突然鳴ったインターホン。ドアの前に立っていたのは...恋人との時間をブチ壊すまさかの人物

突然鳴ったインターホン。ドアの前に立っていたのは...恋人との時間をブチ壊すまさかの人物

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  • 更新日:2021/01/19

「大好きだから、あなたみたいになりたい」

そんな言葉とともに、

なんでも話せる女友達に、姿形も、仕事も、恋人も、全てコピーされ、人生を乗っ取られてしまったら…。

恋も仕事も順風満帆。充実した毎日を送っていた夏絵(33)と同じ会社に、恵理(28)が入社してくる。

それは、女の日常に潜む地獄の始まりだったー

◆これまでのあらすじ◆
恵理がデートに乱入してきた翌日、夏絵は寝坊をして大遅刻をしてしまう。夏絵の代わりに大事なプレゼンを任された恵理は、大成功を収め、クライアントの信頼を得た。そんな中夏絵は社長室に呼び出され…

▶前回:「たった一回の過ちで…?」恋も仕事も順調なはずの女に下された、ありえない決定

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夏絵の婚約者の智樹は、29歳。夏絵より4歳年下で、付き合い始めて1年半になる。

智樹が中途で入社してきてから、その展開は早かった。夏絵はあまり恋愛に積極的なタイプではないが、なぜか智樹とは自然と惹かれ合ったのだ。

智樹は、一言でいうと、天真爛漫なタイプ。明るく朗らかで人懐っこい。少々能天気で、楽天的すぎる面があるが、まじめで神経質な部分のある夏絵にとっては、智樹の全てが眩しかった。

―あの天性の明るさは、生まれ育った環境かな。

と、時折思う。智樹は老舗食品メーカーの御曹司なのだ。一族が牛耳る大企業の家に長男として生まれ、生粋のおぼっちゃまとして育っている。

御曹司の中にはその立場を重荷に感じてかどこか陰のある印象の青年もいるが、一方で智樹のような“底抜けに明るい”タイプも少なくない。

「最初から家業には入らず、一度は社会に出て社会経験と能力を身につけること」が一族の方針で、智樹もその方針に従って、新進気鋭のベンチャー企業に息巻いてやってきたのだ。

―もうすぐ智樹と家族になれる。

夏絵は想像するだけで胸が踊った。きっと笑顔が絶えない家庭が築ける。智樹は間違いなく優しくて子煩悩な父親になるだろう。そんな風に想像してしまうのは気が早いのかもしれないが、でも、33歳の夏絵は悠長なことも言っていられない年齢だ。

―子育てのために、少しキャリアから離れることになるかな。

それはそれで、受け入れよう。そんな覚悟すらたやすくしてしまうほどに、智樹との日々は幸せなことばかり。

そんな智樹が、夏絵の前ではじめて顔を曇らせる。

「彼氏のふりをして、デートをしてほしいって言われたんだ。恵理さんに」

語られる智樹の決意とは?

「それはちょっと、違うんじゃないの?」

これまでの夏絵だったら、黙り込み、少し考えた後、「よく考えたら?」「それが彼女のためになるかな」など、曖昧なことを言っていただろう。

でも、恵理に対する不信感が募る今、さすがの夏絵も脊髄反射でそう答えていた。

夏絵の対応に一瞬たじろいだ智樹だが、すぐにほっとしたような表情を見せる。

「そうだよね。断ってよかった。協力すれば良いのにって、夏絵さんに言われたらどうしようかと思ったんだ」

「そう…」

夏絵も胸をなで下ろす。相談ではなく、すでに断ったのだと聞いて安堵した。ただ、これ以上この話を続ける気にならず、口をつぐんだ。

今日は結婚の日取りや新居のことを決めるために、夏絵のマンションに智樹が来ていた。

雨の土曜日で、昼間から薄暗い。明日まで雨が降り続くと言う予報で、気持ちも晴れなかった。低気圧のせいで頭の奥がずっしりと重く、結婚情報誌のページをめくるのすら億劫だ。

数カ月以内に籍を入れる予定ではあるが、大勢の人が集まる機会を避けなければならないこの状況下で挙式の予定は立てづらい。ただ、大企業の御曹司なのだ。本来であればそうもいかなかっただろう。

