「キロノバ」を伴うガンマ線バーストは“宇宙のものさし”となれるか?

「キロノバ」を伴うガンマ線バーストは“宇宙のものさし”となれるか?

  • マイナビニュース
  • 更新日:2020/11/22
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理化学研究所(理研)は11月19日、新星の約1000倍の明るさで突発的に光る天体現象「キロノバ」と同時発生する「ガンマ線バースト」が、人類史上最長の“宇宙のものさし”、つまり宇宙の距離を測る「標準光源」として有効であることを発見したと発表した。

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同成果は、理研数理創造プログラムのマリア・ダイノッティ上級研究員、同・長瀧重博副プログラムディレクター、ポーランド・ヤゲロニアン大学 物理・天文・応用計算学科のアレクサンダー・レナルト学部生、伊・フェデリコ2世・ナポリ大学物理学科のジョセップ・サラチ―ノ博士課程学生、サルバトーレ・カポチエッロ教授、メキシコ国立自治大学 天文学科のニシム・フレイジャ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、天体物理学雑誌「The Astrophysical Jounal」に日本時間11月26日にオンライン掲載される予定だ。

宇宙では、遠方の天体になるほど、正確な距離を測るのが難しくなる。天の川銀河に属していても、地球から離れた天体になると地球の公転を利用した三角測量ができなくなり、距離の幅が出てくる。まして系外銀河ともなると、さらに計測は難しくなるのはいうまでもない。

そうした遠方の銀河までの距離は、現在の天文学では、白色矮星が起こす爆発現象の「Ia型超新星」など、標準光源と呼ばれるいくつかの種類の天体(天体現象)を利用して距離が見積もられている。その仕組みは、標準光源の天体は絶対光度(真の明るさ)がわかっており、また宇宙のどこであってもほぼ同じ明るさで輝くことから、遠方であればあるほど暗いということが成り立つ。つまり、見かけの明るさが真の明るさよりもどれだけ暗いかによって、距離を計算することができるのである。

しかし、Ia型超新星も観測できる距離の限界がある。およそ110億光年が最遠とされ、そこからさらに先となると、地上にしろ宇宙にしろ現在の望遠鏡の感度ではIa型超新星を標準光源として利用できなくなってしまう(それ以上の遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている)。

そこで注目されているのが、ガンマ線バーストだ。同現象は、突然大量のガンマ線が放射される、宇宙で最も明るい天体現象のひとつだ。そのエネルギーは非常に強力であり、その数秒の輝きだけで太陽が一生の間に放出するのと同等のエネルギーが放出されることなどが理解されている。

このガンマ線バーストは、110億光年以上先の、Ia型超新星が標準光源として利用できない超遠方でも観測されていることが大きなポイントだ。つまり、同現象を新たな標準光源として利用できれば、人類は宇宙を測定する「最長のものさし」を手に入れられることになり、110億光年よりも先のより初期の宇宙までの正確な距離を測れるようになる。宇宙の進化を理解するのにも大きく役立つと期待されているのである。

ただしガンマ線バーストは、標準光源として利用するには課題もある。同現象は1967年に初めて観測され、現在ではNASAのニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称「スウィフト」)衛星のようなガンマ線バースト観測衛星まで打ち上げて研究が進められているが、多くの謎が残されたままだからだ。

ガンマ線バーストには、継続時間が10秒程度の長時間型と、1秒程度の短時間型があり、長時間型は非常に大きな恒星の爆発、短時間型は中性子星などのふたつのコンパクトな天体の合体とする仮説が唱えらているが、結論は出ていない。そのほか、ブラックホール、高速回転する強磁場中性子星など、さまざまな説が唱えられている。謎が多く残っている理由は、突発的かつ短時間に起きる現象であり、またほぼ単発の現象であることから、観測が容易ではないことが大きい。

そして、謎多きガンマ線バーストに関連すると考えられているのが、これもまた突発天体現象であるキロノバだ。こちらは可視光や赤外線で観測される突発天体現象で、新星(ノバ)の約1000倍の明るさに達することから、キロノバと呼ばれる。

同現象は、中性子星のような超高密度天体同士が合体した後の爆発により生じ、その際には短時間ガンマ線バーストが生じると考えられている。実際、2017年8月17日には、連星中性子合体に伴う重力波と短時間ガンマ線バースト、そしてキロノバがほぼ同時に検出され、そこからガンマ線バーストとキロノバを関連付けた研究が本格化した。

