
Huluオリジナル『THE SWARM/ザ・スウォーム』©︎Intaglio Films GmbH / ndF International Production GmbH / Julian Wagner / Leif Haenzo ©SchwarmTVProductionGmbH&CoKG
深海SFサスペンス『THE SWARM/ザ・スウォーム』のHulu独占配信がスタートした。製作総指揮を務めるのは、これまで『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011年~2019年)をはじめ、多くのエミー賞を獲得してきたフランク・ドルジャー。彼の制作会社Intaglio Filmsを中心に、Hulu Japanやドイツ、フランス、イタリアなどの放送局が共同制作する国際的なプロジェクトとなった本作は、ヨーロッパのテレビシリーズ史上最大級の制作費をかけていることでも話題の超大作だ。
【参考】『THE SWARM』を製作総指揮が語るインタビュー全文
SNSでは、「面白くて一気観した」「緊張感がたまらない」という声も聞こえる本作。ここではHuluでの配信開始に先立って行われたドルジャーのインタビュー内容を交えながら、『THE SWARM/ザ・スウォーム』の魅力を紐解いていく。
■美しく圧倒的な力強さを持つ海
本作で目を引くのは、海の表現だ。「海をキャラクターとして描くことにこだわった」とドルジャーが語るとおり、海は場所によって違う表情を見せる。遊覧船が浮かぶカナダの穏やかな海、夏でも朝方や天気の悪い日には、暗く荒れるスコットランドの海。ドルジャーは「屋外のシーンはなるべく海に近いところで撮影し、視覚や音からも海の存在を感じられるように工夫した。海のシーンは、場所によってビジュアルやサウンドを全く異なるものに変えている」と語る。こうした工夫によって、我々視聴者は常に海の存在を意識させられる。
本作を「自然災害によるパニックを描くディザスターものではなく、モンスターものとしてアプローチすると決めていた」という言葉通り、クジラやシャチが人間を襲う様子はまさにモンスター映画だ。「海というものが美しくも危険な場所であり、人間よりもはるかに力強い存在であるということを表現したかった」という映像はまさに圧巻。SNSでも「海中の不気味さ、なにか起きそうな禍々しさが良い」「海の底から何者かが見上げている映像にゾクッとする」と、圧倒されている声も多い。
■多様なバックグラウンドを持つキャストが集結
本作の原作は2004年に刊行されたドイツの作家フランク・シェッツィングによる小説『深海のYrr(イール)』だが、20年前の小説をドラマ化するにあたって、科学的なアップデートはもちろん、キャラクターにも改変が行われている。原作は年配の男性科学者が多かったが、ドラマではリアルな現状に合わせ、様々な年齢・性別・バックグラウンドのキャラクターが登場する。
メインキャラクターの1人で、若きクジラ学者レオン・アナワクを演じるのは、カナダ先住民のバックグラウンドを持つジョシュア・オジックだ。彼は漁師や遊覧船を襲ったシャチやクジラの調査を進めるにしたがって、海全体に異変が起きていることに気づく。また海洋生物研究所(IMB)の研究員で大学院生のシャーロット・“チャーリー”・ワグナーを演じるのは、Netflixシリーズ『ザ・クラウン』(2016年~)などで知られるドイツ出身のレオニー・ベネシュ。彼女はスコットランドでメタンハイドレートの異常な大量発生を発見し、IMBでの調査開始のきっかけとなる。こうした若いキャラクターを配したことについて、ドルジャーは「若い世代の中には、環境に対するダメージがあまりにも大きすぎて、希望がないんじゃないか、もう何をしても無駄なんじゃないかと思っている方もいると思う。そんな方々にも、作品を見終わった後に、まだまだ私たちにもできることがある、と感じてもらえればうれしい」とその狙いを明かしている。
彼ら若き研究者を導く先達となるキャラクターには、各国の実力派キャストが集結。チャーリーを指導するカタリーナ・レーマン教授役は、カンヌ国際映画祭女優賞など、数々の受賞歴を誇るバルバラ・スコヴァが演じている。レーマン教授の厳しくも海の調査に真摯に向き合う姿には、威厳がにじみ出る。『スパニッシュ・アパートメント』(2002年)や『ヒア アフター』(2010年)で知られるセシル・ドゥ・フランスが演じるのは、フランスの分子生物学者セシル・ローシュ。彼女はレストランのシェフが死亡したのをきっかけに、水道水を汚染する猛毒細菌の調査に挑む。そのほかにも、ノルウェーの石油会社から調査を依頼される海洋生物学者シグル・ヨハンソン役に、映画『ラスト・リベンジ』(2014年)などへの出演で知られるアレクサンダー・カリム。天体物理学者のサマンサ・クロウ役には『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年)などのシャロン・ダンカン=ブルースター、調査船トヴァルセン号の船長ジャスパー・アルバン役には『帰ってきたヒトラー』(2015年)などのオリヴァー・マスッチらが顔を揃える。日本からは、科学者たちを金銭的に支援するミフネ財団の会長アイト・ミフネ役で木村拓哉が出演。ドルジャーは「木村さんについてはハッとさせられた部分が3つあった。1つ目は年齢を重ねていて大人の成熟した権威を表現できる感性、2つ目は知性が感じられること、最後にスクリーン上の存在感だ」と語る。
『THE SWARM/ザ・スウォーム』では基本的に英語でストーリーが進むが、各国の科学者たちはそれぞれの国のアクセントのある英語を話し、シーンによってはその国の言葉で話すのも、“国際的な作品”としてのリアリティがある。
■真に国際的な作品とは
自身の制作会社を設立したとき、ドルジャーにはやりたいことが2つあったという。1つは国際的なプロジェクトを手掛けること、もう1つは現代を舞台にした作品を作ることだ。『THE SWARM/ザ・スウォーム』は望んでいたとおりの新しい挑戦となった。彼は「会社設立時に、“国際的な企画とは、場所やキャストよりも、その題材がより多くの国の人々にとってインパクトがあり、感情面に響くかどうかが重要だ”と言った」と語る。地球規模で取り組まなければならない環境問題を扱っている点でも、本作は真に国際的な作品と言えるだろう。
劇中の出来事は、リアリティを持って我々視聴者に恐怖を与える。現実でも、世界の多くの国が協力して問題の解決に動く必要がある。本作で、科学者たちが追う海の脅威の正体は一体なんなのか。そして、それに対して人類にはなにができるのか。3月18日に配信される第4話以降でも、こだわりの映像やキャラクター、そして物語の行方に注目していきたい。
(瀧川かおり)
瀧川かおり