―挙式はしなくて良いの?それとも延期?だからといって、盛大な披露宴ができる日なんて何年先になるのかわからない…。

子供は?新居は?考えれば考えるほど、年上の自分は本当に結婚相手として歓迎されているのだろうか、という不安が押し寄せる。

「夏絵さん、大丈夫?」

表情を曇らせていることを察してか、智樹が心配そうに夏絵の顔を覗き込む。

「ごめん…。せっかく一緒に過ごせる週末なのに。考えることが多くて」

「プロジェクトも、予想外の展開になったしね…」

智樹は、夏絵の仕事について気にかけてくれた。現場の戦力としてではなくプロジェクトの管理者に回ってくれと、社長の大島に言われたのは先週の話だ。

「大島さん、恵理ちゃんのこと買ってるみたいだし。評価されてて、私も嬉しいよ。逆に管理者側なんて、責任重大」

そう言った瞬間、胸が締め付けられ、キリキリと胃が痛み出す。

名目的には夏絵を立てているようにも感じるが、大切なプレゼンの日の遅刻に対するペナルティーなのは間違いない。いわば、懲罰人事にあったのだ。

―たった一度の遅刻で、こんなことになるなんて…。

これまで築いてきた大島との信頼関係が、たった一度のミスで崩れてしまったということが、悔しく、悲しい。

そして、大島の傍で「私が責任持ってプロジェクトを引っ張るので、夏絵さん見守っていてくださいね」と言い放った恵理。その満面の笑みがあまりに不気味で、脳裏に焼き付いている。

「…こんな雨の中引越しだなんて大変だね」

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窓の下を見下ろしながら、智樹がポツリと言った。なんの気無しに夏絵も智樹の横に並び、窓の外に目をやる。

マンションの下にトラックを横付けし、引越し業者がずぶ濡れになりながら家具を運び込んでいる。

「季節外れの引越しだね」そんなことを話しながら、夏絵は智樹に甘えるように肩に頭を乗せた。智樹は夏絵の不安や寂しさを感じ取って、そっと夏絵の髪を撫でる。

そのときだった。ピンポンと、チャイムが響く。「俺が出るよ」と言いながら智樹がインターホンに向かった。

隣人の正体はまさかの…

「夏絵さん、引越しの挨拶に来たって」

「え?わざわざ、挨拶?」

「うん。隣の部屋だからって…。女の人だよ」

女性なら、と思って夏絵は玄関に向かう。そして、ドアを開けた瞬間、そのあまりにも信じがたい光景に心臓が止まりそうになった。

「夏絵さん。お隣に引っ越して来ちゃいました。今日からよろしくお願いします」

目の前に現れた恵理は「隣の部屋がたまたま空いてるなんて、本当に運命ですよね」と上ずった声で言う。

ただただ言葉を失っている夏絵に向かって、恵理は続けた。

「夏絵さん、お部屋のインテリアもすっごいオシャレだから、同じ家具や小物もネットで探して見つけたんですよ。私、すごくないですか?そっくりのお部屋に住めるんです」

そう頰を紅潮させる恵理は、夏絵のように髪をココアブラウンに染め、夏絵が愛用しているのと同じロエベのトートバッグを持ち、夏絵と同じバレンシアガのスニーカーを履き、夏絵と同じブレゲの腕時計をつけている。

ぎょっとして視線を落とすと、夏絵が昨日変えたばかりのネイルアートも一緒だ。淡いコーラルピンクのグラデーションに、薬指にだけゴールドのスタッズを1つ乗せている。

―何?この子、一体なんなの?

身につけているものを全て真似されて、しかも隣の部屋に引っ越して来た?

全身が総毛立ち、言葉が出ない。恵理はそんな夏絵の目の前で笑顔で「これ、お近づきの印に…」と小さな紙袋を押し付けてくる。

反応がない夏絵を見て不思議そうに首を傾げた恵理は、夏絵の肩の向こうに目をやった。

「あ。智樹さぁん。これからはお隣同士、よろしくお願いします!」

その甘ったるい声を聞いた瞬間、夏絵の中で何かが崩壊した。

「…出てって」

「え?」

「来ないで!私の目の前から消えて!!」

「どうしたんですか、夏絵さん。ひどい…。私、夏絵さんが喜んでくれると思ってサプライズのつもりだったのに…」

恵理は両手で顔を覆って声を震わせた。

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「どうせ嘘泣きでしょ!早く出てって!」

夏絵は自分の感情がコントロールできないことに恐怖を感じた。それでも、もう湧き出した言葉を抑えることは出来なかった。

「夏絵さん、そんな言い方しなくても…。恵理さんは夏絵さんのことを驚かせたかっただけみたいだし。ねえ、恵理さん」

背中越しに、智樹が恵理をかばう声が聞こえる。もう、限界だった。いや、とっくに限界を超えていたのを、なんとかごまかしながらやってきたのだ。

さまざまな感情が溢れ出し、夏絵は怒号を上げた。

「出てって!!二度と私の前に現れないで!!」

恵理はわぁっと泣き声を上げ、ドアを開けて部屋を去っていく。

「夏絵さん、変だよ…」

そう言い残し、智樹が恵理の後を追った。ドアを閉めるバタンという音が無情に響く。

―智樹まで…。

夏絵は崩れ落ちるように、その場に膝をついた。

―あの子がおかしいの?それとも私がどうかしちゃったの?

「智樹、行かないで。…智樹」

夏絵は、冷たい玄関に座り込みながら、ただ、愛する人の名前をすがるように呟くことしかできなかった。

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恵理の暴走はさらに加速し、次に手を出したものは?

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