
雲取山より見える早朝の富士山(撮影:兎山 花)
「東京都で最も高い場所」をご存じだろうか。それは奥多摩に存在する標高2,017mの雲取山である。そして、その山頂には知る人ぞ知る激レアな“遺構”がある。それが「原三角測点」だ。
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およそ150年前、明治時代初期に設置されたそのポイント、「原三角測点」は、今でも登る人を迎えてくれる。
今回は関西から夜行バスと電車、路線バスを乗り継ぎ、鴨沢バス停(標高540m)より約5時間半かけて登った、1泊2日の雲取山登山をレポートする。
■「雲取山」公共交通機関でのアクセスが良好な東京都最高峰

日本百名山 雲取山頂より(撮影:兎山 花)
雲取山は日本百名山のひとつで、東京都の最高峰。天気がよければ山頂から南方向に富士山が見え、山頂には東京都と埼玉県が統一した立派な新標識が設置されている。
公共交通機関を利用してのアクセスが便利で、奥多摩駅から路線バスに乗り、約35分で登山口近くのバス停「鴨沢」に到着する。鴨沢より30分ほど歩くと登山道入り口だ。
10月下旬から11月初旬にかけての紅葉シーズン中、カラマツやブナが黄葉した黄金色の雲取山は特に美しく、登山道入り口にある登山者駐車場はかなり混雑する。
■七ッ石山の山頂に祀られる「平将門」の7人の従者

七ッ石神社の裏にあるのは、平将門の7人の従者が化身した大岩(撮影:兎山 花)
登山口よりしばらく、小袖山の巻道を徐々に高度を上げながら上っていく。堂所(どうどころ)と呼ばれる場所あたりから尾根道になり、鴨沢バス停より約3時間で七ッ石小屋に到着する。通年営業している山小屋でテント場や水場、トイレが利用できる。
七ッ石小屋から先、雲取山へは七ッ石山(標高1,757m)を経由するルートと巻道ルートに分かれ、筆者は上りに巻道ルート、下りは七ッ石山頂を経由して下山した。なお、2つのルートはその先のブナ坂と呼ばれる場所で合流する。
七ッ石山頂には「平将門」の7人の従者が化身したと言われる大岩が、七ッ石神社の真後ろに祀られている。また、この七ッ石山頂には東京都が設置した立派な道標が設置されていた。

七ッ石山頂にある立派な道標(撮影:兎山 花)
■ブナ坂より緩やかな稜線歩きの登山道

ブナ坂と呼ばれる広い鞍部(撮影:兎山 花)

ゆるやかな登山道(撮影:兎山 花)
七ッ石山頂ルートと巻道ルートの合流点、ブナ坂は広い鞍部(あんぶ)となっており、休憩適地となっている。ここからしばらくはゆるやかな稜線歩きとなるが、40分ほど歩くと小雲取山への急坂の登りがやってくる。
小雲取山(標高1,937m)まで約30分ほどかけて登ると、雲取山頂まであと一息、再び緩やかな稜線歩きとなる。赤い屋根の「雲取山頂避難小屋」が見えてきたら、山頂はすぐそこ。宿泊可能な雲取山荘は山頂よりさらに奥、20分ほど下った場所にある。

トイレもある雲取山頂避難小屋(撮影:兎山 花)
■レアな「原三角測点」が現存する雲取山頂
現在の三角点は、国土地理院の前身となる陸軍陸地測量部によって設置されたものだが、陸軍が測量を行う前の明治初期1877年(明治10年)頃は、内務省地理局によって測量が行われていた。そのとき設置されたのが「原三角測点」である。
1888年(明治21年)に創立された陸軍陸地測量部は、軍用の地図作成を目的として測量を行っていた。そして、新しい三角点を設置する際に、「原三角測点」を撤去したされているが、なぜか国内に3か所だけ残された場所があり、その一つが雲取山山頂だ。
筆者が山頂に立ったとき、三角点が3つもあることがとても不思議だった。あとで調べてみると、2つはレアな「原三角測点」とその「補助点」であり、雲取山に残されている「原三角測点」は、現在の一等三角点の前身となる「内務省大三角点標石」だということがわかった。
なぜ、雲取山の山頂の「原三角測点」は撤去されず残されたのか。意図的なのか、たまたま撤去し忘れただけなのか。筆者にはわからない。しかし、現在も明治の遺産として日本が大切にしているものであることが感じられた。
■下山後におすすめ「留浦の浮橋」

留浦の浮橋にある公衆トイレ(撮影:兎山 花)
翌朝、山頂からのご来光と富士山を見たあと、下山を開始。登りは七ッ石小屋より巻道ルートを利用したので、下りは七ッ石山頂を経由し、約4時間弱で鴨沢バス停に到着した。このバス停から奥多摩方面に10分ほど歩くと「留浦(とずら)」バス停がある。
留浦バス停の近くには、奥多摩湖(ダム湖)があり、ダム湖建設時に水没した道の代わりに、設置された浮橋の一つが「留浦の浮橋」だ。
その名の通り、橋が湖面に浮いているので、水位が低下すると通行止めとなり、渇水時には浮橋が外されることもある。珍しい橋なので、時間に余裕があれば立ち寄ってみるのもおすすめだ。また、奥多摩駅方面行きの路線バスの本数も、鴨沢より留浦の方が若干多い。
留浦の浮橋を見学した後、再び筆者は路線バスと電車を乗り継ぎ東京駅まで戻り、東京駅発の夜行バスに乗り込み翌朝、京都駅に到着した。
■雲取山は、計画と準備を整えて登ろう

路線バス、西東京バスに乗って鴨沢へ向かう(撮影:兎山 花)
都心からアクセスがよく、登山道や道標もしっかりと整備されている雲取山であるが、往復の累積標高差は約2,000mあり、上りの所要時間も5時間半と長い。また、秋口の山頂の気温は低く防寒着や手袋も必須である。登山する際は事前の健康管理に気をつけしっかりと事前準備をし、装備を整えてから臨もう。
兎山 花