編集や構成

──写真家ならではの編集がいくつも見受けられたのも印象的でした。例えば北海道で2匹のメスが激しく喧嘩する場面は複数枚の写真で構成されていましたが、あえての演出ですか。

岩合:正直に言っちゃっていいのかな?(笑)。じつはあれは写真しかないんです。あのとき、ムービーカメラの組み立てに時間がかかっていて、少しでも長く牧場にいたいと、先にスチールカメラだけ持って行ったら、あの喧嘩に遭遇したんですよ。ムービーをまわしていなかったからこそ撮れた写真ですね。

──写真家として、ムービーを撮っているときに、スチールで撮りたくなることは?

岩合:それはもちろんたくさんありますよ(笑)。でも、ああいうアクションが起きたときには、とても両方一緒には撮れない。ムービーだけになっちゃいますね。

──岩合さんがぜひ見てほしい、という場面を教えてください。

岩合:どこもおいしいですよ、って蕎麦屋みたいか(笑)。個人的には、ケガをして姿を見せなくなっていたヒメというメスが帰ってきた場面ですね。あのときは感動しました。写真でもテレビ番組でも同じなんですが、見てくださった方の反応がいいのは、ずばり、僕自身の心が動いたところなんです。カメラってすごく不思議だなって思うんですけど、僕が感動したことは見てくださる方に絶対に通じるんですよ。やっぱり、映像でも写真でも、何か自分の琴線に触れたことがなければ伝わらないんだ、と実感しますね。

登場する猫たちはみな愛くるしいが、それだけではない。「あるがまま」の姿をとらえた、動物写真家だからこその視点を楽しみたい。(編集部・伏見美雪)

※AERA 2021年1月18日号

伏見美雪

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