
400年の歴史を持つ有田焼。その伝統的なイメージを打ち破るブランドが、日本のみならず世界で注目されている。仕掛けたのは家業を継いだ、元銀行員の当主だ。
現代の料理や室内に合う有田焼を
新緑のように爽やかな緑、桜のごとく可愛いピンク、金属器のようにシャープな銀と金。「アリタポーセリンラボ」の器を見て、これが日本伝統の白磁器「有田焼」と俄かに信じられない人は多いことだろう。
歴史的には「伊万里」と呼ばれていた有田焼は、通常は釉薬を塗ったつややかな白磁に赤、青、金で文様や動植物を描いたものが多い。
「デザインや使う技術は伝統的な有田焼が基本です。ただ色やパターンを変えることで、現代の料理や室内に合う有田焼ができるとおもったんです」
そう語るのは「アリタポーセリンラボ」当主の松本哲さん。1804年創業「弥左ヱ門窯」を興した松本弥左ヱ門から数えて7代目に当たる。
20億円の借金を整理するところから家業を引き継いだ元銀行員という、異色の経歴の持ち主。ダウントレンドの伝統に倣っていては自社が持たないというのっぴきならない事情から、現代の生活に合う有田焼と、問屋に頼らずに直販するビジネスモデルを考案し、文化的背景の異なる海外に商品を出品した。
釉薬を筆塗りで調整することで白をマットな質感にし、文様柄はモノトーン化、金を焼き付ける伝統技法をプラチナの溶液で広範囲に使用することで、ルックを一変した。
この有田焼が最初にアメリカで注目を集める。そして日本人バイヤーが逆輸入的に東京で展開したことで、有田焼という文脈から離れて「アリタポーセリンラボ」が船出した。

アシッド・ジャズのノリで
以降、松本さんは、東京暮らし時代に影響を受けたというアシッド・ジャズのノリで伝統をミキシング。商品バリエーションが増えると、東京、ヨーロッパの高級料理店からも注文が舞い込んだ。
今年11月からはカジュアル・ブランド「apl」をスタート。絵付けはなく、「アリタポーセリンラボ」らしいマットな白にシャープなドレープやピンとした面取りが入る。素材にはあらかじめ釉薬を混ぜ込んだ独自開発の陶土『天白』を使用。釉薬と素焼きの行程をスキップできることで、エネルギー消費量を従来比50%も削減。エコロジカルという点でも新地平を切り拓いている。まさに進化する有田焼である。
文=鈴木文彦 写真=ARITA PORCELAIN LAB、山下亮一
(ENGINE 2023年1月号)
鈴木文彦