大本営地下壕、東京裁判、三島由紀夫事件“大人の社会科自由見学”を体験したオバ記者「見る前と後の私は別の人」

大本営地下壕、東京裁判、三島由紀夫事件“大人の社会科自由見学”を体験したオバ記者「見る前と後の私は別の人」

  • NEWSポストセブン
  • 更新日:2023/09/19
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「防衛省見学ツアー」に参加した“オバ記者”が思ったこと(写真/GettyImages)

防衛省見学ツアーに参加した『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子。地下壕や東京裁判の法廷など“兵どもが夢の跡”を見て思ったこととは──。

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「何にでも食いつくダボハゼ女」と陰口を叩かれたことがある。夢も希望もウエストもあった20代初めの頃で、早い話、男と見れば見境いなく飛びつくという悪口よね。そのときは「ひどいっ」と怒ったけれど、やっていることはキャッチ&リリース。66才のいままでずっと独身ということは、私は“ツガイ”に向かなかったんだよね。

しかし「ダボハゼ」とはよくも言ったな、と最近思うんだわ。つい先日、「防衛省見学ツアー」に参加したんだけど、朝霞駐屯地(東京都練馬区)まで「自衛隊体操」を習いに行ったこともあるし、富士山の麓に「富士総合火力演習」を見に行ったことも2度ある。目の前でヘリが飛び、実弾が目標地点に撃ち込まれ、隊員がヘリから降りる演習はそりゃあもうすごい迫力よ。

こういうイベントに参加していると何かの拍子に言うと、「ふ〜ん。オバってそっち側の人なんだ」と冷めた目で見られたりするんだけどね。「そっち」ってどっち? 自衛隊と聞いただけでソッポを向く人が「あっち」だとしたら、確かに私は「そっち」か。

チャンスがあれば何を差し置いても自衛隊の行事を見たいという食いつきのよさはダボハゼ性分のせい? それとも、世が世であれば“国防婦人”になりたかったの? いやいや、そんなたいそうなことじゃないね。ただ面白いからよ。自衛隊や国会議事堂、刑務所など国家機関の施設を見ると、必ず心に刺さることに出くわすんだもの。

先日の防衛省見学ツアーもそう。実はこれ、わが地元・茨城県笠間市の自衛隊家族会の見学ツアーの一環で、私はそのお世話係として参加したわけ。衆議院会館の議員事務所でアルバイトをしていると、国会案内とか憲政記念館までの引率とかいろいろな仕事があるんだけど、防衛省は初めてだ。

市ヶ谷の防衛省に着いて真っ先に案内されたのが、この7月から一般公開されるまで歴史の底に眠っていた「大本営地下壕」なの。

「そうか。日本一の防空壕ってことだね」「防空壕って入ったことあるの?」「再来年は戦後80年だねぇ」なんて小声で言い合いながら説明を聞く。そして、白いヘルメットをかぶって、いよいよ入場。

地下壕の中は小型のトンネルといった感じだけど、染み出た地下水で床は水浸しだし、薄暗くて、なんかもぅ居るだけで歴史の圧を感じるんだわ。

開戦した1941(昭和16)年に掘られ始めたというから、きっと手掘りだよね。それをコンクリートで固めていくのは、気の遠くなるような作業よ。それで戦争が始まると、大本営陸軍部・陸軍省・参謀本部がこの地下に置かれたというんだけど、切ないのが炊事場よ。どんなに緊迫した場面でも、人はお腹が空く。だけど地下壕では火が使えないから、外から送ってきたお湯の蒸気で温めたものを食べたのだとか。

で、その後、向かったのが市ヶ谷記念館なんだけど、この建物には見覚えがある。三島由紀夫事件でバルコニーから自衛隊員に向かって檄を飛ばした後、切腹自殺を図ったというニュースに中2の私は衝撃を受けたっけ。

「はい。切腹はこの部屋で起きました。この柱の刀傷は、切腹するという三島由紀夫を助けようと自衛隊が部屋に入ろうとしたとき、それを止めた楯の会の人が刀を振り下ろした跡です」と女性案内人は淡々と話すけれど、むむむ。いま自分がその現場にいると思うと、金縛りにあったみたい。身動きが取れなくなった。

続いて、極東国際軍事裁判(東京裁判)の法廷になった大講堂に進み、旧軍の資料や制服などの展示物を見て回った。それにしても軍服の美しさといったら何て言ったらいいのかしら。金のテープが袖いっぱいに大きな模様を作っていて、見惚れてしまう。

「えっ?」と思ったのが、簡素なサンドベージュ色の軍服の胸から下にかけてある、3mmほどの横穴、目をこらして見たら、絹の糸をきっちりと巻いて作ったループで勲章をかける“留め”のようなものなのよね。地味な布地に赤・青・白・金、色とりどりの勲章がここについたらさぞや美しいだろうな。このループをここまで見事にできる職人さんがいまでもいるのかしら……。洋裁好きな私はそんなことを考えていた。地下壕、東京裁判、三島由紀夫事件。“兵どもが夢の跡”を見ていたら、「もぅいいよ」という気分になって、こういう職人のゆるぎない営みに心を寄せたくなったんだよね。

そして、こうしたインパクトの強い大人の社会科自由見学をすると、いつも思うの。見る前と見た後の私は別の人だと。それまで漠然とイメージしていたことが、必ず崩されるんだもの。それだけ「見た」ということは心に大きな爪痕を残すんだと思う。それが何か、さあ言えと急かされても、口の中に重い鉛を入れられたようで言葉にならないんだけどね。少なくとも、「戦争反対」なんて気軽に言えないって。

【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。

※女性セブン2023年9月28日号

NEWSポストセブン

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