田島木綿子「海獣の死体が発するメッセージを聞き逃さないよう、刑事のように粘り強く調べていく」

田島木綿子「海獣の死体が発するメッセージを聞き逃さないよう、刑事のように粘り強く調べていく」

  • 婦人公論.jp
  • 更新日:2021/10/14
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海獣学者の田島木綿子さんは、クジラやイルカがどこかの海岸に打ち上げられたと聞くと、すぐさま現場へ向かい、死体の調査を行っているそうです。これまでの研究活動で解剖した個体はなんと約2000頭! 彼らの死因を探ることで見えてくるものとは――。(構成=野本由起 撮影=上重泰秀)

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死因を知ることで私たちにできることを模索する

日本の海岸には、年間300頭ものクジラやイルカが打ち上げられているのをご存じでしょうか。私は国立科学博物館の研究員として、海獣の調査を行っています。「クジラがストランディング(漂着・座礁)した」と電話が入れば、すぐさま全国各地へ出動。自治体が粗大ゴミとして処理する前に「ちょっと待った!」と協力をお願いし、解剖に着手します。

その目的は標本収集。解剖した個体から骨格標本やはくせいを作り、研究・展示・教育普及に役立てているのです。胃の残留物も「標本になるかも」と思えば宝物。何ひとつ捨てられません。

こうした海獣学者の仕事と、海の哺乳類たち――クジラのほかにシャチ、イルカ、アザラシ、ラッコ、ペンギンなどの知られざる生態を、資料写真や挿絵を入れてまとめたのがこの本、『海獣学者、クジラを解剖する。』です。

学者といっても、体力とスピード勝負。時には10メートル超のクジラを、血と汗にまみれながらクジラ包丁を使って手作業で解体するので過酷な重労働です。そのうえニオイのまぁ強烈なこと!

それでもこの仕事を続けるのは、海の哺乳類が海岸に打ち上がる原因を知りたいから。彼らはなぜ死んだのか、そこに人間の生活は影響していないのか、死因を解明し、私たち人間にできることを模索したいのです。

20年以上の研究活動で解剖した個体は約2000頭。なかでも印象深いのが、2018年に行った国内初のシロナガスクジラの解剖です。なにしろ絶滅危惧種ですから一生に一度あるかないか。この死体が母からはぐれた赤ちゃんクジラだったのは残念に思いましたが、研究者冥利に尽きる経験でした。

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田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』山と溪谷社1870円

「人間は生物の一種にすぎない」と気づくことが第一歩

海岸で解剖中、地元の方々が見物に集まってくることも。心臓や脳を見せると、みなさん興味津々。子どもは、海獣のうんちやおちんちんの話をすると大喜びします(笑)。そんな「即席教室」も教育活動の一環です。

海獣の死体が発するメッセージを聞き逃さないようねばり強く調べていく仕事は、刑事に似ている感覚も。

近年は海洋汚染が深刻化し、海獣の胃からプラスチック片が見つかることも珍しくありません。海洋プラスチックの約7割は河川から、つまり私たちの生活圏から流れてくるそう。「持続可能な社会を作ろう」と提唱されているなか、レジ袋をやめてもプラ素材のエコバッグをいくつも使っていては本末転倒ですよね。

人間は特別な存在ではなく、地球上の生物の一種にすぎません。そう気づく謙虚さが、環境を改善する第一歩だと思っています。

田島木綿子

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