カリフォルニア大学入試で「ペーパーテスト」廃止へ 揺れるアメリカの受験制度

カリフォルニア大学入試で「ペーパーテスト」廃止へ 揺れるアメリカの受験制度

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/09/16
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アメリカのカリフォルニア州アラメダ郡高等裁判所は、8月31日、バークレー校やロサンゼルス校など10のキャンパスで計30万人の学生を抱えるカリフォルニア大学に対して、「SAT」や「ACT」と呼ばれる全米共通のペーパーテストのスコアを、入学や経済援助の決定をする際に考慮することを禁止する仮差止命令を出した。

「SAT」や「ACT」とは、大学進学希望者の学力を判定する全米共通テストで、それぞれ民間の非営利機関であるCollege BoardとACT Inc.によって運営されている。

アメリカの多くの大学が出願時にこれらの共通テストの提出を義務づけており、College Boardによれば、2018年には「SAT」を約210万人以上が受験している。

なぜ、いまアメリカでは、全米共通のペーパーテストの廃止が議論されているのだろうか。

富裕層に有利なテストのあり方に批判

一般的にアメリカの大学入試では、高校のGPA (Grade Point Average、成績指標値)、本人のエッセイ、推薦状に加えて、「SAT」などのペーパーテストのスコア提出が求められており、これらが総合的に評価されて合否の判定がなされる。

「SAT」の場合は、英語力をみる「Evidence-Based Reading and Writing」と数学の力をみる「Math」の2つのセクションから、合計1600点満点で構成されている。任意で追加の「エッセイ」を受験することもできるが、基本的にはマークシート式のテストだ。

このようなペーパーテストは、一見すると公平で客観的な制度のようにも思われるが、「SAT」や「ACT」は有料でかつ繰り返し受験できるため、テスト対策にお金をかけられる富裕層に有利に働き、テストを十分に受けることができない貧困層や障がい者にとっては不公平であるとの批判が以前から強まっていた。

低所得の家庭の学生と比較した場合、裕福な家庭の学生は「SAT」と「ACT」で高いスコアを出すことはいくつかの調査によって指摘されている。

例えば、教育系メディアのInside Higher Edによる2015年の分析「SAT scores drop and racial gaps remain large 」では、「SAT」の各パートの平均スコアが最も低かったのは、世帯年収が2万ドル未満の学生たちであり、最高得点は、世帯年収が20万ドル以上ある学生たちのものだったと明らかにしている。

今回、仮差止命令が出されたカリフォルニア大学は、2019年12月に、共通テストのスコアを入試で考慮することは、人種や家族の収入、あるいは障がいなどの理由で志願者を違法に差別する結果となり、カリフォルニア州法で保障されている学生の権利を否定するとの趣旨で、訴訟を起こされていた。

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College Boardによれば2018年には「SAT」を210万人以上が受験している(Shutterstock)

アメリカでは、経済格差の問題は、人種問題にも密接に結びついており、今回の原告団のうちには、黒人やヒスパニック系の学生が多い「コンプトン統一学区」も含まれている。

「SAT」を運営するCollege Boardの報告「SAT Suite of Assessments Annual Report California」によれば、2018年に高校を卒業してテストを受けたカリフォルニア州の生徒約26万人のうち、白人の生徒の44%、アジア系アメリカ人の生徒の53%が1600点満点のうち1200点以上のスコアを獲得したのに対して、アフリカ系アメリカ人の生徒のうち10%、ラテン系の生徒のうち12%しか、このレベルのスコアに達しなかったとされている。

テスト結果の提出「任意」も禁止のワケ

実は、カリフォルニア大学は2020年の5月に、入学試験における「SAT」や「ACT」のスコア提出を段階的に廃止することを決定していたが、2022年秋までの対応はキャンパスによって差があった。