ガンマ線バーストでは、ガンマ線の放射(即時放射)が消えた後に、X線の残光が残る(残光放射)場合がある。この特徴は、すべての同現象に共通しているわけではないが、同現象を複数のグループに分類した場合、いずれかのグループに普遍的な特徴であれば、条件を満たしたガンマ線バーストの一部を標準光源へと導くカギとなる可能性があるという。

2016年、ダイノッティ上級研究員らは、ニール・ゲーレルス・スウィフト衛星で観測された183個のガンマ線バーストを解析。「X線残光プラトーフェーズの継続時間」、「X線残光プラトーフェーズ終了時のX線光度」、「即時放射中におけるガンマ線光度」を3軸に取った3次元物理空間に同現象の物理量のプロットが行われ、データがひとつの平面に集まるという法則を明らかにした。

ダイノッティ上級研究員らはこの平面に対して「ガンマ線バーストの基本平面」と命名し、この法則を用いると絶対光度を求められることから、同現象を標準光源として使用できる可能性が大きく高まったとした。

なお補足すると、ガンマ線とX線は波長による明確な区分はなく(X線よりもさらに波長が短いものをガンマ線とする傾向はある)、原子核内部起源であるものがガンマ線、それ以外のものがX線として区別されている(エネルギーが同じなら区別をつけられない)。ただし天文学では若干捉え方が異なり、エネルギー的にX線よりもガンマ線の方が高いという位置付けがほぼ確定している。

ガンマ線の波長はおおよそ1兆分の1以下で、X線は1兆分の1~1億分の1程度。エネルギー的にはガンマ線は100万eV以上、X線はおおよそ100万~100eVとされている。高エネルギー天文学は可視光や赤外線、電波などと比べると観測が技術的に難しい。その中でも、比較的観測しやすいエネルギーの低い領域をX線として扱うようにしたようである。

そして今回の研究に話を戻すと、さらにガンマ線バーストのサンプル数を増やし、ニール・ゲーレルス・スウィフト衛星で観測された372個のデータが活用された。同現象の特定のグループが、基本平面からどの程度ズレているのかの詳細な解析が実施された。

その結果、「キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バースト」は短時間ガンマ線バーストの基本平面からのズレが小さく、かつ基本平面の下側に分布することが判明。その一方で、キロノバを伴わない短時間ガンマ線バーストはズレが大きく、基本平面の上下に分布することがわかった。キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストのズレは、キロノバを伴わない短時間ガンマ線バーストに比べて29%も小さく抑えられていたのである。

さらに、さまざまなガンマ線バーストのグループの中で、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストのグループは、基本平面からのズレが最も小さいことも確認された。これらの結果は、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストが標準光源として優れた性質を持つことを示しているという。

さらに、ガンマ線バーストの宇宙論的進化(同現象が示す物理量が宇宙年齢とともに規則的に変化している可能性)やサンプルの選択バイアスを考慮した場合でも、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは、短時間ガンマ線バーストの基本平面からのズレが非常に小さいことも解明された。この補正が小さいことからも、キロノバと同時発生する短時間ガンマ線バーストは標準光源として非常に良い特性を備えているといえるとした。

キロノバと同時発生するガンマ線バーストを距離指標に使用することの大きな利点は、同現象のほかのグループと比較して、物理的メカニズムをより明確に理解できる点だという。上述した2017年8月27日の連星中性子星合体では、重力波とガンマ線のほかにも、可視光、赤外線、電波など、マルチメッセンジャーで同時観測された。それにより、同イベントがまさにふたつの中性子星が合体して起こった現象であり、その結果として短時間ガンマ線バーストとキロノバが引き起こされたことが明らかとなったのである。

今後、さらに詳細な理論研究や追加観測により、キロノバと同時発生するガンマ線バーストの物理的メカニズムが明らかになることが期待され、今回の研究の経験則に物理的基盤が与えられると考えられるとしている。

今回の研究成果は、ガンマ線バーストという人類史上最長の宇宙の距離を測定する"ものさし"が実現可能であることを示したものだ。このものさしは、遠方宇宙のより正確な観測はもちろん、宇宙そのものの進化を理解する上で重要な役割を果たすことになるという。つまり、ガンマ線バーストを用いた宇宙論が開拓される可能性があり、今後、同現象を用いてダークエネルギーやダークマターに関するエネルギー密度の推定できる可能性まであるとしている。

波留久泉

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