セレブなし、放送なしでひっそりと開催 新会員が内部から見た第79回ゴールデングローブ賞

セレブなし、放送なしでひっそりと開催 新会員が内部から見た第79回ゴールデングローブ賞

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  • 更新日:2022/01/15
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テレビ中継やネット配信はなく、ひっそりと開催された第79回ゴールデングローブ賞 (c)Hollywood Foreign Press Association. All Rights Reserved

現地時間1月9日に行われた第79回ゴールデングローブ賞は、NBCによるテレビ中継もネット配信もなく、主催のハリウッド外国人記者協会(Hollywood Foreign Press Association = HFPA)の公式サイトとSNSでの発表という、異例の授賞式となった。授賞式会場のビバリー・ヒルトン・ホテルには、HFPA会員と、各賞のプレゼンターを務める映画に関する非営利団体や慈善団体、映画祭などの関係者が集っていた。出席するには3度のワクチン摂取と、48時間以内のPCR陰性証明が必要で、式典中は配布されたマスクの装着が義務付けられた。

参考:『ドライブ・マイ・カー』が非英語映画賞に 第79回ゴールデングローブ賞受賞結果を総括

今年の北米映画賞レースは、オミクロン株の感染拡大から延期や中止が相次ぎ、混乱を見せている。現地時間3月27日に開催予定の第94回アカデミー賞授賞式は、昨年のロサンゼルス・ユニオン駅からハリウッドのドルビーシアターに会場を戻し、ここ数回は各賞プレゼンターを充実させることで担っていたホストも復活させる。もちろん、ABCによるテレビ中継も行われる。

ゴールデングローブ賞に関する日米の報道を比べると、大きな隔たりがある。アメリカでは、スターが勢ぞろいする豪華な“ハリウッド最大のパーティ”を売り文句にしていたゴールデングローブ賞が、セレブリティの出席も放送もなくひっそりと授賞式を行うことを揶揄したものが多く、日本では濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が日本映画として62年ぶりに非英語映画賞を受賞したことを報じるものがほとんどだ。

HFPAがハリウッドにキャンセルされた理由と経緯は、2021年5月の記事(参考:窮地に立たされたゴールデングローブ賞 数々の暴露やボイコット、批判などを時系列で解説)で書いた。その後、筆者プロフィールにもある通り、2021年10月からHFPA会員となり、第79回ゴールデングローブ賞の投票権を得た。会員になった理由はいくつかあるが、最も大きいのは、小さな存在であるいち外国人がハリウッドの核心に近づくには、ほかに手立てがないから。このスキャンダルを好機と捉えて覇権を握ろうとしている放送映画批評家協会(Critics Choice Association = CCA)が新しく設立した外国人記者部門にも応募したが、HFPAの新会員発表報道直後に「貴殿の入会は認められません」とのお断りメールが届いた。

アメリカにおける報道の傾向は、国外のメディア向け報道を行う外国人記者によるHFPAと、アメリカのメディアで映画批評を行う米国人ジャーナリストたちを擁するCCAの対立構造によるものだと気がついた。組織内で共有される事実と異なるニュースが報道されることもあった。リアルサウンド映画部で書いた記事は、執筆時に信頼のおける情報機関の記事をもとに構成したが、その中には憶測や根拠不明の情報を含む記事もあったのだろうと反省した。賄賂授受は双方が責任を問われる問題なのに、受賞の冠欲しさに便宜を働いていたスタジオに対するお咎めの論調は見られない。権威ある有名メディアの報道も、事実検証もなしに「HFPAは記者とは呼べない外国人による組織」としている。「黒人会員が皆無」と人種問題を議論する記事内で外国人差別を平然と行う、ミイラ取りがミイラになる状況が起きている。

さて、ゴールデングローブ賞受賞結果に話を戻そう。受賞結果についての速報はこの記事(参考:『ドライブ・マイ・カー』が非英語映画賞に 第79回ゴールデングローブ賞受賞結果を総括)にあるので、抜粋と総評を。映画カテゴリーの最多受賞は、ドラマ部門作品賞、両部門共通の監督賞(ジェーン・カンピオン)、助演男優賞(コディ・スミット=マクフィー)を受賞した『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と、ミュージカル/コメディ部門作品賞・主演女優賞(レイチェル・ゼグラー)、両部門共通の助演女優賞(アリアナ・デボーズ)の『ウエスト・サイド・ストーリー』が制した。毎年、ゴールデングローブ賞の「ドラマ部門」「ミュージカル/コメディ部門」の部門分けが混乱を生むが、今年はミュージカル部門と呼ぶにふさわしい作品が同部門最多受賞になった。最多ノミネーションだったケネス・ブラナーの『ベルファスト』は脚本賞のみの受賞にとどまった。

