山あいの暮らし...住民出資の会社が守り支える 全世帯で設立15年、商店とGS経営 兵庫・神河町

山あいの暮らし...住民出資の会社が守り支える 全世帯で設立15年、商店とGS経営 兵庫・神河町

  • 神戸新聞NEXT
  • 更新日:2022/06/23

白く輝くススキの群生地で、映画のロケ地としても知られる砥峰(とのみね)高原の麓に、かつて国が中山間地再生の成功例に挙げた集落がある。兵庫・播磨の北端、但馬との境に位置する神河町長谷(はせ)地区だ。300超の全世帯が出資し、株式会社長谷を2007年に設立。小さな食料品店を経営するなど、住民の手で自らの暮らしを守ってきた。設立から15年。集落も住民も歳を重ねた同地区で、地域を守る最後のとりでとして、買い物や働き口、医療など、生活基盤をどう維持しているのか。住民たちの今を取材した。(段 貴則)

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お薦め商品を手に接客する大森正人さん(右)=神河町長谷

■全世帯で設立15年 商店、GS経営

梅雨入りした6月14日の朝、JR播但線長谷駅周辺の山並みには、深い霧がかかっていた。駅近くの県道沿いでは、長谷地区で唯一、食品や雑貨を扱う店舗であるコンビニエンスストアとガソリンスタンド(GS)の開店準備が進んでいた。いずれも全国ブランドの看板を掲げているが、コンビニには「村営ふれあいマーケット長谷店」の屋号も記されている。

「開店は午前10時だけど、お客さんがいれば9時には開ける。休みは正月三が日くらいだよ」と、同店の店長・大森正人さん(71)。コンビニもGSも地区住民たちが設立した「株式会社長谷」が運営する。屋号を「村営」としたのは「集落みんなの店」という思いを込めた。

JR社員だった大森さんは生まれも育ちも地元長谷。株式会社長谷に出資し、店で働き、客として買い物もする。「JR時代に切符を売ったこともあったけど、コンビニの仕事は勝手が違う。狭い店だから、あれもこれもと商品を増やせない。何を置けば売れるかが難しい」と笑う。

店があるのは駅近くといっても、砥峰高原まで10キロ、「天空の城」として人気の竹田城跡(朝来市)からは30キロという山あいの集落。観光客も来店するが、客の多くは地元の高齢者だ。

近所から週に2日は買い物に来るという高齢者が来店すると、大森さんが買い物籠を持ち、ダイコンなど地元の野菜を並べた売り場で、お薦め商品のアピールを始めた。「ここはみんなの店だけど、必ずうちで買い物をしてとまでは言えない」。何とか来店客を増やそうと知恵を絞る。

高齢者向けには、調理せずに食べられる商品の仕入れに力を入れる。中でも刺し身が人気という。また、週2日は地区内を巡る送迎車を運行する。「いつも乗車する住民の姿が見えなければ、家まで行って声を掛けることもある」という。

最近は、記録的な円安に加え、ロシアによるウクライナ侵攻に伴う物価高が、山あいの小さな店にも影を落としている。「何でも価格が上がっている。魚そのものもだけど、パックやラップまで」。客の財布のひもが固くなることが店長として気がかりだ。

6月中旬の週末、娘と来店した主婦(48)に記者が声を掛けた。「普段はスーパーに行き、急に必要になった食材を買うのに、この店をたまに利用する」という。それでも「レジの人も顔見知りでほっこりするし、高齢者には近くにあるという安心が一番。ずっと続けてもらわないと困る店かな」。小さな店が買い物や交流の場として地域に根付いている。

■コンビニ加盟、送迎車運行…努力重ね

住民たちが自ら株式会社長谷を設立した背景には、小型スーパーとガソリンスタンド(GS)の撤退に伴い、住民の暮らしが立ちゆかなくなるという危機感があった。

2007年、地区内のスーパー2店舗とGSの撤退が決定。住民有志でつくる「長谷地区の振興を考える会」が話し合いを重ね、各店を引き継ぐことにした。任意団体ではGS経営ができないため、株式会社を設立することにしたという。

地区の全世帯が1万円ずつ出資し、住民が社長や役員に就いた。翌08年、スーパー2店とGSを開業。店舗建て替え費用などは、水力発電所誘致で得た基金などから工面した。ただ経営は厳しく、酒販免許取得に向け、増資したほか、スーパーのうち、長谷店は品ぞろえを強化し、店舗運営を効率化するため、コンビニチェーンにも加盟した。

長谷の社長は、考える会の会長が兼ね、両組織で地域を支える。考える会メンバーでもある前嶋茂徳さん(67)も週2日、村営ふれあいマーケットの送迎車を運転する。「先代の人から引き継いで6年くらい。住民が減り、乗るお客さんも少なくなって、集落内をパトロールしているようなもんだけど」と笑う。

人口減や高齢化は、地域の支え手にも及ぶ。考える会メンバーで一番若い世代の前嶋さんは「お節介が好きだから、まだまだ送迎車の運転を続けたい」と話している。

【小さな拠点づくり】中山間地などで日常生活圏の維持を目指す国の施策。住民主体の地域運営組織が行政などと役割分担しながら、生活サービスの集約や地域資源を生かした仕事の確保に取り組む。マイカーが運転できず、買い物に行けない高齢者を対象に送迎もする商店の経営など、取り組みはさまざま。神河町長谷地区は、国の事例集や報告書でも紹介され、視察されることも多かったという。

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