〝虎〟の快進撃は「春の夢」か「黄金期の始まり」か コロナ禍で阪神に有利な材料も

〝虎〟の快進撃は「春の夢」か「黄金期の始まり」か コロナ禍で阪神に有利な材料も

  • AERA dot.
  • 更新日:2021/05/04
No image

打撃好調のサンズ/(c)朝日新聞

「あかん阪神優勝してまう」。ツイッターを開けば、この言葉を見ない日はない。タイガースが3、4月を首位で駆け抜けた。新人・佐藤輝明の期待に違わぬ怪力ぶりに安定した投手陣――。ファンはやや困惑しながらも、16年ぶりの優勝に期待をふくらませる。

(1)サトテル効果

まず、断っておくと、近年の阪神は決して弱くはない。昨季は2位。一昨年は3位ながらクライマックス・シリーズでDeNAを破り、最終ステージまで進んでいる(巨人に完敗したが)。

そのうえで、「今季の虎は違うぞ」とムードを一変させたのは、4球団競合の末、近大からドラフト1位で入団した佐藤輝明にほかならない。

豪快なフルスイングで4月29日現在、チームトップタイの7本塁打を記録する。9日のDeNA戦では、横浜スタジアム右中間席の上にある「鳩サブレー」の看板を越える場外本塁打も放った。その一方で、リーグでダントツの43三振。まさに本塁打か三振かという打者だ。

速球で執拗(しつよう)に胸元を攻められ、苦しんでもいるが、投手出身のあるチームスタッフはこう話す。

「投手からしたら、あれだけのフルスイングをされたら怖いですよ。かといって、新人に四球でもいいという配球は、プロのプライドからできないし」

相手バッテリーは逃げるわけにはいかず、しかし、少しでも甘く入ればスタンドまで持っていかれる危険があるというわけだ。

27日、佐藤輝は中日のエース・大野雄大から初対戦で本塁打を放った。その後の打席で四球。明らかなボール球だった。

「正直に言っておきますけど、力み倒しましたね。嫌でしたね」

そう昨季の沢村賞左腕に言わしめた。

「サトテル効果」は、周りにも伝播(でんぱ)している。

宿敵巨人を相手に5本のアーチを東京ドームでたたき込んで打ち勝った20日、佐藤輝自身には本塁打は出なかった。だが、井上一樹ヘッドコーチは「佐藤輝はあれだけ三振をしても、あれだけ強く振る。空振りをしているけど、みんなは見ている。俺も振ろうぜという気持ちにさせているのかもと思う」。

新人の恐れぬ姿勢が先輩に勇気を与え、131得点はリーグトップ、31本塁打は巨人に次ぐ2位だ。

(2)九回打ち切り

近年の阪神の持ち味は充実した救援陣だ。昨季の救援陣の防御率はリーグ1位。セーブ王スアレス、セットアッパー岩崎優の2人は盤石だ。

ここで鍵になるのが、「九回打ち切りルール」。今季は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、延長戦が行われない。早めに自慢の中継ぎ投手を投入していける。

「早めに仕掛けるのは九回打ち切りではありえる。つぎこんでも遜色ない投手陣。惜しみなくいきたいという気持ち」と矢野燿大監督。

先発陣も、開幕投手を務めた藤浪晋太郎は2軍落ちしたものの、全体的に安定している。結果としてチーム防御率2・77で堂々の1位だ。

九回打ち切りには、もう一つの利点も。阪神は昨季まで失策数が3年連続12球団ワーストと、拙守が課題だった。

今季は左翼手サンズ、一塁手マルテら「打力優先」の選手を、打席が九回までには回ってこなさそうとみるや、ベンチは次々と守備固めに代えていく。延長戦があったらできなかった策だ。

(3)フロントも◎

コロナに関連して、もう一つ、阪神にアドバンテージがあったのは、他球団と違い外国人選手がそろっていたことだろう。7本塁打の5番サンズ、6本塁打の3番マルテ、そしてチームトップの4勝をあげている先発のガンケルに、守護神スアレス。

彼らの共通点は昨季も阪神でプレーしていたこと。コロナの影響で各球団とも新外国人の合流は遅れたが、球団は早めに再契約を済ませ、サンズらも1月中に来日、2月のキャンプからシーズンへの準備を積めた。

即戦力主体のドラフト指名も成功した。新人は佐藤輝以外にも、ドラフト2位左腕・伊藤将司(JR東日本)が先発で2勝、同6位の中野拓夢(三菱自動車岡崎)が俊足好打で遊撃手のポジションを奪う勢いだ。

(4)ファンの思い

4月を首位で終えたことで、阪神ファンたちは「今年はいけるんちゃうか」と、そわそわし始めている。

ただ、気になるデータがある。前回首位で4月を終えたのは2008年。実はこの年、7月上旬に2位に13ゲーム差をつけたが大失速し、巨人の逆転を許した。8月の北京五輪日本代表に現監督の矢野、藤川球児、新井貴浩が招集されたことも響いた。

「ミスター・タイガース」掛布雅之さん(65)の時代から甲子園に通う東大阪市の会社員男性(63)は、「確かに08年みたいなこともあるからわからん。けど、今年のオリンピックには阪神は選手とられへんやろうから大丈夫や!」。

一方、応援したいファンにもコロナの影響は覆いかぶさる。元々、今季は応援で声出しは厳禁。六甲おろしも歌えないうえ、一目だけでも姿を見たいと思ってもかなわない。緊急事態宣言が大阪、兵庫で発出され、甲子園も無観客での開催を余儀なくされた。

東大阪市に住む自営業の女性(66)は「悲しいわ。いつになったら入れるんや。弱い阪神なら来て応援したいとは思えへんかもしれんけど」。

大津市の会社員男性(33)は「店も球場もあかへんかったら、関西経済まわらへん。阪神好調で、みんなお金使いたいのに。ほんまやったらもう道頓堀に何人も飛び込んでるやろうにな。それもできひん」。

球団にとっても無観客開催は痛手だ。グッズショップも閉じている。グッズ担当の職員(32)は「ぼくらに限らず小売業はどこも……」。

ただ、大きく虎の顔がド派手にプリントされたユニホームは、オンラインショップで予想外に売れているという。

「『大阪のおばちゃんみたい』と発表したときには賛否両論でしたが、チームがそれを着て勝つので良い印象がついたようで」

思い返せば、春の沖縄キャンプの打ち上げで選手会長の近本光司は力強く言った。

「チームは今年から黄金期に入ります」

好調阪神が今いるのは春の夢か、それとも黄金期の入り口か――。

「令和の禁酒令」が出ている昨今だが、秋には晴れて勝利の美酒に酔いたいとファンたちはひたすら願っている。

(朝日新聞・内田 快)

※週刊朝日5月21日号に掲載

内田 快

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加