
『ブギウギ』写真提供=NHK
朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)の第8週「ワテのお母ちゃん」、時代は昭和14年になった。この年の9月、ナチス・ドイツがポーランドに侵略したことをきっかけに第二次世界大戦が勃発。日本ははじめのうちはこの大戦には不介入の立場を取っていたものの、その年の5月に当時の満洲国付近でソビエト軍と紛争を起こし、それ以前から日中戦争が続いていたため、戦時下ではあり、すでに大戦の渦中にいたとも考えられる。この頃になると戦争は国民の生活にも影を落とし始め、米などの食料品が配給制になるという噂になっていた。
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戦争はそれまでの人々の暮らしを一変させてしまう。歴代の朝ドラでも、戦中、戦後の様子が描かれ、悲嘆に暮れる暇もなく、1日をなんとか生きるしかないという経験をしているヒロインもいる。時にはそれが今後の人生を決定づけることだってあるのだ。
『ごちそうさん』(2013年度後期)のヒロイン・め以子(杏)は食べることと作ることが好きな女性だったが、戦争時の炊き出しを機に周囲から「ごちそうさん」と呼ばれるようになり、料理を人に振る舞うことに喜びを見出し始める。戦時中は「お国のために」と動き出す周りに合わせて節約をしたり、何かを我慢したりすることが多くなる。め以子も食材が入手困難になりつつある中、「贅沢は敵」という婦人会の指示通りに小学校に差し入れを作った。しかし、不味すぎて返品されてきた料理を目の前にしため以子は、どんな時でも美味しい物を人に食べさせる決意を固め、牛肉のステーキを大量に焼き、家族と近隣住民に振る舞った。この行動を皮切りにめ以子は、闇市で露店を出してあらゆる物を美味しく調理し、繁盛させ、貧しい戦後をたくましく生き抜いた。
戦後の焼け跡の中で、子どもを抱えながら涙を流していたのは『べっぴんさん』(2016年度後期)のヒロイン・すみれ(芳根京子)だ。服飾商社の娘として生まれたすみれは、はっきり言ってお嬢様気質。それを良くも悪くも大きく変えたのが戦争である。幼なじみの紀夫(永山絢斗)と結婚したすみれだが、すぐに夫に召集令状が届き、離れ離れに。なんとか家を守ろうとしていたが空襲によって自宅も焼失してしまった。そんな状況でも生きていかなければならない。幼なじみの潔(高良健吾)から自力で商売をすることを勧められたすみれは得意だった手芸を生かして、雑貨を売り始めた。売り上げが思うように伸びないこともあったが、来店する客をよく観察し、ニーズを察知したすみれは、次第にベビー用品を売るようになり、それが巡り巡って子供服メーカー「キアリス」という会社になっていくのであった。
夫が戦争に赴くことになってしまうが、最終的には復員し、夫婦での幸せな生活が見えるこの2作に比べて、『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期)はより壮絶。初代ヒロインの安子(上白石萌音)は、戦争により夫・稔(松村北斗)と離れ離れになってしまう。しかも母と祖母を失い、父はショックで寝込んでしまう。安子は父を元気付けようとおはぎを作り、焼け野原に上りを立てて、実家の和菓子屋「たちばな」を再建させようとする。この時受け継がれるあんこが物語のキーアイテムとなっていく。
『ブギウギ』では、スズ子(趣里)自身が表現者として「お国のため」に駆り出されていく。羽鳥(草彅剛)の妻・麻里(市川実和子)は「生きることが芸の肥やし」と言うが……。一方で大阪で赤紙に喜ぶ六郎(黒崎煌代)の姿が切ない。スズ子たちが生業にする芸能は、非常時にはまっさきに“不要”とされるものでもある。「心ズキズキ ワクワク」な物語が描かれてきた本作は、戦争をどんな視点で見つめていくのだろうか。
(文=久保田ひかる)
久保田ひかる