『ベルファスト』は、ヨーロッパ出身のジャーナリストが多いHFPA好みの作品だが、テーマやモノクロの映像はアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』(2018年)を思い起こさせた。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が時代を越えて醸す時事性との共鳴や、ジェーン・カンピオン監督の強靭な演出力には敵わなかった。昨年の監督賞には受賞のクロエ・ジャオほか、レジーナ・キング(『あの夜、マイアミで』)とエメラルド・フェネル(『プロミシング・ヤング・ウーマン』)の3名が候補に挙がっていた。今年は下馬評でも良い位置につけているジェーン・カンピオンが受賞したが、『ロスト・ドーター』のマギー・ギレンホールがノミネートされたことが印象的だった。アカデミー賞では脚色賞で評価を受けそうだが、初監督ながら役者の生理に寄り添ったギレンホールの円熟味のある演出は称賛に値する。

『ベルファスト』や、映画カテゴリーのドラマ部門主演女優賞の二コール・キッドマン(Amazon Prime Video『愛すべき夫妻の秘密』)などがHFPAらしい選択ならば、“らしくない作品”が選ばれた受賞結果もある。テレビシリーズセクションのリミテッド・シリーズ/テレビ映画部門作品賞に選ばれた『地下鉄道~自由への旅路~』(Amazon Prime Video)は、バリー・ジェンキンス監督が全10話を演出した意欲作で、ノミネートされたリミテッドシリーズ部門の5作品どれもが傑作揃いの中での栄光となった。今作や、『POSE/ポーズ』(Netflix)でMJ・ロドリゲスがドラマ部門主演女優賞を受賞し、作品そのものや主演のイ・ジョンジェの露出が目立つ『イカゲーム』(Netflix)で狂言回し役を務めた77歳のオ・ヨンス(イ・ヨルナム役)にドラマシリーズセクション共通の助演男優賞が授けられたことは大きい。ドラマをしっかり観ていなければ、彼を評価するのは難しいからだ。投票側として、候補作の多さに唖然とした非英語映画賞で『ドライブ・マイ・カー』が受賞したのは大きな喜びとともに驚愕でもあった。なぜなら、『ドライブ・マイ・カー』は試写もLAでの上映劇場数も決して多くなく、デジタルで観られるようになったのはノミネーション投票締め切りの数日前だった。

HFPAに入会すると、厳格な行動規範に署名し倫理講習受講が義務付けられる。入会から投票までの2カ月間は、1票の重みを最大限活かすために、ひたすら候補作を鑑賞した。受賞結果には投票した作品もそうでない作品も含まれているが、この大きなハリウッドの映画産業の末席に参加できるようになったのは、外国に暮らしフリーランスで働く小さな存在にとって、とてつもなく大きな意味を持つ。HFPAの設立は、1940年代にロサンゼルスを拠点に取材活動を行っていた外国人記者たちが、ハリウッドの俳優や映画をまともに取材させてもらえない状況を打破するために行われた。今年で第79回を数えるゴールデングローブ賞が大きな注目を集めるようになったのは、1960年代からテレビ放送を行ってきたNBCが番組制作にも介入した90年代初頭から。団体設立から80年あまりの歳月で、映画賞のあり方も映画をめぐる状況も大きく変化した。賞レースが映画マーケティングの大きな位置を占めるに連れて、投票権を持つ者の傲慢が歪んだ組織を作り上げた。特にこの2年間のパンデミックは、映画館で上映する作品と配信作品の垣根をなくしてしまった。各スタジオは、媒体を使った広告展開からSNS主導の拡散方式でのプロモーションに注力し、ゴールデングローブ賞だけでなく全ての授賞式番組の視聴率が落ちている状況もある。

HFPAは、権利と権威を取り違え重大な過ちを犯した。過去の言動を消すことはできないが、信頼を取り戻すためにできること、すべきことはたくさんある。同時に入会した計21名の新規会員は投票者全体の1/5を占め、今年のノミネーション・受賞結果に十分な影響を与えたと考えることもできる。今後、HFPAとゴールデングローブ賞がハリウッドにおいてどんな道を進んでいくのか、膨大な数の候補映画とドラマシリーズを鑑賞しながら、しばらく内部から観察してみようと思っている。(平井伊都子)

平井伊都子

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