大手出版社が19億円請求「漫画村」の根深い問題

大手出版社が19億円請求「漫画村」の根深い問題

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/08/06
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小学館、集英社、KADOKAWAの出版大手3社が被害を訴える漫画17タイトル。請求額が最も大きいのは『YAWARA!』など小学館の7作品10億円。集英社『ONE PIECE』など大人気シリーズも含まれている(記者撮影)

混沌の漫画市場に、秩序はもたらされるか。

小学館と集英社、KADOKAWAの出版大手3社は7月28日、出版コンテンツの海賊版サイト「漫画村」の運営者に対し約19.3億円の賠償を求め、東京地方裁判所に提訴した。

漫画村は2016年に開設され、漫画を中心に7万巻超の出版コンテンツを違法に掲載。閉鎖された2018年4月までの1年弱だけで、アクセス数が5億回を上回る、当時最大の海賊版サイトだった。

閲覧回数に応じて広告収入を得る無料サイトとして、2017年11月には月間で6000万円強を売り上げたとの推計もある。2019年にはサイト関係者の4人が、次々と著作権法違反などで逮捕された。サイト運営者は2021年に福岡地裁で有罪判決が確定した。

コンテンツが「タダ読みされた」損害

ただ、今回提訴した3社は刑事責任のみならず、自社コンテンツが「タダ読み」された損害を民事でも追及することで、海賊版の抑止を図る構えだ。

損害賠償額は漫画村のアクセス数から推計した1巻当たりの平均閲覧数と販売価額をかけ合わせて算出。最も請求額が大きいのは『YAWARA!』など7作品が掲載された小学館で約10億円。集英社は『ONE PIECE』など2作品で約4.8億円、KADOKAWAは『ケロロ軍曹』など8作品で約4.5億円を請求する。

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3社は「(漫画家から)作品を預かっている出版社にとって、漫画村運営者の民事的責任を明らかにすることは、現実的な回収可能性をおいても避けることのできない責務」とコメントした。

漫画村は、アクセスのほとんどが日本からだったが、「日本と国交がなく、著作権が保護されていない国で運営しているため、違法ではない」と主張。連絡窓口も設けられていなかったことから、権利者が削除要請をできないまま、タダ読みされた被害額が3200億円に上ったとされている。

2018年に入り、国会で海賊版についての議論が加速。政府から海賊版サイトに対する緊急対策案が発表され、悪質サイトの閲覧防止措置も検討された結果、漫画村は閉鎖に追い込まれた。

出版科学研究所によると、2021年の漫画市場は6759億円で過去最高を更新。正規ルートの電子コミックが社会に定着し、活況を呈している。しかし、海賊版による被害額は1兆0019億円と、正規市場をはるかに上回る規模に膨張した。

背景には巣ごもり需要だけでなく、漫画村が残した影響が透ける。まず、世界中の悪徳業者に「日本人向けに漫画の海賊版サイトを作れば、膨大なアクセスを集められる」と知らしめることとなった点だ。

海賊版対策を取りまとめる業界団体・ABJの伊東敦氏は「漫画村の運営者は日本に住んでいたが、現在はほとんどのサイト運営者が海外在住」と危機感を募らせる。

「漫画村」を機に海賊版サイトが急拡大

ユーザーにとって敷居の低いモデルを生み出した点も大きい。漫画村以前の海賊版サイトは、コンテンツをダウンロードする形式が主流だった。一方、漫画村はよりスマートフォンで利用しやすいストリーミング形式を採用。この「漫画村モデル」が普及することで、ユーザーの裾野は急拡大。「漫画村は海賊版サイトの終焉ではなく、跋扈(ばっこ)の始まりだった」(伊東氏)。

現場の出版関係者も、悲痛な訴えを上げる。「海賊版によって著者の利益が失われ、『漫画家って儲からないよね』と志望者が減ってしまえば、大ヒット漫画の芽を摘むことになる。将来、損をするのは読者だ」(漫画雑誌の元編集長)。

今後、出版大手は国内外を問わず、訴訟や削除要請などの法的措置を加速する方針だ。ただ、足元で漫画の海賊版サイト数は1000に上る。また、動画サイトやSNSでの投稿など、海賊版コンテンツのあり方は多様化しており、いたちごっこに終わりが見えない。

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大手出版社をもってしても、海賊版の撲滅は難航している(記者撮影)

問題解決へ重要性を増すのが、政府を巻き込んだ国際連携だ。足元でベトナム系のサイトが増加する中、外務省が2021年の首脳会談で海賊版対策における連携認識共有を図り、警察庁はベトナム当局と捜査を推進するなど、すでに省庁をまたいだ対策が始まっている。

IT大手の助力も欠かせない。国内では検索サービス大手のヤフーが1月、海賊版サイトへの対応について有識者会議を開くなど、協力姿勢が鮮明になっている。

総務省の海賊版対策の検討会では米グーグルへのヒアリングも進んでおり、著作権法などに詳しい弁護士は「海外のIT大手にも、国を挙げて対策を求める流れになっている」と明かす。

漫画村問題が訴訟で節目にさしかかってもなお、収束のメドが立たない海賊版。官民一体の体制を整え、撲滅に向けた対策が加速するのはこれからとなりそうだ。

(森田 宗一郎:東洋経済 記者)

森田 宗一郎

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