バークレー校、アーバイン校、サンタクルーズ校の3つのキャンパスでは、スコア提出を一切受け付けない決定を下していたが、デービス校、ロサンゼルス校、マーセド校、リバーサイド校、サンディエゴ校、サンタバーバラ校では、学生のスコア提出は「任意(optional)」となっていた。

今回の判決で、カリフォルニア州アラメダ郡高等裁判所は「SAT」や「ACT」のスコアを考慮することを禁止する仮差止命令を出しているが、ここにはもちろんスコア提出を「任意」とする場合も含まれている。

なぜ「任意」であっても問題が残るのであろうか。

「任意」という形で試験が行われる場合、カリフォルニア大学は、第1次審査を共通テストのスコア以外の要素に基づいてすべての志願者に行い、その後、テストのスコアを提出した学生には第2次審査を行う計画であった。

しかしそうすると、裕福でテストを十分に活用できる学生にとっては、合格を掴み取るための「2度目の機会(second look)」が与えられることになるが、「SAT」を十分に受けることできない学生たちにとっては入学へのチャンスが平等に与えられているとは言いがたいということになる。

米ニュースチャンネルのCNNは「University of California System cant use SAT and ACT tests for admissions, judge rules」のなかで、高等裁判所判事のブラッド・セリグマンが「恵まれない学生や、テストにアクセスできない障がいを持つ学生には『2度目の機会』が否定されることになる。したがって、結論としてはテストは全面的に廃止になる」と述べたと伝えている。

また今回の裁判でとりわけ重要な争点となったのは、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、通常であれば年に7回開催されている「SAT」テストのいくつかの日程がキャンセルとなり、またテスト会場も限定されたことで、特に障がいを持つ人々が「SAT」を受験することが困難になってしまったという問題だ。奇しくもコロナ禍が社会的な不公正を顕在化させた形となった。

原告団の代理人を務めたアビゲイル・グラバー弁護士が、ロサンゼルス・タイムズの「UC must immediately drop use of the SAT and ACT for admissions and scholarships, judge rules」という記事のなかで述べているところによれば、点字による試験や手書きの小論文が書けない人のためのコンピューターなど、様々な背景を持つ障がい者が平等に試験を受けることができるようにする措置は、高校のテストセンターでのみ利用可能であったが、現在はコロナ禍の影響で利用できなくなっているという。

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コロナ禍で障がいを持つ人々が「SAT」を受験することが困難になっている(Unsplash)

また「SAT」テストにおいて障がい者用の措置を受けるためには、障がいを持つ生徒であるという認定を高校のカウンセラーから受ける必要がある。しかし、カリフォルニアの公立学校では十分な数のカウンセラーが配置されているとはいえず、またパンデミックのあいだは高校のカウンセラーに会うことが困難なため、措置を受けるための書類を手に入れることができないという問題もあると、グラバー弁護士は指摘している。

判決は他の州にも波及するか?

カリフォルニア大学は「裁判所の判決には失礼ながら同意しかねる」と声明を発表。「今回の差止命令は、適切かつ包括的なアドミッションポリシーを実施するための大学の努力や、多様な背景や経験を持つ学生を惹きつけて入学させる大学の力を妨げる可能性がある」とし、今後さらなる法的措置が必要かどうかを検討中だとしている。

対して原告側の弁護士マーク・ローゼンバウム氏は「この歴史的な判決は、カリフォルニア州の多くの有色人種の学生、障がいのある学生、そして低所得世帯の学生からカリフォルニア大学への入学の公平な機会を奪っていた人種差別的なテストに終止符を打つ」とロサンゼルス・タイムズで述べている。

アメリカでは去年、セレブな親たちが高額の賄賂で子供を名門大学へと不正入学させていたスキャンダルが発覚したが、その際に話題になったのも「SAT」などの共通テストであった。いま入試制度をめぐる公平性の問題には大きな注目が集まっている。

今回のカリフォルニア州での判決の影響が、これから全米へと波及していくだろうという見方も十分にできる。アメリカの入試制度に大きな変動の時がやってきているのかもしれない。

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