マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは11月19日、OpenAIのCEOを解任された共同創業者のサム・アルトマンと社長を辞任したグレッグ・ブロックマンの2人がマイクロソフトに加わると発表した。ナデラのすばやい決断は、マイクロソフトの人工知能(AI)分野におけるポジションをさらに強固にするものとして称賛された。
17日に、アルトマンの追放というOpenAIの取締役会の決定に不意を突かれたナデラは、週末に彼をCEOに復帰させるための取引を仲介したが、その試みは頓挫し、19日にアルトマンとブロックマンらをマイクロソフトに迎え入れると発表した。2人は、マイクロソフト社内のAIチームを率いるとされた。
この発表を受け、マイクロソフトの株価は20日の市場で2%急騰し、時価総額は2兆8100億ドル(約414兆円)に上昇した。
また、その同じ日に数百人のOpenAIの社員が同社の取締役会メンバーの辞任とアルトマンのCEO復帰を要求する中、ナデラはマイクロソフトがOpenAIとの関係を今後も維持すると宣言し、同時に新たな社員らを歓迎。「我々は、彼らの成功に必要なリソースを提供するために迅速に動くことを楽しみにしています」と彼はX(旧ツイッター)に投稿している。
社外の人々は、ナデラが実際の買収をともなわずに、テック業界で最も注目される買収の1つを成功させたと考えている。今から約20年前に司法省からのブラウザ問題に関する独禁法訴訟に直面したマイクロソフトが、OpenAIのリーダーを吸収したことは、画期的なことだ。
「マイクロソフトは、独禁法の問題を触れることなくOpenAIを手に入れた」とRBCのマイクロソフトのアナリストのリシ・ジャルリアはフォーブスに語った。
かつてテック業界で最も恐れられる存在であったマイクロソフトの革新的なイメージは、グーグルやフェイスブックのような彼らよりも若い業界の巨人の台頭の中で衰えていた。しかし、今回のナデラの動きは、そのマイクロソフトが近年どれほど躍進したかを浮き彫りにした。
ベンチマーク・キャピタルの投資家のビル・ガーリーは「今から10年前であれば、この国で最も賢いエンジニアたちによる『私のいうことを聞かなければマイクロソフトに転職するぞ』という脅し文句は、冗談にしか聞こえなかったはずだ」とXに投稿した。「今回の件は、企業評価の劇的な変化を示す事態であり、それはサティアの功績だ」と彼は付け加えた。
一方、アルトマン自身は20日、自身の将来に関する、やや相反する展望を述べた。OpenAIの元従業員に向けたと思われる彼のXへの投稿は「我々はみんな、何らかのかたちでいっしょに働くつもりだ」というものだった。その数分後に彼は、マイクロソフトのCEOに明確に同意し「サティアと私の最優先事項は、以前と変わらず、OpenAIの継続的な繁栄を確実にすることだ」と投稿した。アルトマンは、今後もOpenAIの顧客のための事業を継続することを誓い「OpenAIとマイクロソフトのパートナーシップが、これを可能にする」と付け加えた。
The Vergeの20日の記事によると、アルトマンの2つの投稿は、適切な条件が整えば、彼とブロックマンがOpenAIに復帰する意思を持つことを示唆しているという。そして、ナデラも20日の午後になって、2人の入社がまだ確定したものではないことを、CNBCのインタビューで認めた。
アルトマンとブロックマン、そして数百人のOpenAIの社員らが、本当にマイクロソフトに入社するのかを尋ねられたナデラは「それはOpenAIの取締役会と経営陣、そして従業員らが決めることだ」と回答した。さらに「私たちは、彼らがOpenAIに行かないのであれば、うちにきてほしい」とナデラは付け加えた。
AI分野におけるマイクロソフトの驚くべき台頭
近年のマイクロソフトのAI分野における台頭は、業界の多くの人にとって意外なものと受け止められてきた。マイクロソフトの長年の幹部で、クラウド企業スノーフレークのCEOを務めたボブ・ムグリアは、フォーブスの取材に「私は、2年前にはこの会社がAIのリーダーになるとは信じていなかったし、私の知る限り、ほとんどの人がそうだった」と述べている。
AI分野のリーダーとしてのナデラの地位は、彼がマイクロソフトの記録的な成長を指揮した10年近くを総括するもので、その大部分は、クラウドコンピューティング部門のAzureの成功によるものだ。1992年にマイクロソフトに入社したナデラは、長年にわたり同社で経験を積み、2014年にスティーブ・バルマーの後を継いでCEOに就任した。
しかし、その後もマイクロソフトは、AI分野におけるで競争でグーグルに先を越されていた。グーグルは、ChatGPTの基盤となった言語モデルのトランスフォーマーを開発し、戦略的ゲームである囲碁で人間を打ち負かすAIマシンを構築していた。
しかし、マイクロソフトは早くからOpenAIに賭けており、2016年にOpenAIは、マイクロソフトのAzureを主要なクラウドパートナーに採用した。そして、両者の距離が縮まるにつれて、Azure上に構築されたAI技術やGithubとの協業など、より多くのコラボレーションが生まれていった。そしてOpenAIは、大規模言語モデル(LLM)のGPT3や、AI写真ジェネレーターのDALL-Eなどの画期的なプロダクトを発表した。
その過程でマイクロソフトは、OpenAIに30億ドルの投資を行った。ナデラは2019年にOpenAIと新たな提携を結んだ際に「私をわくわくさせるのは、2つの組織が持っているチャンスだ」と述べていた。
その後、グーグルとアマゾンがOpenAIの元メンバーが設立した企業のAnthropic(アンソロピック)を支援した一方で、ナデラは、OpenAIとの関係を深め、2023年1月には数十億ドルを追加で投資した。そして、その年の秋にリリースされたのが、テック界が久しぶりに目にした最も示唆に富むプロダクトであるChatGPTだった。
AI分野のリーダーとしてのナデラの将来は、今後もアルトマンと密接に結びついているように見える。今月初め、ナデラはOpenAIの初の開発者会議にサプライズで登場し「私たちの一番重要な仕事は、みなさんが最高のプロダクトを世に送り出すための基盤を構築することです」と世界のAI研究者らに語りかけた。
アルトマンはナデラの発言に同調し「私たちはテクノロジー分野で最高のパートナーシップを築いています」と述べていた。